第五十八話 答え合わせ2
「この旅には、補佐だけではなく試験官としてもついて来た――そう言ったな?」
「ええ」
「ならやはり、この旅も試験だと考えていいのか? いや、もっと言えば――この旅自体が試験だと、そう言う事なのか?」
メルクの半ば確信を抱いた言葉に、トトアラは苦い笑みを浮かべて首肯した。
「はは、やっぱり気付いちゃったか。その通り。試験は最初から、「一週間以内にログホルトへ辿り着く」って言うものだったの。仮に辿り着けなかったとしても、試験官の裁量で合格になることもあるけど」
「私は?」
「メルクはもう、間に合わなくても合格でいいと思うわ。別の試験官も、その実力を認めてたし」
「別の試験官?」
「ええ。ザァールっていう私と同じ雇われ冒険者。ついでに私のパーティーメンバーでもあるわ」
「ザァール……ああ、あの襲って来た山賊頭か」
山中にて徒党を組んで襲って来た男を思い出す。
番長と言うダサい名乗りをしていたが、その腕は確かなものだった。やはり、ただの山賊ではなかったのだ。
試験官が自ら絡んできたと言う事は、あれも試験の一環だったのだろう。メルクはギルドによる妨害だと思っていたが、この分だと違うようだ。
「エンデ市からログホルト市への道中、いろんな事があった。それも全て、やはり試験の一環だったのか?」
「ええ。まず受験者は、最初に選択を迫られる」
トトアラは人差し指と中指、二本の指を開いて見せた。
「一つはギルドから与えられた地図通りに、自らの足で目的を目指す。もう一つは、ギルドの用意した馬車に乗って目的地へ連れて行ってもらう」
「――正解は?」
「厳密には、その時点での正解、不正解はないの。どちらの選択も目的地へと繋がっているから……けれど選んだ選択によって試験の内容が変わってくるわ」
「なるほど。私の場合は徒歩を選んだため、あの内容だったんだな? 馬車を選んだ者たちはどんな内容なんだ?」
メルクの質問に、トトアラは首を横に振った。
「それは教えられないわ。それにどのみち、彼らも馬車を失った時点でギルドの地図通りに進んだはずよ。だから、いくつかの試験は重複する予定だった」
「……だった?」
過去形になってしまったトトアラの言葉に首を傾げれば、彼女は再び苦笑する。
「彼らは『魔暴』を発症した『魔馬』に散々に蹴散らされてリタイアしたみたいよ」
「なんだそれは? 志望者たちが全員、ただの馬に負けたってことか?」
「なんでもタイミングが悪かったみたい。『犬鬼人』の群れと交戦中に暴れたらしいの。混乱してほとんどがまともに対処できなくなって逃げ出したって話よ」
トトアラの言った『犬鬼人』とは、鬼人の姿をした小柄な魔物である。
危険度は『青級』と下から数えた方が早く、一体ならば大した脅威にならない。が、集団となればそれなりに厄介だ。
ただの冒険者志望の者たちが、対処できずに逃げ出しても仕方ない事なのかもしれない。
「……問題ないわ。馬車に同乗していた試験官がちゃんと尻拭いをしたそうだから――死者は出なかったわ」
「え? あ、そうか」
思案顔のメルクが受験者たちの心配でもしていると思ったのか、トトアラがそう付け足してくれた。当然と言えば当然だが、どうやらあちらにも試験官はついていたらしい。
「ザァールと言うあの番長も試験官だったとして、その仲間の山賊どもは何だったんだ? あの怪しげな詐病の老夫婦や湖のスケベな若者なんかもいたな」
「彼らは単なる協力者なはずよ。冒険者でもないしギルド職員でもないけど、その関係者らしいわ。お礼を貰ってギルド試験に協力してるみたいね」
「そうだったのか」
ただの試験にしては、冒険者を大勢投入している事に驚いたが、どうやらその大半は一般人だったようだ。それにしたって大した熱の入れようではあるが。
「詐病の老夫婦が橋の崩落を教えてくれたのはなんでだったんだ?」
「あれは元々、「病の婦人のために魔物の出る森へ行き、そこで薬草を取ってくる」って言うのが試験内容だったの。そして婦人を治してくれたものだけに橋の崩落について教える手筈だったんだけど……」
なるほど。
つまり老夫婦を見捨てて先へ急いだ者や、薬草を採ることができなかった者は橋の崩落で往生する羽目になっていたというわけだ。もちろん期日には間に合うまい。
「ただ、あなたの場合は彼らも困ったでしょうね。正規の手段は踏まず、けれど婦人の病を癒してしまった……それどころか、詐病であると見抜いてしまったんだから」
「ああ。結果的に教えてもらえたが、あまりに不信で過ぎてトトアラがいなかったら橋に向かっていた気がするな」
「勘弁してよね……」
メルクの言葉にげんなりとした様子で肩を落とした後、トトアラは気を取り直したように歩き出した。そして立ち止まったままのメルクへ視線を送ってくる。
「おそらくもう合格でもいいとは思うけれど、せっかくだから最終試験は受けてちょうだい。ザァールが準備万端で待ち受けているはずだから」
「最終試験? つまり、次でギルドの設置した試験は終わりってことか?」
歩き出したトトアラにつられるようにメルクも足を動かしながら首を傾げる。トトアラは首肯を返して来た。
「ええ。その後はログホルトまで気楽に行けばいいと思うわ。あと二日もあれば間に合うし、メルクの場合は少し遅れたところで合格にしてあげる」
「それは有難いな。それで? 最終試験の中身はなんだ?」
「……あのねぇ。それを聞いちゃうわけ? さすがに図々しすぎるんじゃない?」
呆れたような視線を送られ、しかしメルクはあえてここで胸を張る。
「いいじゃないか。毒を食らわば皿まで……ここまで話してくれたんだから、ついでに教えてもらいたい。どのみち、私の合格は決まったようなものなんだろう?」
「もう……まぁいいか」
トトアラは何かを言いたげに口を開いたが、顰めていた眉を戻し、仕方なさそうに笑う。
そしてメルクに指を突きつけ、開き直ったように鋭く告げた。
「最後の試験はずばり、『剛猪』の討伐よ」




