第三十八話 冒険者ギルド
ヨナヒムの講釈を一通り聞いた後、メルクは『暴火の一撃』の面々に連れられ冒険者ギルドに訪れた。
さすがに二等級に上がると言うだけあって、ギルドに近づくにつれヨナヒムたちに声を掛ける者が多くなる。
称賛や羨望の言葉を投げかけてくる者が多く、やっかみや冷やかしの言葉はほとんど聞かれない。
「へっ。女に囲まれていいご身分だぜ」
中にはそんな事を言う者もいたが、
「なんですって?」
「あ……いえ、何でも……」
槍を強く握りしめたエレアに睨み付けられると、すぐさま目を逸らして逃げていく。情けないことだ。いや、それだけエレアたちの強さが知れ渡っているのかもしれない。
「もう少しだな」
「うん? 何だメルク。ギルドの場所を知っているのか?」
何とはなしに呟いた言葉を拾われ、メルクは少し動揺しながら首を横に振った。
「ぼ、冒険者らしき人間が増えてきたからな。そうじゃないかと思って」
「へぇ、やっぱり目端は利くのね。そうよ。もうすぐギルドに着くわ」
珍しくエレアが感心するようにメルクに言った。何だか引っ掛かる言い方だったが、一応は褒めてもらったことで妙な罪悪感が湧く。その罪悪感を誤魔化すために、目の前に迫った建物を指さし声を上げた。
「あ、ほら。あれが冒険者ギルドだろう?」
「ああ、そうだ。まぁ、いかにもって感じな建物だから、一目でわかるよな?」
大きな石造りの建物に、入り口には盾を背景にして剣と杖が交差した紋章。どこからどう見ても冒険者ギルドだ。
こればかりは、初めて訪れるはずのメルクが分かっても違和感はないだろう。
「じゃあ、俺たちは『炎翼狼』の討伐報告を済ませてくる。メルクは『推薦状』を持って、相談窓口の方に行ってみると言い」
ギルドの扉を開けて中に入ると、ヨナヒムが提案してくる。
ギルド内の人の多さに少し驚きながらも軽く頷きかけたメルクは、ふと手元の封筒に目をやった。
「……本当に、この『推薦状』で大丈夫なんだろうな?」
「はは、大丈夫だよ。うーん、そうだな――『此の少年、我が認めし一等級に至る者なり』」
「はぁ?」
突然、メルクの持つ『推薦状』の文言と似た言葉を呟いたヨナヒムに視線を送れば、彼は照れくさそうに鼻頭を書いた。
「師匠が書いた、俺のための『推薦状』の文句だ。俺はそれで試験を受けられたんだ。だからメルクも問題ないと思う」
「……へぇ、勇者がねぇ」
どうにもヨナヒムらしくない言葉だと思っていたが、彼の師匠である勇者――フォルディアの言葉を借りただけだったようだ。何となく、妙なところでお調子者のフォルディアが書きそうなことではある。
メルクはすんなりと納得した。
「まぁ、駄目ならもう一度書いてもらうさ。取りあえず行って来る」
「ああ、また後で」
ギルド内で『暴火の一撃』と別れ、メルクは相談窓口と言うところへ向かった。
エステルトであった頃に、この冒険者ギルドのエンデ支部には何度か訪れた。当時はそのような名前の窓口はなかったので、おそらくはこの十五年の間に設置されたのだろう。
きちんと札も出ていてわかりやすかった。
「この後ろに並べばいいのか?」
冒険者たちの大半が用のある依頼紹介窓口や達成報告窓口には、もちろん長蛇の列ができている。
しかし、あまり需要がなさそうな相談窓口にも、何人かが並んでいた。その事に少し違和感を覚えながらも、メルクは取りあえず一番後ろにいた男の背後についた。
「なぁ、聞きたいんだが」
「あん……」
舐められないためなのか、声を掛けたメルクに肩を怒らせながら振り向いた男は、彼女の姿を見下ろして呆然とした表情を浮かべる。
どうやらむさ苦しいギルド内に場違いな、美しい少女の姿を認めて固まってしまったようだ。
「おい、聞いてもいいのか?」
「あ……ああ。な、なんだ?」
「私はギルドに訪れるのは初めてなんだが、この相談窓口にはいつも、こんなに人が並ぶのか?」
「うん? ああ、まぁそうだな。つっても、ほとんどの奴は別に相談しに来ているわけじゃねぇ。ここは冒険者試験の受付も兼ねていてな。おそらく、俺の前に並んでいる奴らは全員冒険者志望なんだろうよ」
驚きから立ち直ったのか、男は肩を竦めながら饒舌に語りだす。その声音や様子からメルクに良いところを見せたいのがありありと分かり、内心で苦笑してしまう。
(まぁ、こんなところで美人に話しかけられたら、誰でもその気があると思っちまうか)
少し軽率な行いだったかと反省したが、すでに声を掛けた以上は取り返しもつかない。メルクは仕方なく、この男からできるだけ情報を聞き出すことにした。
「そういうあなたは冒険者志望ではないのか?」
「俺か? 俺はすでに冒険者だぜ。へへ、『礫のレフレン』って名は、それなりに有名なつもりだぜ」
「ほう、異名持ちか。格好いい渾名だな」
「ねえちゃん、なかなかわかるじゃねぇーか。用が済んだらよう、一緒に飲みに行かねぇーか? へへへ」
「……そう言う話は用が済んでから頼む。取らぬ獣のなんとやらと言う奴だ」
レフレンと言うらしい男のあからさまお誘いに、メルクは頭ごなしに拒否することなくやんわりと保留した。
もちろん、断じてこの男と飲みに行くつもりはないが、話を聞き出すまではいい気分にさせておこうと考えたのだ。
「そうかい。まぁ、俺の用は直ぐ済むんだ。ギルドから借りていた金を返すのさ」
「金を返す? なんだ、冒険者ギルドは金まで貸してくれるのか?」
「ああ。ただ、等級によって借りられる金額の上限が決められているし、利子もそれなりだ。奴ら、受けた依頼の報酬から差っ引いてくるから踏み倒す事もできねぇ。なかなかがめついぜ」
忌々しそうに呟くレフレンに「なら借りるなよ」と言いかけて、すんでのところで留めた。こういう輩は正論を言われても、気分を害するだけだろう。
「しかし、金を返すと言っても報酬から引かれるんだろう? わざわざ直接返す必要があるのか?」
「……へへへ。少し別口で仕事があってな。ギルドを介さずに受けた依頼でかなり儲けが出たんだ。だから気前よく、払ってやろうと思ってな」
「ほう……」
ギルドを介さず受けた仕事の中身に少し興味があったが、聞いたところで教えてはくれないだろう。それに、厄介事であれば面倒に巻き込まれる可能性もある。それは断じて御免であった。




