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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第三章 化生の民
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第七十二話 大賢者の推論


「――さて、次は何をお話しましょうか? それとももう、僕に聞きたいことはありませんか?」


 メルクが『一陣の風(アベイレイン・フロー)』の解散理由を自分なりに呑み込んでいると、アスタードがまるで気遣うように伺いを含んだ声音で問いかけてきた。以前の彼ならば考えられない事だったが、とは言えあれから十五年だ。多少は他者を思いやることだって覚えたのかもしれない。


「……俺はまだ、お前らがパーティーを解散したことに納得いっていないんだがな」

「それを言うなら僕はまだ、君が勝手に死んだことやよりにもよってエルフの娘に転生したことに納得いっていませんが?」

「……まぁいい。それで? 死んだはずの俺がどうしてエルフとして生まれ変わったんだ? 何か知っているんだろう?」


 このままアスタードにパーティー解散理由を問い続けても時間の無駄だろう。おそらく彼は自分の正しさを主張し続けだろうし、メルクだってきっとどんなに言葉を尽くされても納得できない。

 お互いにすでに答えが出ている以上、討論を続けたところで意味はないのだ。メルクは話題を変えることにした。


「――先ほども言いましたが、これはあくまでも僕の推論です。どうしたって確かめようもないので、根拠や実証を求められても困りますが」

「それでいい、教えてくれ」

「分かりました。その前に、今さらですがフードは外しておきますね?」


 アスタードは一つ頷くと、おもむろに顔のほとんどを隠していた外套のフードを取り払った。そしてそこから現れたのは――何の変哲もない、見慣れた彼の顔だった。

 基本的にフードで顔を隠しているアスタードだが、長い付き合いだったメルクやパーティーメンバーは、当然彼の素顔を知っている。


 肩口まで届く茶髪に、一見すると女に見えなくもない細く柔らかい顔の線。実際、並みの女性よりも細く頼りない身体つきのアスタードは、外套やフードを身に纏っていなければほとんど男とは思われない。

 エステルトとして彼とパーティーを組む以前は、アスタードが女と間違われて男に声を掛けられている場面も目撃した。

 そしてそれが嫌で彼が名を変え、常にフードと外套を身に纏うようになったのは余談ではある。


 アスタードの美形と言えなくもない無表情な顔つきに懐かしさが込み上げてきたメルクはふと違和感を覚え、そしてその正体に気付いて目を見開く。


「お前――その顔はどういうことだ?」

「おや? やはり気付きますか」


 メルクの反応を楽しむようにアスタードは自分の頬を撫でて、表情のなかった顔に微かな笑みを作った。


「どうして変わらない? あれから十五年も経つんだぞ? いくら何でも変わらなすぎるだろう……魔法か何かで若作りしてるのか?」

「まさか。常にフードで顔を隠している僕が、そんなことをする必要はないでしょう。『仇為す者』を倒した時から老化が止まったんですよ」

「なんだと?」

「これは僕だけではなくイリエムやフォルディアもそうではないかと。実際、一年ほど前に会った時も、フォルディアはあの当時の顔立ちそのものでしたよ」

「……そう、なのか」


 そう言えば、メルクがヨナヒムにフォルディアの事を尋ねた時、彼も「師匠は見た目がほとんど俺と変わらない」というようなことをたしかに言っていた。

 あの時は単にフォルディアが年甲斐もなく若作りをしているのだと思っていたが、アスタードの言葉を信じるのであればヨナヒムは脚色のない事実を述べていたのだろう。通りでフォルディアらしくないと思っていたのだ。

 しかし、何とも不思議な事である。


「ふふ、解せないと言った顔ですね。君だって、『強者の理』くらい知っているでしょ?」

「『強者の理』? あ……あれだろう? 「強者は勝者であるが故に強者足り得る」って言うどっかの博士の言葉だ。意味は良く分からんが、たしかあの言葉ができたのは俺たちが『仇為す者(ファルガーロ)』を倒す数年前じゃなかったか?」


 メルクが前世で聞きかじった中途半端な知識を披露すれば、アスタードが苦笑しながら頷いた。


「ええ。正確には今から二十年ほど前、チュリセ帝国にいたゾアナ・グローデル博士によって提唱された理論です。「強い者が強いのは、他者を倒しその生命力を得ているからである――」……つまり人間にしろ魔物にしろ、他者を殺すことで少なからず相手の力を得ているわけです」


 それは画期的な提言であった。


 なにせその理論が出るまでは、戦闘を重ねて修練を積むことによって技術や経験が身につき物理的に強くなると思われていたのだから。

 しかしグローデル博士の研究により、他者が持っている魔力は持ち主が死亡した際は周囲の生き物に生命力として吸収されることが分かったのだ。当然ではあるが、強い力を持つ者を倒しただけ、得られる生命力も増える。

 つまり強い者を倒した者はより強くなり、死ぬことなく勝ち続けていくことでどんどん力を付けていくことができるのである。


「ああ、そんな感じの理論だったか? けど今は、そんな理論関係ないだろう?」

「いえ、これが大ありなんです。僕やフォルディアの老化が止まった理由は、おそらく『仇為す者』を倒し、その生命力を得たことに起因すると思われるのですよ」


 まるで重大発表をしたと言わんばかりに誇らしげな顔つきとなったアスタード。メルクはそんな彼を見やり大袈裟に頷いた。


「……ああ、なるほど。つまり――どういうことだ?」

 

 そしてすぐさま首を傾げた。


「やれやれ……いいですか? 魔力を完全に失えば生き物は生きてはいられません。そのことから、魔力は生命力とも言い換えることができるわけです」

「ああ。それで?」

「『仇為す者』を倒し、その膨大な生命力をわずかな人数で分け合い吸収した我々は当然力が増大しました。その増大した力の一端が、肉体の不老化と言う目に見える形で現れているんですよ」

「ふーん、なるほど。良く分からんが、お前がそう言うのならそうなんだろう。だが、俺はどうなる? 俺はおそらくそんな生命力を吸収してはいないし、そもそも不老化以前に転生してるんだが?」

「……僕の想像では、君はちゃんと『仇為す者』の生命力を吸収しているはずですよ」


 メルクの疑問に、アスタードは意外なことを言った。


「はぁ? それならどうして俺は死んだんだ?」

「生命力を得たからと言って、致命傷が完治するわけではないでしょう……おそらくは、君が完全に息絶える前にフォルディアは『仇為す者』を討ち果たした。そしてその力は僕たちに吸収され、そして君にも吸収された。しかし、君の肉体はすぐに限界を迎え、魂のみが増大した生命力に繋ぎ留められこの世を彷徨さまよい――結果、君はエルフに転生したのではないでしょうか?」






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