花火
お気に入りのシーンです。
楽しんで戴けたら嬉しいです。
次の日の夜、真里に頼んで買っておいて貰った大量の花火を持ってシャインは圭依の部屋を訪れた。
部屋の電気が消えている。
「圭依? 」
シャインは小声で言った。
「シャイン? 」
のろのろと起き上がった圭依がこちらを見た。
外からの薄明かりに照らし出された圭依は酷く憔悴し、やつれて見えた。
「大丈夫なの? 」
「電気点けろ」
「あ、うん」
シャインは靴を脱いで部屋に入ると蛍光灯の紐を引っ張った。
パッと明かりが点いて、圭依は眼をしば付かせた。
「具合悪いの? 」
「眠いから寝てたんだよ
それよか、何それ? 」
シャインが持っている大きな袋を見て圭依は訊いた。
「花火」
「花火? 」
圭依は眼を輝かせた。
「見せて、見せて! 」
圭依はシャインから花火の入った袋を取り上げると、嬉しそうに中を覗き込んだ。
「わおっ、ドラゴンもある、ロケット花火も」
圭依は顔を上げると笑って言った。
「やろう、やろう、花火! 」
シャインは心配そうに言った。
「でも、顔色悪いよ」
「うっさいなあ、蛍光灯のせいだろ
行こう! 」
圭依は立ち上がった。
「ほんとに大丈夫? 」
圭依はベランダで靴を履いていた。
「ほら、行くぞ」
「大丈夫かなあ」
シャインはしぶしぶ靴を履いて圭依を抱き上げた。
「何すんだよ、莫迦! 」
「顔色悪いから」
「降ろせよ、莫迦! 」
「昨日みたいに発作起こしたら花火処じゃないだろ! 」
圭依はシャインの耳元で我鳴った。
「シャインの莫迦! 」
シャインは片目を閉じながら、浮き上がった。
「耳が痛いってば! 」
「お前が要らない心配するからだろ! 」
シャインは近くの公園に降り立った。
圭依を降ろすと圭依はシャインの脛を蹴飛ばした。
シャインは脛を押さえてケンケンしながら飛び回った。
「いたたたたた………………
何するの?! 」
「お前がオレの意思を無視するからだ! 」
シャインは脛を撫でながら言った。
「心配しただけなのにぃ」
「だから、要らない心配なんだよ、お前のは
でも………………………ありがとな」
圭依はそっぽを向きながら言った。
シャインはクスッと笑った。
「さあ、花火するぞお! 」
圭依は花火を地面に並べた。
「まずはさ、ロケット花火で景気付けね
シャイン、瓶は? 」
「瓶? 」
「ロケット花火に瓶は付き物でしょ」
「無い………………ねえ」
シャインは袋を覗き込んで言った。
「瓶無かったら、どうやってロケット花火発射するんだよ?! 」
「じゃあ、ロケット花火しなきゃいいんじゃない? 」
「莫迦言うな!
ロケット花火の無い花火なんて、牙の無い吸血鬼より締まらないじゃん」
圭依は溜め息を一つつくと、砂場に行ってロケット花火を刺し始めた。
「何してるの? 」
シャインが近付くと圭依が言った。
「ライターくれよ」
シャインは袋からライターを出すと圭依に渡した。
「こうやって導火線を一ヶ所に集めてね」
圭依はライターで火を点けて離れた。
「一回やってみたかったんだよね」
言うか言い終わらない内に次々とロケット花火は自爆し始めた。
パンパンと云う音が次々と喧しくなる中、圭依はネズミ花火をばらすとまとめて火を点け、シャインの足元に放った。
「わっ、わっ! 」
シャインが片足を上げながらネズミ花火を避けようとする有り様を見て、圭依は指を差して笑った。
「酷いじゃないかあ! 」
シャインが抗議すると、圭依は爆竹に火を点けて次々放った。
連続する破裂音にシャインの抗議の声は掻き消された。
シャインは手持ち花火に火を点けて圭依を追い駆け回した。
圭依は笑いながら駆け回った。
二人は手持ち花火を砂に逆さに刺して並べ、持っていた手持ち花火で火を点けて行った。
手持ち花火は順々に可憐に咲き乱れて萎んで行った。
二人は両手を振り回し花火で円を描いたり、曲線を描いたり、回転花火を連続で飛ばした。
回転花火の予測不能の動きに二人は逃げ惑い、赤や青、緑やオレンジの火花がシャインと圭依の笑顔を染めた。
吹き出し花火を円状に並べて次々火を点けた。
さまざまな火花が華やかに吹き出しては消えて行く。
シャインと圭依はその一生に見入った。
「あれ、線香花火だけになっちゃったね」
「ほんとだ」
二人は座って線香花火に火を点けた。
「なんかさ、ショボいんだけどオレ線香花火って好きなんだよね」
「ボクも好きだよ」
「すげえ、楽しかった
いつもはこんなに、はしゃげないんだ
走るなんてご法度だからさ
両親が火を点けてくれるけど、オレは自分で火を点けたかった……」
「そうなんだ」
シャインは屈託の無い笑みを圭依に向けた。
「有り難うな、シャイン」
「不気味な事言わないでよ、鳥肌たっちゃったじゃない」
「なんだよ、それ」
圭依はシャインを睨んだ。
「そんなに素直だと気持ち悪い」
「悪かったな!
いつも素直じゃ無くて! 」
「うん、悪い」
「ほんと、ムカつくなお前」
「圭依もね」
二人は睨み合った。
そして、笑い合った。
最後の一本の線香花火がまだ花びらを散らせていたが、風に揺られて大きな火玉を落とし、暗い静寂が二人を包んだ。
ここまで読んで戴き有り難うございます。
シャインと云うタイトルは主人公の名前でもあるのですが、このマンガを描こうとしたときチョコボの不思議なダンジョンの魔法にシャインと云うのがあったのと、LUNA SEAがシャインと云う曲をヒットさせてて付けました。
古い話ですみません。
それでは、また明日。