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The girl's omnipotence.  作者: KENNZAKI
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第1話

 ショートの黒髪、三白眼の女子高生。

 明日華は好奇心が強かった。

 屋上と言うワードにひかれたことがある。フィクションの世界では一匹狼みたいなキャラクターがわが物顔でいたり、内向的な女の子が一人で大量の弁当箱の中身を殻にしていたところをばったり目撃することがある。

 なので行ってみた。屋上に。

 常識的に考えて、屋上への扉は鍵がかかっているし、先生に理由を話しても鍵を貸してくれるわけがない。

 だから、自分で開けてみた。ピッキングで。

 季節は春。

 照りつける太陽と程よく涼しい風が吹く。

 結論、何もなかった。

 一匹狼がいるわけでも、大食い少女がいるわけがなかった。

 興味本位のことだったのでさほど期待は抱いていなかったが、それでがっかりするところはある。


三白眼の少女の後ろにはで毛先が桜色な白い長髪の少女が立っていた。


そんな夢物語があるわけないか……。

少女が振り向いた先には、白い紙の少女が目と鼻の先に顔を近づけ、一瞬だけ口先を重ねた。


???⁉⁉


三白眼の少女は膠着する。

背後にいた少女+目を見張るほどの美人+宝石のように輝く瞳+いきなりキスをされた。

これら四つのことを徐々に理解していき、顔が沸騰したのかと思うほど赤く色を変え、固まった体を無理やり動かすように後ずさった。


「こんにちは」

「……へぁ……」


「あの~、その~……出てもらっていただけると助かるんだけど」

「……」


ルーフファンの後ろに隠れた風美はじっと見て、少女を警戒していた。

「嫌です」

「ど、どうしてかな……」

「……キスしたから……」

「接吻したからかい」

「接吻?」

「キスのこと」

「……そうですね。接吻ですね……」

「さっきのには事情が……」


ぐるるるるる……


どこからかお腹の鳴った音が響く。

「……もう、だめ……」


その場にうつ伏せで長髪少女が倒れこんだ。

「ちょ、ちょっとどうしたんですか!」

人の好さからか、つい飛び出してしまう。

「……ここ最近……何も食べてなくて……」

「そうなんですか」


ぐるるるるるる……ぎゅるるるるる……ごるろろろ……。


「やばい……全然収まんない」

屋上の扉付近に背中を預けてうつ伏せになる。

「さよなら妹よ……。もうちっと長生きしたかったな~」

「あの~」

「武士の情け。静かに眠らせてくだされ」

「食べます」

「ああ、川の向こうから顔も知らない大人たちが……今なんて」

「お弁当あるんだけど、食べる」

「……」

「な、何」

「……女神様」


「はいどうぞ」

お弁当と箸を差し出すと長髪少女が奪い取り、乱暴に食べあげる。

「うまい……うまい……うますぎる」

涙を流しながらの食べっぷりに思わず顔が笑顔に揺らいでしまう。

「ごちそうさん」

「おそまつさまでした」

「おっと自己紹介がまだでした」

生気を取り戻した長髪少女は勢いよく立ち上がり、向き合う。

「私はカーマ。平和の味方っていう感じの仕事をしています」

「平和の味方って……」

「君の名前は」

「……明日華だけど」

「あすかか。ありがとうな。お腹すきすぎて危うく、君のこと食べちゃうとこだったんだよ」

「……私、食べられるところだったんですか」

「うん。おいしそうだったから」

「キスしたのは」

「味見」

徐々に困惑が大きくなった明日華は今一度ルーフファンの後ろに隠れる。

「何で屋上にいるんですか」

考える人ポーズをするカーマ。

「行きたい場所があって」

カーマは明日華に視線を向ける。

「でも意識朦朧としてて、手近なところに着地した」

「着地?」

「着地」

明日華はビシっと立ち上がる。

「それじゃあ私はそろそろお邪魔しますね」

何を言っているのかわからない。

明日華は逃げ出すように屋上の扉に左手を伸ばすが、

「待って」

明日華の右手をカーマが両手で掴む。

「な、なに!?」

「助けてくれたお礼をさせて」

「え、今から」

「うん。すぐ行こう」

「行くってどこに」

「もっと広いところ」

カーマは明日華を引いて抱きしめる。

そこから、明日華を姫様抱っこのように抱える。

「力つよ!?」

「軽い軽い」

「ねえ、降ろし」

「しゅっぱーつ」

「出発ってどこ」

に、と言うとした瞬間、駆け出し屋上の手すりを踏み台にして宙に飛び出す。

「にいいいいいいいい!?」

急な浮遊感に明日華は悲鳴を上げながら、カーマの首に手を回し、話さないようにつかむ。

笑みを浮かべたカーマ。

カーマの体が光だし、風美たちはその光に包まれていった。


『明日華。いつまでも目をつむってちゃ、お礼できないんだけど』

「え」


明日華が目を開けるとそこは光の上にへたり込んでいた。

正確には光輝く巨人の掌の上に、だ。

「えっ、なに、ナニコレ!? どういうこと」

『だから、お礼だってば』

「お礼って言うか……カーマなの」

『うん』

「うんって、軽いよ!」

『そんなにはしゃいでもらって感激だなー』

「はしゃいでるわけじゃ……なんか疲れた」

『それでさ、どこか行きたいと来ない』

「……行きたいところ」

『この状態なら光の速さで飛んでいけるよ』

「どこでも」

『地球は丸いからすぐさ』

「じゃあ、モン⁻サン⁻ミシェルとか見てみたい」

『オッケイ』

明日華を包むように左手の上に右手をかぶせる。

掌の内側からは360度全方位見渡せる光景に明日華は目を輝かせる。

『GO』

巨人の体が地上と水平になり、ロケットのように飛び出した。

巨人の手の中から世界が流れて見えることに風美は唖然としていた。

『到着』

わずか、数秒で目的地に到着。

『こうやって見下ろすのもたまにはいいね』

「……もっと……」

『ん』

「もっと行こう! 行きたいところいっぱいあるんだ!」

非現実なことに直面した明日華は興奮を抑えられずにいた。

カーマは驚いたのか少し間をおいて、

『じゃあ、行きたいところジャンジャン言って』


それから本当にいろいろなところを回った。

万里の長城、カッパドキア、タージマハール、コロッセオ、マチュピチュ、イエローストーン国立公園など。

数えられないくらい世界を飛び回った。

「ねぇ」

『ん』

「この状態でさ、宇宙とか行けたりしちゃう」

『楽勝』

「それじゃあ」

『上に参ります』

カーマは成層圏まで上がるのにそう時間は要らなかった。

「すっご」

『見とれるほどの青さだね』

「カーマ!」

『ん』

「ありがとう」

愉快にお礼を言われたカーマは、

『うん』

嬉しさをこらえずに返答した。


約三十分間。

世界と地球を見て回ったカーマと明日華は学校に降り立った。

光る手を屋上に差し出し、明日華が降りる。

明日華が降りたのを確認すると巨大な光の体は明日華の近くで集まり、カミーラの元の姿で屋上に着地した。

「ありがとうカーマ。すっごく楽しかった」

「それは何よりだ」

「それじゃあ、私は行くね」

「あ、ねぇ」

「んっ」

「明日もさあ、ご飯食べていいかな」

よそよそしく話すカーマに明日華は、

「うん。いいよ。また明日」

笑顔をかえしてくれた。


屋上で一人になったカーマはこぶしを握りしめた。

「やった」

そういって、屋上から飛び降りると光る巨人の姿に代わり、空に飛び立った。

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