ジル・ド・レ
暴力的な表現と残酷な表現が多少あります。
シャインは怒り任せにそこいらを飛び回り、気付くと喉の渇きを憶えていた。
シャインは木々の多い公園で眼を凝らし、眠っている小鳥を見つけ、構えた。
シャインは素早く捕まえようとしたが、小鳥は直ぐに危険を感じて逃げてしまった。
シャインは枝に降り立とうとして足を滑らせ地面に落ちた。
木の下でタバコを吸っていたサラリーマン風の男が振り返った。
「ってえ………………」
シャインはお尻を強か打ち付け、腰を擦っていた。
「こんな夜中に子供が危ないじゃないか」
男はシャインに近付いて来た。
薄明かりに照らされたシャインを見て男は口笛を鳴らした。
「へえ、君みたいな子がこの街に居たとはね」
シャインは男を凝視した。
男から微かに男のとは違う血の匂いがした。
男はシャインの前に屈んで言った。
「どうだい?
君なら八万、いや十万は出すよ
俺と一晩付き合わないか」
『こいつ、金に物言わせてボクぐらいの子供を弄んでるって訳か
どっちが危ないんだよ! 』
「おじさんには、ボクがゲイに見えるの?
十万か……………………」
シャインは少し考えた振りをして言った。
「考えてもいいよ」
『この遠山の金さんが成敗してくれる!』
シャインは男に付いて行った。
男のマンションに着くとリビングに通され、シャインは手錠を掛けられた。
「大金を払うんだ、逃げられでもしたら大変だ
奥に寝室があるから入って待ってて」
『参ったな、お金だけ戴いてトンズラしようと思ってたのに逃げられなかった』
シャインは取り敢えず従った。
ドアを開けると男から微かに匂っていた、何かが腐敗したような臭いが強烈に鼻を突いた。
シャインは寝室を見て絶句した。
部屋の壁は黒く塗り潰され無数の写真が貼られていた。
写真には怯えきった表情を浮かべた少年の顔、傷だらけの身体を丸めて泣いている少年、下半身をそぎおとされ内臓が垂れ下がった少年、その他にも酷い状態の少年たちが写っていた。
振り返ろうとしたシャインの鼻と口をガーゼが覆った。
男がシャインに何かの薬品を吸い込ませようとしていた。
『こいつ、ジル・ド・レか! 』
ジル・ド・レの話は父から聞いて知っていた。
青髭男爵のモデルにもなった男で、ジャンヌ・ダルクが魔女として火炙りになるさまを見て気が狂い、錬金術に凝って異常な性癖と生け贄の為に次々と少年たちを惨殺して行ったと云う。
正に男はそう云う人種だった。
強烈な薬品の匂いにシャインの意識は遠退いて途切れて行った。
抵抗する力が奪われ、人間的な本来の優しいシャインの意識は闇の中に沈んだ。
闇から沸き上がるもう一人のシャインが目覚めた。
それは危機を感じて無意識に防衛本能が働き、吸血鬼として血を求める、本能だけのシャインだった。
今のシャインに命のモラルは無く、情と云うものも全く持ち合わせていない。
シャインが片手を振ると手錠の鎖が切れ、その手は男の顎を砕いた。
眼を開けたシャインの瞳は燃える様に紅く、男を見詰めた。
男は床に転がり逃げようと呻きながら這いずり回った。
シャインは男の腕を掴み立ち上がらせると、こちらを向かせ言った。
「お前に今際の際の快楽を教えてやろう。」
シャインは冷酷な笑みを浮かべると牙を男の頸動脈に突き刺し、少しの躊躇も無く思う存分、心行くまで血を啜った。
渇きは潤い、今までに無い幸福感に満たされた。
そして人間性を持つシャインは目覚めた。
「わっ、変態! 」
男の顔が直ぐ間近にあるのに気付くとシャインは男を突き飛ばした。
男は無抵抗に床に転がった。
シャインは転がった男を見て不安になり男の身体を揺すった。
「ねえ、おじさん」
男は反応しなかった。
男の首に牙の痕が在るのを見てシャインは更に不安になった。
口を手の甲で拭うと手の甲が血で汚れた。
男の鼻に耳を当てたが呼吸の音が聞こえない。
「死んでる………………? 」
シャインは激しく男の身体を揺すった。
「おじさん起きてよ!
頼むから起きてよ!
おじさん!
おじさん!
お願いだから起きてよ! 」
男は全く動く気配すら無く、シャインは男が死んでいることを認めない訳にはいかなかった。
そして、男を殺したことも。
シャインはしゃがみ込み手を後ろについて後退りした。
「うそ…………………………………
ボクが殺したの?
嘘だ!
嘘だ!
嘘だああっ!! 」
シャインは床に手をつきながら走り出し部屋を飛び出して行った。
階段を見付けると転がりそうになりながら駆け下り、非常口を見付けると勢い良く外に飛び出して走った。
『ボクが殺した!
母さん!
どうしよう!
どうしよう、ボクは人を殺してしまった! 』
ここまでお付き合い戴き有り難うございます。
娘にあらすじ書くのが破滅的に下手と言われました。笑
書き直そうと思います。笑
いつも、全面的に協力を惜しまない娘たちに心から感謝です。
そして、読んで下さる皆様にも。
そう言えば、ラプンツェルの接吻で隆一朗が死ぬシーンを書いているとき、瑞基の気持ちを考えると泣いてしまって、酷かったんです。
そしたら、旦那と娘に呆れられ、「なんちゅうめでたい奴。」とか「自分の書いてる小説で泣いてる奴、初めて見た。」とか散々言われました。笑
だって、ほんとに瑞基の気持ち考えたら泣けて来て仕方無かったんですよ。
やっぱ、めでたいですかね。笑
それでは、また明日。