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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第二章 金と翡翠の冒険者
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第五十七話 答え合わせ


 翌朝、夜中に交代して見張りに立っていたメルクはトトアラを起こし、二人で簡単な朝食を済ませた。

 日の位置はまだまだ低い場所にあったが、時間もないのですぐに出発する。そうして、いくらもしないうちだった。


「ねぇ? どうかした?」


 黙々と歩いていたメルクはトトアラにそう聞かれ、前に出しかけた足を止めて彼女に視線を向ける。


「……どうかした、とは?」

「いえ。なんだかメルクが元気のないように思えて。いや、そうじゃなくて……何か悩んでる?」

「……」


 やはりトトアラは鋭い。あるいは単純にメルクの心情が顔に出やすいだけなのかもしれないが。


(そういや、以前から腹芸は苦手だったか)


 相手を揶揄からかったり茶化したりするのは人並みに好きだが、どうにも深刻な隠し事のたぐいと言うのは上手く行かない。

 だからこそ幼い頃から自分の中のエステルトが不自然に顔を出すこともあったし、転生以前もそのことで苦労したことがあった――まぁ今ではどうでもいいことだ。


(さて、どう切り抜けたものか……)


 トトアラの追及を上手くかわす言葉を探してみたところで、メルクは苦笑を浮かべて軽く首を振った。どれほど言葉を尽くしたところで鋭いトトアラを誤魔化すことなど、メルクにはできそうになかった。


「やはり私には、隠し事をする才能と言うものがないらしい」

「え?」

「なぁ、トトアラ。単刀直入に聞くが、あなたは冒険者試験の試験官なのか?」

「――?」


 メルクの言葉に絶句し、笑みを浮かべたまま固まってしまったトトアラ。

 しかしそれも一瞬で、彼女はすぐに取り繕ったような笑みを浮かべ直した。


「私が試験官? えーと、つまりギルド職員だってこと? 面白い質問だけど、その奇妙な考えはどこから来たの?」

「……違和感を覚えていたのは多分最初――初めて出会った時からだと思う」

「へ? なんで?」


 その言葉がにわかには信じがたかったのか、トトアラの笑顔は再び固まってしまった。


「あなたは最初、私に向かってこう話しかけて来たな? 「お嬢さん」と」

「え、そ、それが普通でしょ? もしかしてメルク、男なの?」

「なっ? そ、そんなわけないだろうがっ! わ、私が男とか、そ、そんなわけ……」

「いや冗談に決まってるでしょう。メルクが男だったら世の女性が裸足はだしで逃げ出すわよ……なんでそんな図星を突かれたみたいに慌ててるんだか」


 図星を突かれたからである。

 少しの動揺を見せた後、メルクは心を落ち着かせて仕切り直す。


「こ、こほん。えーと、トトアラは私に向かって「お嬢さん」と呼びかけた。その時から私は、何かおかしいと思っていたんだ。そして考えてみれば初めてなんだよ。トトアラみたいな若い女性から「お嬢さん」なんて呼ばれたのは」

「え? 嘘でしょ?」

「本当だ。少なくとも初対面ではない。「お嬢さん」なんて言葉は大抵、自分よりも歳がいくらか下の人間に使うものだからな」

「じゃあ不思議でもないでしょ? 私は二十二で、メルクは十四なんだから。そう呼んだって――」

「私がいつ、あなたに自分の年齢を言っただろうか?」

「――それは……」


 そう彼女は最初から、教えてもいないメルクの年齢を知っていたのだ。


「そう言えばあなたは、私の後をつけて同行を申し出た際にも言っていたな? 「メルクは成人を迎えたばかりだとは思えない」とかなんとか。それはつまり私が大人びていることを認めたうえで、まだ十四であると把握していたと言う事だ」


 自慢ではないが、メルクは実年齢よりも大人びて見える。大抵の者はメルクの事を二十手前の娘だと思い、「お嬢さん」なんて呼ぶ者は男かあるいは二十をいくらも越えた女だけだ。

 にも関わらずトトアラはメルクの事を「お嬢さん」と呼び、最初から年の離れた少女だと断定していた。

 これは奇妙な事だ。


「もちろん、あなたにはあなたの言い分があるだろう。反論したいことは言ってくれ」


 メルクがトトアラを見つめてそう促すと、彼女は視線を逸らすように下に落とした。


「……その目、もう私が何を言っても信じないって目じゃない」

「……」

「そっか。私は最初からドジ踏んでたのか……先入観って怖ろしいわね。ギルドでメルクが十四って聞いてさぁ、こんなに大人びてるのにずっと年下としか思えなくなっちゃったのよねぇ」

「つまり、試験官だと認めるんだな?」

「ええ、その通り。けど私はただの雇われ冒険者。真実、ギルド職員ではないけどね」


 吹っ切れたようにそう言って顔を上げたトトアラの顔には、晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいた。何だか初めて、本当の彼女に出会えた気がした。


「……随分あっさりと認めるんだな。誤魔化そうと思えば、まだ十分誤魔化せたと思うが」

 

 早い段階で自分を試験官であると認めたトトアラに、メルクは思わず本音を言う。正直なところ、もう少しとぼけられるものだと思っていた。


 たとえば、「試験受付時のメルクと受付嬢のやり取りを聞いていた」とでも言えばいい。不自然な点は残るが、それだけで彼女がメルクの歳を知っている事に不思議はなくなる。


(まぁ、昨晩のトトアラの言動を知ったからには、どんな誤魔化しも無駄ではあるが)


 どのような虚言きょげんろうそうと、昨夜のことを持ち出せばトトアラも認めざるを得まい。そう考えていただけに、これほどあっさりと自供されては拍子抜けしてしまう。


「引き受けたからにはやり切るつもりだったけど、隠し事ってやっぱ趣味じゃないんだよねぇ。はは、メルクと同じ」

「トトアラが試験官だとして、解せないことがあるんだ……質問いいだろうか?」

「なーに? バレちゃったからには答えられることは答えるよ」

「ではいくつか。まず一つ。なぜ、あなたは私についてきたんだ? それもわざと気配だけ消して、隠せる魔力を隠そうともせず」

「へぇ? 私が魔力を隠せるって知ってたんだ? 感心、感心」


 メルクの質問にトトアラは感心するように目を見張った後、大人ぶった態度で腕を組んで首を何度も頷かせる。


「あなたについてきたのは試験官としての役割と、治癒術師志望の受験者に対する補佐のため。気配だけを隠していたのはいずれは補佐役として接触しないといけないから、存在を悟られやすくしていたの」

「補佐? 私は受付時に助太刀制度は断ったはずだが……」

「治癒術師ってさぁ、本当に数が少ないんだよね。他はいくらでもいるけど、治癒術師や支援術師志望にはできるだけ合格して欲しい。だからギルドは、毎回助太刀制度を利用しなかった志望者にも内緒で補佐をつけてるの……まぁ、メルクには必要なかったかもしれないけどね」

「……そんな事情、ばらしてしまっていいのか?」


 あっさりとトトアラが言ったその情報は、確実に受験者には秘密にしておかなければいけない事だろう。聞いたのはメルクだが、正体が知られたとはいえ試験官として教えてもいい事だったのだろうか?


「もういいわよ。メルクが次も受験するなら駄目だろうけど、今回であなたは間違いなく合格。メルクがこの後、受験者たちにその秘密を告げたところで私には関係ないし」

「そんな適当でいいのか……」


 少し呆れながらも、それがトトアラなりのメルクに対する信頼なのだと知れた。恐らく彼女は、メルク誰彼構わず吹聴ふいちょうすることはないと信じてくれているのだろう。


 もちろんメルクだって、進んでそんな事を話そうとは思わなかった。



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