彼女は赦すのか
夢なんか見たくはない。いつも同じ結末をたどる物語のように繰り返されるそれは、瞳を閉じてさえ闇に逃げることを許さない。
「くそっ、俺は……」
鮮やかでいながら廃退的な雰囲気を、醸し出すそれは俺の頭を悩ませる。
俺は何も見えないふりをしながら、目の前で行われる出来事に思いをはせた。
目の前には愛らしい少女が立っている。その場に確かにいた俺は、その少女の関心を引きたくてペラペラとどうでもいいことを話していた。そんな薄っぺらな話を少女は目をキラキラと輝かせながら聞いてくれた。
ああ、この後にこの少女は……
周りの騒音だけが聞こえるこの夢は、記憶にある少女の甘やかな声を聴かせてくれない。妙に紅い唇を動かす様子をみて少女が、何を話していたか思い出せないことに愕然とする。だから声が聴こえないのだろうか……
「ねえ、私はどうして死ぬの?」
唐突に後ろから目の前の少女の声がした。それに釣られたように俺は後ろを向いた。
場面が切り替わるように周りの景色が変わった。騒音も聞こえなくなる。そして耳が痛いほどの静寂と、破壊された町の中にさっきまで目の前にいた少女が立っていた。しかし、さっきまでとは違い服は砂埃に汚れ、所々が破れている。頭からは血を流し腕はあり得ない方向にねじれている。
「俺は…… お前の事を……」
頭が割れるように痛む。俺は地面に崩れ落ちた。
ペタペタと足音を響かせながら少女が、俺に近づいてくる少女の顔は、影で表情は分からない。呆然とした俺は瞳を閉じることも出来ず、ただ少女が近づいてくる様子を見ていた。
少女がかがみこむように俺の顔を覗き込むようにしたことで、やっと少女の表情が分かる。彼女は薄く微笑んでいた。彼女の紅い黒い瞳が近づく、彼女との距離が唇が触れそうなほど近づいた。どこか甘い息を吸い込む。
くらくらとする目眩に酔いながらうわ言のような言葉を口する。
「俺は……」
「あなたは私をどうしたかったの?守りたかったの?」
「ああ……」
俺は少女をぼんやりと見上げる。そして彼女の翳のある顔に見とれた。
「ねえ。あなたにとって私はどんな存在だった?」
ピシッ…… パリン……
空間にひびが入る。目を焼くような光が辺りを包んだ。
光の中で見る彼女はどこか寂しそうに笑っていた。
「俺にとって……」
ゆっくりと瞳を閉じる。今度こそ闇に落ちる。そして俺は夢から覚めた。
彼女はあの日に亡くなった。俺が守ることもせずに逃げたからだ。それから俺は繰り返しあの夢を見る。助かった俺を責めるようなそぶりを見せない彼女は俺に何をしてほしかったのだろうか……
彼女を覚えているのはもう俺だけだ……
まるで忘れることを許さないような夢のおかげで、彼女の細かい仕草まで覚えている。
ああ、俺にとっての彼女は……
お読みいただきありがとうございました。