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16話・極技解放《Over drive》

『ボクノオモイドオリニナラナイゴミナド、スベテシネェエ……! 』


「うっせえんだよ、クソ野郎が‼︎ 」


 真哉は鏡の盾を構え、大量の酸を吐き出すエビルに向かって躊躇いなく突撃する。

 酸に盾が耐えられるかは分からないが、考えている時間があまりにも勿体ない。

 飛んでくる酸を盾で防ぎ、酸で溶けていく地面に足を取られないようにエビルの足元へスライディングで潜り込んだ。


『ドコニキエタ、アクセイガン……! 』


「こっちだ……、よ‼︎ 」


 エビルが真哉を見失って攻撃が止んだ瞬間、真哉の振るう白銀のバスタードソードの刃は巨大なエビルの脚を紙のように切断してみせた。


『ア"ッ、アシガァアアア……⁉︎ 』


「すっげ……、これで最後! 」


 真哉は悲鳴を上げるエビルの脚を軽やかにステップを刻みながら切断していき、残すは胴体となったところでエビルに変化が生じる。


『ボクハ、ナンドデモサイセイスルゥウ‼︎ 』


 気色悪い笑い声で真哉を嘲笑するように切断した4本足の根元から高速で脚が再生し、一瞬で元通りになってしまった。

 その上体力も回復したのか、エビルは鎌のような腕を持ち上げて挑発するように打ち鳴らしながら無差別に酸を撒き散らす。


「もしもし、桃華さん、桃華さん……⁉︎

 ああクソッ‼︎ 」


 真哉は一向に繋がらない無線機に苛立ち、基本は回避で対処しながら避けきれない酸だけを盾で防ぐ。

 その間にエビルの足を何度も切断してもすぐに再生し、徐々に耐性がついているのか切断に必要な攻撃回数は増え、エビルは弄ぶように酸を吐き続けるだけで一切動かなかった。


『──唐突で簡潔な自己紹介をお許し下さい。

 私は貴方を守護し、救世の力を与えるディアメトの精霊、ローズと申します。』


「……ああ、遠慮なく言ってくれ‼︎ 」


 ローズ、と名乗る精霊が真哉の目の前に現れると麦芽色の髪を靡かせて一礼し、人間離れした美しさというものを見せつけられる。

 尤も、本人曰く精霊なのだから人間離れしているのは当然ではあったが。


ご主人様(マスター)、融合体となったエビルから人間を救う手段がございます。

 ディアメトの極技解放(Over drive)を発動し、エビルを撃破して下さい』


 ローズは説明しながら透明なバリアを展開し、エビルの酸は当たっているにも関わらず一切影響はない。

 エビルの脚を容易く切り裂く剣に酸を何度浴びても平気な鏡の盾。

 それに加えて優秀な美少女精霊と至れり尽くせりの状態だが、真哉はローズの言葉の中にあったJHMSでも聞いたことがない単語に引っかかる。


「融合体に、極技解放(Over drive)……?」


『はい。

 融合体は後に説明しますので、今は極技解放(Over drive)の発動方法のインストールに必要な時間を稼いで下さい』


 バリアは無制限ではないので、とローズが言った直後にバリアは弱まっていき、咄嗟にローズを抱き抱えた真哉は慌てて後方へ飛び退く。

 エビルは酸を吐くだけでそれ以外に動きはないが、酸の被害でグラウンドには巨大なクレーターがいくつも出来上がっていた。

 このままエビルの好き勝手にさせれば、この周辺は人が住めなくなるのは明らかだ。


「時間を稼ぐ、って言ってもまだ人が……! 」


『校舎、グラウンド、駐車場、体育館……

 枝垂中学の敷地内、敷地外2kmの範囲内に人はおりません。

 怪我人の数は不明ですが、命を脅かす程度ではないと思われます』


 真哉はローズの報告を聞いて胸を撫で下ろし、大きく息を吐いてエビルを見据える。

 エビルと戦闘したことはなく、人と融合したエビルなど生まれて初めて見た。

 結が来ないことが気掛かりだが、真哉は目の前にいるエビルを倒すことに集中する。


「──了解。

 考えるのはもう、これで十分だ‼︎ 」


『お願い致します、ご主人様(マスター)


 ローズに背中を押され、真哉は意気揚々とエビルの酸を盾で弾きながら敢えてエビルの視界の死角に移動し、ヒット&アウェイを繰り返すことでエビルを挑発する。

 因みに、真哉の立ち回りはゲームを参考にしており、それが上手くエビルの神経を逆撫

 でして酸を吐かずに無闇矢鱈と腕を振り回していた。


『流石です、ご主人様(マスター)

 惚れ惚れしてしまいます』


「惚れ……、ッぶね⁉︎ 」


 心配事が解消されて調子良く進んでいたからだろう、真哉の脳内で良からぬ妄想が始まろうとした瞬間、真哉は腹部目掛けて横薙ぎに振るわれたエビルの腕を既の所で仰け反って回避した。

 幾ら強化されているとはいえ、可能な限りダメージを受けない方が良いに決まっている。

 冷静になった真哉の表情から笑みは消え、見境なく振るわれるエビルの腕の可動範囲を測りながら黙々と回避を繰りした。


ご主人様(マスター)、発動まであと僅かです。

 もう少しだけお待ち下さい』


「──了解。

 早めに頼むぜ、ローズ」


 額から滝のような汗が流れ、疲労から思い通りに動かない身体に真哉は体力の消耗を実感する。

 ファンタジーのようなノーリスク・ハイリターンは存在せず、それが仮にあっても真哉は自分に与えられることはないと考えていた。


 だが、それを手にするような幸運や奇跡は無いと諦めていたからこそ。


 ──天才の何倍も、無様でも。

 必死になって立ち続けなければならない。


「来いよ、クソ教師。

 テメェの攻撃なんぞ、俺には通用しねぇ‼︎ 」


『アクセイガンッ……‼︎ 』


 真哉の挑発に乗せられたエビルは更に動きが雑になり、ただ腕を真哉ごと地面に突き刺そうとするだけで、息の上がった真哉でも意図が分かればスキップをするように回避していく。

 怒りは諸刃の剣のようなもので、上手く使いこなせば強力な武器となるが、下手に扱えば自滅を招く要因となるものだ。


 ──例えば、こう。


『チョコマカト、ニゲルナァア……⁉︎ 』


『インストール、90%完了。

 武具の情報を開示します』


 回避を続けていた真哉は敢えてクレーターの近くで一切の動きを止め、ローズの報告を聞くとエビルの目の前で諦めたように笑う。

 武器は持っているものの、そろそろ身体が限界だと強く訴えかけてくる。

 顔色は青ざめ、不快感が身体中を駆け回る。

 それでも、膝を屈することは許されない。


『コレデキエロ、アクセイガン……‼︎ 』


 チャンスと認識したエビルは酸を一点に集中させ、一撃で真哉を溶かそうとこの世で存在しないレベルの巨大な酸性の弾丸を真哉に向けて放たれる。

 避けられない規模の弾丸に真哉は僅かに口角を上げ、


「──お前がな」


『ブビァアアア……ッ⁉︎ 』


 真哉の持つ鏡の盾に触れた瞬間、真哉に向けて放たれた酸の弾丸は突如向きを変えてエビルに直撃した。

 かなり強力なのだろう、着弾したと同時に転げ回るエビルの肉体の4割を酸は溶かしていき、突如現れたローズが真哉の左斜め前で一礼する。


『お待たせ致しました。

 ご主人様(マスター)極技解放(Over drive)の発動が可能です』


「了解。

 いくぜ、極技解放(Over drive)……‼︎ 』


 ローズの報告を受けた真哉はダイアモンドの魂の円環(ソウルリング)を指から外して剣の柄に差し込み、魂の円環(ソウルリング)から溢れ出る魔力を限界までチャージしながら真哉はエビルに突撃する。


極技解放(Over drive)荒れ狂う猛威の具現テンペスト・ブリンガー


『オンノレェエエ……ッ⁉︎ 』


「俺の理想は、潰えない……ッ‼︎ 」


 ローズの声と同時に真哉は剣を横薙ぎに振るうとエビルの身体を真っ二つに切り飛ばし、続けて目にも留まらぬ速さで繰り出された無数の斬撃がエビルの肉体を徹底的に切り刻む。

 そして、後方に飛び退いた真哉が剣を柄に仕舞うとエビルは爆発して消滅していった。


ご主人様(マスター)、エビルに囚われた人間の確保を』


「ああ、分かった」


 Dress upを解除した真哉はローズに差し出された手錠を受け取り、真っ直ぐに先程の威勢が消えて怯える山口の方へ向かっていく。


「く、来るな化け物め‼︎

 僕の力はあの程度じゃ……‼︎ 」


「好きに言ってろ。

 18時23分、日本異端対策特務機関の規定により、異端対策特務法違反で逮捕する」


 真哉は淡々と罪状を読み上げて山口に手錠を掛けた瞬間、手錠に埋め込まれた装置によって警察署へ移送された。

 数年前にJHMSが警察と共同開発したこのシステムはパトカーに掛かるコストを削減し、被疑者の仲間などによる被疑者の奪還を防ぐ為にも有用とされている。

 真哉が実際に使用したのは初めてだったが、装置が正常に機能しているところを見る限りは問題なさそうだった。


『お疲れ様でした、ご主人様(マスター)

 初めての救世、完了でございます』


「救世、完了……

 それってどういうこと?」


 任務完了ならまだしも、と真哉は首を傾げる。

 あの男も言っていたが、姿が見えない上に正直、ローズと違って問い質してもまともな受け答えは期待できそうにない。

 確証はなく、こればかりは直感である。


『稚拙ながらご説明致します。

 ご主人様(マスター)の持つ剣、ライトブリンガーには浄化作用が付与されております。

 つまり、エビルという汚濁のみを浄化し、唯一人間を殺すことなく融合体を倒すことが可能となっています。

 これを私達は──』


 ローズが少しばかり自慢げに言おうとした瞬間、唐突に現れたあのホストのような男はローズの唇に人差し指で触れ、黙るよう視線で合図した後に真哉を見て堂々と言い放った。


「──救世と呼ぶのです、偉大なる救世主‼︎ 」


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