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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第二章 金と翡翠の冒険者
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第四十四話 波乱


 試験の受付をすませてから三日後、メルクは指示された時間に間に合うように冒険者ギルドへ向かって歩いていた。

 すでに三日の間この辺り一帯は散策をすませていたので、特段目新しいものもない。あの三人の若い男たち以外に『推薦状』を奪おうとする者もいないのですっかり平和なものだ。

 ただ、しょっちゅう声を掛けてくるナンパ男どもには辟易へきえきとしたが。


(十四にやたらめったら声を掛けやがって。変態どもが)


 人間で十四は成人ではあるが、それでもいい年をした男たちが手を出すのは躊躇ためらわれる年齢だ。それに、メルクはエルフであり、エルフの十四と言えばまだ子供。

 いくら大人びて美しいからと言っても、実際に声を掛けられるメルクとしては世の男どもの性癖が少々心配になってしまう。


「……うん?」


 ナンパ男たちにお節介な心配をしてやっていたメルクは、冒険者ギルド付近に止まっている馬車に気付いた。

 なかなかに大きな馬車だ。


「十人……いや、二十人近く乗れそうだな」


 付近の道路が広いために止めておけるが、道行く人々は皆迷惑そうに馬車とすれ違っている。人通りの多い道路幅のほとんど半分を使ってしまっているので、それも仕方ないだろう。


「『魔馬ベルバルル』も三体か。いよいよ二十人は乗れるな」


 客車部分の先に繋がれた額から角を生やした馬の姿を認め、メルクは一人納得する。

 

『魔馬』、あるいは『角馬』と呼ばれる魔物の一種だ。通常の馬と異なり一応は魔物と分類されるが、馬よりも知能が高く、体力も走力も優れている事もあって家畜にしているところも多い。

 エルフの里でも何頭か飼育されていたし、上手くしつければこれほど役に立つ魔物もそうはいまい。


「しかし何故、こんなところに馬車が?」


 疑問に思いながら通り過ぎようとして、メルクは『魔馬』の異変に気付いた。まさかと思い三頭とも確認すれば、いずれも通常と異なっている。これは一体、どういうことだろうか?


「客車をくのに選ばれた三体同時にとは……偶然にしてはできすぎだな?」


 呑気に道行くびと人を眺めている『魔馬』を熱心に観察していると、背後に人の気配を感じた。


「どうしたの? お嬢さん」

「いや……少しな」


 声を掛けられ振り返ると、そこには青い髪の女が微笑しながら立っていた。

 まだ若く、二十代前半と言ったところだろうか。小さく笑っているだけで頬にできるえくぼが可愛らしく特徴的で、また胸元の自己主張激しい膨らみがメルク的には高ポイントだ。


「お嬢さんも冒険者試験を受けるんじゃないの? もうすぐ時間になっちゃうよ?」

「そうか? 悪い……どうして私が試験を受けると分かった?」


 メルクが試験に遅れそうなことを教えてくれた娘に礼を言いかけて、すぐに疑問が湧き首を傾げた。

 害意は無さそうだが少しだけ警戒し、いつでも対応できる心構えをしておく。


「そりゃあ、こんなところに若い娘が木の棒を持って立ってたら分かるわよ。雰囲気からまず堅気じゃないだろうし、けど装備が木の棒ってことはちゃんとした冒険者でもない……なら、受験者かなって」

「ふーん、それだけでわかるものなのか?」

「まぁ、ほとんど勘だけどね。外れてたって「ライバルが一人減ってよかった」としか思わないもの。ちょっと恥ずかしいけどね」

「なるほど」


 青い髪の女の言い分は一応筋が通っていた。だからメルクも軽く頷き馬車から離れる。


「ライバルってことは、あなたも受験者か?」

「そっ。私の名前はトトアラ。あなたの名前は?」

「メルクだ。お手柔らかに頼む」


 お互いに軽く自己紹介して、ギルドの中へと入った。すると朝だと言うのに多くの人々でにぎわい、思い思いの恰好をした冒険者たちがそれぞれの列に並んでいる。


「あ、あそこじゃない?」

「うん?」


 どこに行けばいいのか視線を彷徨さまよわせていると、トトアラがギルドの一角を指さし声を上げた。

 メルクがつられて見ればその一角に、『冒険者試験受験者集合場所』と書かれた札が出ている。そしてそこにはすでに、何人かの受験者らしき人間が集まっていた。


「……これで十七名。――八、七、六、五、四、三、二、一……どうやら、今回の受験者はこれで全員のようですね」


 メルクたちがそこへ行くと中心に眼鏡を掛けた男が立っており、目をつむって数を数えた後に集合を締め切った。


「受付をした者より二名少ないですが、まぁいいでしょう。では、こちらへついてきてください」


 やはり時間厳守なのだろう。来ていない志望者もいるようだが、眼鏡を掛けたギルド職員と思しき男が歩き出す。

 ぞろぞろと十七名の団体で彼の後をついて行けば、ギルド内の一つの部屋に案内された。


「では一人ずつ入室し、受験票と『推薦状』を入り口にいる職員にお渡しください。確認が取れたら、部屋に置いてある椅子の好きなところにお掛け下さい」


 言われた通り受験者の面々が入室し、それぞれ席へついた。

 メルクは前方の端の席に座り、トトアラがそのメルクの隣の席に座る。メルクを見て「にへらぁ」と笑いかけて来たのは、挨拶のつもりなのだろうか。


 そして全員が着席したのを見届け、眼鏡の男が改めて前に立った。


「一応自己紹介しておきましょう。エンデ市冒険者ギルド支部職員兼三等級冒険者のブレガです。皆様の受ける試験での試験官になる――予定でした」

「……なる予定?」


 ブレガと名乗った眼鏡男の言葉に、受験者たちが一様に眉をひそめた。もちろん、メルクにも話が見えず首を傾げる。


「ええ。誠に申し訳ありませんが、今回のエンデ市支部での試験は他で行われることとなりました。つきましては皆様に、そちらへ移動してもらいます」

「はぁ? なんだよそれっ!」

「ふざけるなっ! どこでやるってんだよ?」


 一斉に不満の声が上がり、中にはブレガに詰め寄る受験者までいる始末だ。しかしさすがは三等級冒険者だけあって、ブレガは少しも動じず軽く手を叩いた。


「落ち着いてください。もちろん、急な事ですので移動するまでの猶予をもうけさせていただきます。今から一週間を期日に、新たに指定したギルド支部まで足をお運びください」

「だからそこはどこだってんだよ?」

「同じレザウ公国のログホルト市です。ログホルトの支部までお行き下さい」

「ログホルトっ? ふざけてんのかっ! ここから徒歩じゃ、急いでも十日はかかるだろうがっ!」


 ブレガの言葉に、いよいよもって受験者たちが怒り出す。これは受験者たちの怒りももっともだ。無理をして近道をすれば別だろうが、危険の少ない正規の道を行くなら一週間ではとても間に合わない。

 ギルドだって解っているだろうに。


 だが、ブレガは弁明するどころか詰め寄っていた者を真正面から見つめた。


「嫌ならけっこう。今すぐここからお引き取り下さい。これは決定事項であり、今さらあなた方と議論するつもりはありません」

「な、なんだと?」

「残られる方はそのままお席でお待ちください。これから試験会場へ向かうまでの説明をいたしますので」

「く……」


 いきり立つ受験者を前に表情を微塵みじんも変えず、ブレガは淡々と話を続ける。その異様な雰囲気に圧され、詰め寄っていた者もすごすごと席に座り直した。


(へぇ。これだけ無茶な要求が通るのか。冒険者ギルドってのは、そんなに力を持っているのか?)


 妙な関心を抱いたメルク。まるでそのメルクの心を読んで反発するかのように、


「いや、そいつは納得できねぇーな」


 後方の席に座っていた禿頭とくとうの巨漢がゆらりと立ち上がった。

 


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