学校
楽しんで戴けたら幸いです。
次の日の夜、圭依はそわそわしていた。
「時間くらい訊いとけば良かった」
圭依はベッドに座り外を眺めた。
人影に気付くと圭依は慌ててベッドに横たわり寝てる振りをした。
「圭依……………? 」
シャインはカーテンの陰から部屋を覗いた。
「なんだよ、お前か」
「待った? 」
「オレはお前なんか待ったりしないんだからな」
圭依は面倒くさそうに起き上がった。
「ほんと、素直じゃないね
さっき外見てたよね」
「うっさいなあ、天気が気になっただけだろ」
「入っていい? 」
「昨日も入っただろ」
シャインは靴を脱ぐと圭依の前に立った。
「座れば
お気に入りの机の椅子にでも」
「有り難う」
シャインは笑って見せると椅子に座った。
「いいな、勉強ボクもしてみたい」
シャインは並んでいる教科書の背を人差し指の爪で撫でた。
「ねえ、歴史って吸血鬼のことも載ってる? 」
「載って無いだろうな、吸血鬼は社会に対して貢献した訳じゃ無いから」
「そうなんだ」
シャインはがっかりした。
「実際に存在しているかどうかも解らないのが吸血鬼だよ
創作の世界では人気在るんだから、それで良しとしなよ」
「人気あるの? 」
「小説やマンガでは引っ張りだこだよ」
「そうなんだ」
シャインは嬉しそうに笑った。
「そうだ
ねえ、学校行ってみない? 」
突然、シャインが言った。
「はあ? 」
一瞬、圭依の表情が曇った。
「いや? 」
「嫌だけど、とうしてもって言うなら行ってやってもいいよ」
圭依は仕方無さそうに言った。
「じゃ、行こうよ、学校
どんな処かずっと見てみたかったんだ」
シャインは期待に溢れた眼で圭依を見詰めた。
「解ったよ
ちょっと待ってて」
圭依はドアを開けると首を伸ばし覗き見ると、そおっと部屋を出て行った。
少しすると戻って来て靴をベランダに置いた。
シャインは不思議がって言った。
「玄関から出ればいいじゃない」
「玄関じゃヤバいんだよ」
「どうして? 」
「いいから、行くよ」
圭依はシャインを急かした。
シャインは肩を竦めてベランダに出た。
「ちゃんとつかまってて」
圭依はシャインの肩にしがみつき、シャインは圭依の腰に腕を回した。
ふわっと浮き上がると圭依は興奮して言った。
「凄い、浮き上がった! 」
シャインは上へ上へと登った。
「街が見渡せる! 」
「で、学校何処? 」
「知らない、そんなの自分で探せよ」
「なんで通ってる学校知らないの! 」
「煩い奴だな
自分が通ってる学校なんて行きたか無いよ! 」
「なんだ、そりゃ」
仕方無くシャインは更に登って360度見渡した。
シャインの眼が紅く光る。
遠くに木に囲まれた広いグラウンドと校舎が見える。
「ああ、あれだね」
シャインは移動を始めた。
夜風が心地よく頬を掠める。
圭依は灯りの上を滑る解放感に眼を見開いた。
校庭に降りると圭依は手を振った。
「いってえ、手が固まっちゃったよ」
「ボクも…………」
シャインも腕を振った。
「で、何処から入れるかな? 」
「よく考えてみれば何処も鍵掛かってて入れないじゃん」
「え? 」
シャインは校舎を見上げた。
「でもさ、こんなに窓あるなら、一つくらい鍵の掛け忘れがあってもいいじゃない? 」
シャインは浮き上がった。
「ちょっと待ってて探してみるから」
シャインは校舎の傍に生える樹木の陰の中に消えた。
圭依は待っている間、辺りを見回した。
淡い黒と濃い黒の陰影が少し不気味に見える。
止めておけばいいのに圭依は先週テレビで観た恐怖映像を思い出して背筋が寒くなるのを感じた。
そんな事を考えていると辺りが更に不気味に見える。
今にも地面から無数の手が伸びて来そうな気がした。
シャインが戻ってくると圭依はシャインを怒鳴りつけた。
「遅い! 」
「ごめん、なかなか見つからなくて。
でも、あったよ、鍵の掛け忘れ」
圭依はシャインに抱き付いて言った。
「さあ、行くよ
さっさと飛べ」
「なんだよ、態度デカイんだから」
シャインは圭依の腰に腕を回すと浮き上がった。
「裏側の窓が開いてたんだ」
シャインは校舎の屋根まで浮き上がった。
圭依が言った。
「学校の七不思議って、本当にあると思う? 」
「何その学校の七不思議って? 」
「知らないの?!
学校の七不思議! 」
「知らない」
「夜になると理科室の人体模型が勝手に歩き出すとか、音楽室のベートーベンの絵の眼が光るとか、トイレの花子さんとか…………」
シャインの顔色が変わった。
「こんな時にそんな事言う? 」
「もしかして怖くなったのか? 」
「当たり前だろ!
これから学校の中に入ろうって時にそんな怖い話しないでよ! 」
「お前自体がホラーなのに、なんで怖いんだよ! 」
「ボクはお化けじゃ無い! 」
「似たようなものだろ」
「ものじゃ無い! 」
圭依は笑い出した。
「また、笑うし
そう言う事は学校に来る前に言ってよ
学校行こうなんて誘わなかったのに」
「お前ってほんと情け無い吸血鬼な」
「情けなく無い! 」
シャインは窓の前まで来ると一呼吸してから窓を開けて入った。
暗がりに長い廊下が伸びていた。
「おい、なんでオレをがっちりホールドしてるんだよ」
「怖いんだもん」
「莫迦だなあ
あんなのただの噂だろ」
「だって、何か聞こえない? 」
「そんなの怖い怖いって思ってるからだ」
圭依は耳を澄ませた。
確かに何処からかピアノの音がした。
圭依は思わずシャインにしがみついた。
「やっぱり圭依も怖いんじゃないか」
「お、お前が怖いだろうと思ったからだ」
二人はお互いにしがみついて歩いた。
廊下を歩き進んで行くと次第にピアノの音が近付いてきた。
音楽室に着いた。
戸の前に立つと二人は顔を見合わせ、そおっと窓から中を覗いた。
黒板の上の壁に二つの丸い物が光っている。
二人は眼を凝らし見るとそれはベートーベンの肖像画の眼だった。
「ひーいっ!
眼が光ってるう! 」
圭依はひんやりと寒くなるのを感じた。
「圭依……………あれ………………」
シャインは圭依の肩を叩きピアノを指した。
薄闇の中で蓋の開いたピアノの鍵盤が動いていた。
「あ、あれはさ………自動ピアノなんだよ
きっと、多分」
圭依は声を震わせ言った。
ゴトンゴトンと云う音が廊下の向こうから近付いて来た。
よく聞くと何かを床にぶつけている様な音も混じっている。
二人は廊下を見詰めた。
それは少しずつ近付いて来た。
首の無い人体模型が自分の頭をドリブルしながら駆けて、通り過ぎて行った。
シャインが言った。
「人体模型ってバスケが好きだったんだ」
「この状況で、そこ? 」
圭依はシャインの顔を見た。
「お兄ちゃんたち、ここに居ると帰れなくなるよ」
女の子の声がして振り替えると、おかっぱ頭の赤いスカートを穿いた女の子が立っていた。
「ト、トイレの花子さんーーーっ!! 」
圭依はシャインの腕を掴むと全速力で走り出した。
シャインは浮き上がると圭依の胸に腕を回して掴み、入って来た廊下の窓から外へ出た。
できるだけ学校から離れた空き地に降りた。
二人は地面に寝転がった。
「学校はもういいよ
憧れもぶっ飛んだ
学校って怖い処だったんだ」
シャインが圭依を振り返ると圭依が伏して蹲っていた。
「どうしたの、圭依! 」
圭依は顔を歪ませ、冷や汗を滲ませていた。
「圭依!! 」
シャインは飛び起きた。
「大丈夫? 」
圭依は蹲っていた身体を転がして失神した。
「圭依ーっ!! 」
どれくらいの時間が過ぎたのか、圭依は眼を覚ました。
気付くとシャインの膝の上に頭を載せうつ伏せになって寝ていた。
全身が鉛の様に重い。
「眼、覚ました?
何処が悪いの? 」
「は、まだ生きてたんだ。
結構頑張るね、オレの心臓…………」
「心臓が悪いの? 」
「不良品に生まれて来たから、二十歳まで生きられないだけさ」
圭依は額に手の甲を当てた。
シャインは大きく眼を見開き、圭依を見詰めた。
「ほんとは、学校なんて殆ど行けないんだ
体力無くて直ぐ発作起こすからさ
子供だから薬も飲めなくて
薬飲めるようになるのは二十歳になってからだって
遅いって」
シャインはどう答えていいか解らなかった。
「何度か手術も受けたけど、上手く行かなくてね」
「だから、あんなに哀しそうな顔してたんだ」
「ああもう、湿っぽいな
そろそろ空が白んで来るんじゃない?
帰ろ」
圭依はノロノロと起き上がった。
「動いて大丈夫なの? 」
「帰らない訳には行かないだろ」
圭依は立ち上がった。
シャインも立ち上がると圭依の身体をお姫様抱っこした。
「おい、止めろよ!
オレはお姫様じゃ無いぞ! 」
「そんなんじゃ、抱き付くこともできないだろ」
「抱き付くなんて、卑猥な言葉使うな!
変態みたいじゃないか! 」
圭依は足を振った。
「ああもう、煩いなあ」
シャインは構わず浮き上がった。
「あんまり動くと落ちるよ」
「降ろせ!
女じゃ無いっつうの! 」
「解った、解った
家に着いたら嫌でも降ろすよ」
「今降ろせ!
直ぐ降ろせえ! 」
「なんだよ、お姫様抱っこくらいで
騒ぐ前にボクの莫迦力褒めてよね」
「降ろせえ! 」
圭依はシャインの耳元で叫んだ。
シャインは片眼をつぶって耐えながら進んだ。
「降ろせってばあ!! 」
「はいはい…………………………………」
シャインが帰ると真里が壁に凭れて不機嫌そうに腕を組み、家に入って来るシャインを見ていた。
真里に気付くとシャインは言った。
「あれ、こんな時間まで起きて、美容に悪いよ」
「お帰り、悪餓鬼
最近、ちょっと酷いんじゃない?
帰る時間遅過ぎるよ
何処ほっつき歩いてるの」
「新しい友達できたんだ
圭依って言うんだ」
「幾つの子? 」
「ボクより二つ下って言ってたかな」
「こんな遅くまで遊んでたら学校はどうしてるの? 」
「心臓悪くて、学校行けないんだって」
「まあ、気の毒に……………」
真里は眉を下げた。
「明日、圭依と花火しようって思うんだ
買って来ておいてくれる? 」
「構わないけど、大丈夫なの? 」
「んー、解んないけど
でも、圭依と花火できたら素敵だなあって思って」
シャインは笑った。
シャインはシャワーを浴びてから棺に入った。
ここまで読んで戴き有り難うございます。
本文、スマホに移す作業は腰痛が辛いです。
でも、頑張って移します。
台風、大変でしたが、皆様のお家は大丈夫でしたか?
大丈夫な事を願いつつ、また、明日。