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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第二章 金と翡翠の冒険者
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第五十二話 廃村の翁


 念のため襲撃に備えまんじりともせず夜を明かしたメルクと、睡魔に勝てず、結局寝てしまった様子のトトアラ。

 二人は空がしらみ、人間の視界でも足元が見えるようになるや否や歩き出すことにした。


 相変わらず道は獣道と言わんばかりに歩きにくいが、二人のペースはそれなりに早い。いつも以上に早歩きのメルクに、トトアラも引っ張られる形で歩を進めているようだった。


「ねぇ、メルク。聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」


 山道の途中で見つけた赤い木の実をかじりながら、トトアラがメルクへ改まったように話しかけてきた。その思いつめた表情を見るに、本当に話していいものか迷っているようにも見えた。


「トトアラ。どうしたんだ?」

「……うん、実は……」


 できるだけ優しげな声でメルクが再度促すと、トトアラも意を決したように頷いた。


「実は、眠った振りをしながら私気付いてたの。メルクがこっちをずっと見てたこと」

「――えっ?」

「ねぇ。私の事ずっと見てたでしょ?」


 トトアラの問い掛けに、メルクは思わず足を止める。まさか、気付かれていたとは。


 そう、メルクはがっつりと眠っているトトアラを見ていた。正確に言えば、何もかぶらず無防備にさらされている彼女の双丘を見ていたのだが――まさか気付かれていたとは。


(夜目が利かないと思って油断した……そうか、暗闇で目が慣れたんだな?)


 ここで彼女の胸を食い入るように見つめていたことが確定してしまうと、今後の旅に支障が出かねない。そして何よりも、寝ている女性の胸を注視するような変態的な奴と思われてしまうかもしれない(実際その通りなのだが)。

 ここは何としてでも誤魔化すところだ。


「あ、あれは……山賊の襲撃に備えて暇だったから、トトアラの寝顔を観察していたんだな。やはり夜に何もすることがないと、どうしても暇を持て余してしまっていかん。別に私には一切のやましい気持ちなどないが、もしトトアラが自分の寝顔を見られることに対して不快に思っているのであれば私としても大変心苦しく思う。ここは素直に謝罪するので、今後も隔意かくいなく私と旅を――」

「いや、顔じゃなくてずっと私の胸を見てたでしょ?」

「つぅ――む、胸? あぁ、胸か。まぁ、見たと言えば見、た、か? だが、その見たと言っても別に胸ばかり見てたわけではないし、その……たしかにトトアラの胸は魅力的だが、やはり衣服を押し上げ強調されてけしからんなぁーと、あの……誰か悪さする者がいたら問題だと思って見張っていた――そう、胸を見張っていたんだな!」


(――あれ? それって結局、ただ胸だけ見てたことにならないか?)


 メルクは盛大な墓穴を掘った。


「いや、分かってるからそんなに必死になって誤魔化さなくてもいいから」

「ご、誤魔化したりしていない。あ、あなたに私の何が分かると言うんだ?」


 一種、同情するような表情でそんな風に言われ、メルクも少しムキになって言い返す。しかし、トトアラは一層優し気な顔になり、慈愛に満ちた表情となった。


「そうだよねぇ。メルクもなんだかかんだ言って――女の子だもんね」

「……え? 女の子?」

「そうそう。気にしてたんでしょ? 自分の胸の大きさ。大丈夫、メルクの胸はこれから大きくなるよ?」

「……あ、ああ」


 トトアラは盛大な勘違いをしていた。


(だが、助かったと見るべきだな――良かったっ! これほど女に生まれたことを感謝した時はないっ!)


 成人を迎えたばかりのメルクがトトアラと自分との胸の大きさを比べて傷ついている――きっとトトアラはそう考えたのだろう。

 無論、メルクは自分の胸の大きさに頓着とんちゃくしない。いや、むしろこのまま平坦でいて欲しいとさえ願っているし、エルフと言う種族の特性つつましさを信じている。


 それにトトアラが言っていたように、メルクの背丈や雰囲気は既に彼女と変わらないものがある。ここから一部分だけ成長するなんてことはないだろう。


 そこまで考えた時、メルクの頭の片隅に引っかかることがあった。


(――待てよ? そういえばあの時、なんでトトアラはあんなことを?)


 違和感を覚え彼女を見れば、トトアラはすでに歩みを再開させていた。


「うん? どうしたのメルク?」

「あ――いや、なんでもない」


 その無邪気な微笑でこちらを見返したトトアラに何も言わず、メルクも再び歩き出す。

 抱いた疑念は、ひとまず棚上げにした。





 それからひたすらに歩き続ければ、まだ陽が高いうちに山を越えてふもとに辿り着くことができた。

 そんな二人の目に、小さな集落が飛び込んでくる。

 集落と言っても民家は十数軒あるだけで、どれもがほとんど朽ち果てた風情を漂わせていた。おまけにギルドから支給された地図にも載っていないところを見るに、廃村かそれに近い状態なのだろう。


「何だか不気味なところね」

「ああ。おまけに人の気配が……うん?」


 メルクが視線を向けた先にあった一つの民家。

 他の民家よりも一回り大きなその民家から老人が現れ、メルクたちを見て驚いた顔をしている。

 そしておもむろに手招きをしてきた。


「男の人がいるわね? 幽霊?」

「おい、失礼なことを言うんじゃない。ちゃんと生きた人間だ……と思う」


 たしかにトトアラが言うように、その男の老人はあまり生気がなくて顔色もよろしくない。

 だが間違いなく足も生えているし、気配も生きた人間のそれだ。幽霊や亡霊の類ではないだろう。


「驚かせてすまない、ご老人」

「ごめんなさい」


 取りあえず手招きしてきた老人に近寄り軽く頭を下げた。

 おそらく人の訪れがほとんどないこの集落に、メルクたちが現れたことで驚かせてしまったのだろう。


「……あんたたち、旅人か?」


 謝ったメルクたちへ、震える声で単刀直入にそう切り出した老人。その反応に二人で顔を見合わせた後、トトアラが老人を見て頷いた。


「え、ええ。一応、今はそうね」

「……強いのか?」

「強い? ま、まぁ? 実力的にはそこらの冒険者に負ける気がしないわ。強いと言っても過言ではないんじゃないかな?」


 見栄を張るようにトトアラがそう言うと、突然老人が深々と頭を下げてくる。


「すまん、この通りっ! どうか頼まれてくれっ!」


 そして面食らう二人に向かい、そんなことを言ってきたのだった。



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