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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第二章 金と翡翠の冒険者
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第四十一話 試験受付2


「メルクさん。年齢が十四とありますが、お間違いないですか?」

「うん? ああ、私は今年で十四だ。何か問題があるか?」

「いえ、成人を迎えれば受験資格があるので問題はないかと。ただ、その……十四歳にしては大人びていて貫禄があると思ったしだいで」

「ふふ、老けてるって? よく言われる」

「いえ、そんなつもりは……」


 恐縮したようなナーノを見下ろしながら、メルクは少し笑った。


 たしかに、前世を含めればメルクの精神年齢はもういい年だ。場馴れした風情と言うものがどうしてもにじみ出てしまうだろう。

 まっとうな十四歳と比べて大抵の事には動じず、また少々偉そうでもある。

 すでに並みの大人と何ら変わらない身長を持っているので、おそらくはエレアやルカと同年代と言っても信じてもらえるだろう。いや、それどころか童顔で小柄なルカと並べば年上とみられるかもしれない。


 ただ、エルフの成人とされる十六になれば外見の加齢はほとんど止まってしまう。あと十年二十年、あるいは五年もすれば見た目年齢は簡単に追い越されてしまうはずだ。


(そう言えば種族を書く欄がないので教えていないが、私がエルフなのを言った方がいいのだろうか?)


 自分が十六になった時の事を思い浮かべたことで、そんな疑問が生まれた。

 

 たしかに人間の成人は十四だ。しかし、メルクの種族であるエルフは十六で成人。なら、年齢的には成人していないことになる。


(いや、でも『帯剣の儀』をすませた以上は成人で間違いない。不用意なことを言って混乱を招くのも面倒だな)


 エルフであることを打ち明けたところで、人間に『帯剣の儀』の概念は伝わりにくいだろう。最悪の場合、成人していないと見なされ受験資格がないと受付を断られるかもしれない。

 それならば聞かれてもいないし黙っていることにした。黙っているだけなら、虚偽の報告には当たらないだろう。


「――はい、書類に不備は無さそうですね。では、受験料の銀貨一枚を前払いでお願いします。なお一度頂いた受験料は、理由の如何いかんに問わずお返しできませんのでご了承ください」

「ああ」


 メルクの書いた書類を確認し終えたナーノがそう言ったので、銀貨を支払う。すると、ナーノは先ほど青年に渡したように小さな紙切れを取り出してメルクへ渡して来た。


「『推薦状』をお返しします。そして、こちらは受験票になります。三日後の八の刻までに、それらを用意してお越しください」

「ありがとう……これで受付は完了したのかな?」

「はい……あ、一つよろしいですか?」


 ナーノは少しだけ眉根を寄せて真剣な顔で告げた。


「ヨナヒム様が推薦された方にこのような忠告は不要でしょうが……比較的治安が良いとされるこのエンデ市でも、この時期は強盗が盛んになります。人気のないところでは十分お気を付けください」

「強盗? ふーん、そうなのか」


 昔から治安が良いとされる街でも一定数の犯罪者は存在する。だからナーノの言葉を受けても「いまさらだな」ぐらいにしか思わなかったが、しかし妙な引っ掛かりを覚えた。


(……「この時期」って言ったか?)


「……もしかしてその強盗事件って、冒険者試験があるから頻発するのか?」

「はい」


 受付嬢が首肯したので、メルクは背後を向いてそれほど人が並んでいないことを確認する。申し訳ないと思いつつ、あと少しだけナーノに質問することにした。


「何が盗まれているんだ?」

「『推薦状』です。推薦者の署名さえ魔力がついていれば証明になりますので、偽造は容易です。奪い取って自分で使用する者、あるいは転売する者様々です」

「ギルドは取り締まらないのか?」

「四等級冒険者に推薦を受けた時点で、それなりの力量があると判断されます。『推薦状』狙いの強盗や物盗り程度に遅れを取るようでは、どのみち冒険者にはなれないでしょう」

「……割と冷たいんだな」

「本音を言えば、『推薦状』を守り抜くのも試験の一環であると考えています。そうでなければ、『推薦状』を受付時にお預かりしていますので」


 たしかに注意事項の紙を見れば、受付時点から試験は始まっていると明記されている。つまり冒険者になりたいのであれば、いかなる時も油断するなと言う事だろう。


(随分と格式高いものになったんだな、冒険者ってのは)


 このやりとりによって、エルフの里にある山でエレアがメルクに「冒険者をめている」と言っていたことを思い出す。

 なるほど。この時代において冒険者と言う職業は、就いているだけで他者に誇ることができる存在のようだ。それ故に、彼女は誇りを汚されたと思ったのだろう。


 しかしどうしても、さげすまれ、軽んじられていたかつてのイメージが根強く残るメルクにとって、冒険者が持てはやされている現状に意識が追いつかない。

 

「他にお聞きしたいことはありますか?」


 過去と現在を比べ何とも言えない心持になっていたメルクを、ナーノの言葉が我に戻した。

 

「え? あ、いや」

「ではまた御用の際に。次の方」


 促されてすごすごとカウンター台から離れたメルクは、未だ列に並んでいる『暴火の一撃ドルスウェナ・アベッシオ』のパーティーに片手を上げた。


「こっちの用は終わった。少し市内を回ってくる」

「そうか。この街は初めてだろう? 達成報告は別に一人でもいいし、俺が案内しようか?」 


 声を掛けたメルクに、ヨナヒムが人の良さそうな顔で列から抜けようとした。が、その腕を慌てたようにエレアが掴む。


「ま、待ちなさいよ。あんたは一応パーティーリーダーなんだから、ちゃんと報告しなきゃ」

「そうか? それもそうだが、メルクはこの街を知らないんだ。誰か案内してやらないと」

「う……る、ルカ」


 ヨナヒムを押さえたままエレアがルカに視線で訴える。どうやらヨナヒムではなくルカにメルクの案内を頼みたいらしい。

 ルカは魔導帽の下で少し考える顔をしてから、エレアの方に手を差し出した。


「な、なによ?」

「銀貨一枚」

「ちょっ! それくらい無償でやろうとか思わないの?」

「思わない」

「こ、この金の亡者め……分かったわよっ!」


 懐からお金を取り出そうとしたエレアに、メルクは苦笑しながら掌を向けて制止する。


「いいよ別に。初めての街を案内なしに回るのもおつなものだ」

 

 本当は、エステルトであった前世でいろいろと巡った記憶があるので案内が必要ないだけだ。仮にこの街のことを微塵も知らなければ、やはり案内が欲しいと思っていただろう。


「一人で行くのか? 君なら大丈夫だと思うが、気を付けろよ」

「ああ」

「迷子になって手間かけさすんじゃないわよ?」

「ああ」

「……ん」

「? ああ?」


 三者三葉の見送りを受け、メルクはギルドを出た。

 その際、やはり人々の注目を背に浴びるのを感じ、


(なんだかなぁ……)

 

 何とも言えない気持ちになるのだった。



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