第十七話 冒険者の実力
「……随分と早いお出ましだな」
山の中腹まで来た一行は立ち止まり、そして立ちはだかるように列をなして現れた『翼狼』にヨナヒムが苦笑を浮かべる。
目的地である『畏れの洞窟』はまだまだ登った先にある。それにも関わらず、『翼狼』たちが待ち受けているということは、どうやら見張りを立てていたらしい。
「メルクは下がっていてくれ。数は……十六か。エレア、ルカ、八体は任せてもいいか?」
「もちろんっ!」
「……まぁ」
非戦闘員であるメルクを後ろに下げると、『暴火の一撃』は即座に戦闘態勢を整える。
ヨナヒムが右手側に立ち、左手側にエレア、そのエレアの後ろにルカが立った。どうやらこれが、彼らの戦闘陣形のようだ。
(さて、お手並み拝見と行きますか)
守られる形となったメルクは腕を組んで冒険者たちの戦いを見守る。
もちろん、彼らが劣勢になった時は助太刀するつもりではあるが、多勢とは言え『翼狼』相手に手古摺るようでは『炎翼狼』の討伐など不可能だ。
たしかな自信と実力を以てこの場にいるのであれば、問題なく撃退できるだろう。
『グラァァっ!』
山の斜面の傾斜を利用し、一気に一匹の『翼狼』がヨナヒムに迫る。そして真正面から飛び掛かり――。
「――ふっ」
いつの間にか『翼狼』の脇に逸れてやり過ごしたヨナヒムが、これまたいつの間にか抜いていた剣を鞘に納める。
そして、通り過ぎた『翼狼』が立ち止まろうとして、全身から血を噴き出させ絶命した。怖ろしいまでの剣速と正確さ――メルクでなければ見逃していただろう。
「ひゅー」
ヨナヒムの剣がすれ違いざまに『翼狼』を何度も斬りつけていたのを見極めていたメルクも、その腕の良さに下手くそな口笛を吹く。
やはりヨナヒムと言う冒険者、なかなかやる。フォルディアの剣を持っている事と言い、この技の冴え、たしかにあの男の弟子と言うのは偽りなさそうである。
「はぁっ!」
一方のエレアたちと言えば、こちらも全く危なげなく戦っていた。
迫り来る『翼狼』に対し、リーチのある槍を突き出して離れた距離で仕留める。その槍を引き抜く間に迫ろうとする『翼狼』も、エレアの背後で構えるルカの魔法で吹き飛ばされて手の出しようもない。
洗練された戦い方だった。
「……ふふん、面白い物見せて上げる」
そして戦いの最中、何故かこちらへ一度視線を寄越したエレアが、『翼狼』に向き直って不敵な笑みを浮かべた。
何をするつもりなのかと思えば、彼女は先ほどと同じように迫って来た『翼狼』を槍で一突きにする。その瞬間――『翼狼』が燃え上がった。
「……発火する槍?」
痛みと熱でのたうち回る『翼狼』から槍を引き抜き、エレアが挑発するように笑みを深くする。
「どう? びびった?」
「えーと……うん、すごい腕だな」
「へん、当り前じゃない」
メルクが一応認めたので、してやったりとばかりに再び『翼狼』たちを倒していく。その後ろ姿を乾いた笑みで見つめ、メルクは携えている木の棒の柄尻に手を置いた。
(たしか『水燃槍』だったか? 魔力を刃に注いだ状態で水分に触れると燃え上がらせる、物騒な武器だ)
前世、エステルトだった頃の記憶を探り、エレアが持っている槍の正体に見当をつける。
あれは、大陸の中央寄りにあるラウバダ王国の迷宮で発見された槍だ。以前は有名な冒険者が所持していたはずだが、どのような経緯で彼女が持つようになったのだろうか?
気になったが次々と燃え上がっていく『翼狼』たちを前に、考える気も失せた。哀れな魔物たちは自分たちの体内を廻る水分――つまり血液が発火することによって炎上しているのだ。
何ともむごい死に様である。
「――『火矢』
そして、エレアの背後で魔法を振るう魔女も負けてはいなかった。
ルカの持つ黒い杖から放たれた火の塊が上空で制止し、そして無数の火矢となって『翼狼』たちに降り注ぐ。
『キャンっ?』
『ガァっ!』
一本一本が、丈夫な毛皮に守られているはずの皮膚を貫き、『翼狼』たちに大ダメージを与える。
侮って逃げ遅れたものなど無数の火矢に全身を貫かれ、あらゆる箇所を焼かれながら絶命していった。当然ではあるが、こんな死に方はしたくない。
「なるほど、『暴火の一撃』ね。こりゃあまさしく、暴火だわ」
熱を帯びた風が辺り一面に吹きわたり、その熱さに顔を顰めながらメルクは納得した。あの無駄のない魔力の構築速度と違わず狙い撃つ制御力。ルカの得意魔法は火属性なのだろう。
『水燃槍』を持つエレアと合わせれば、まさしく『暴火』だと言える。
肝心のリーダーであるヨナヒムは、フォルディアから譲られた剣でもって堅実に迅速に『翼狼』を狩っているが、火を使う様子は一切ない。
手の内を隠しているか、あるいは単純に彼は火を使わないのか。
(まぁ、メンバー全員が火一辺倒だと対策されやすいしな。名前自体がミスリードってこともあり得る)
冒険者パーティーの相手は、何も魔物だけとは限らない。時と場合によっては、別のパーティーと対決することだってある。そんなときに、名前から弱点を悟られては優れたパーティーとは言えないだろう。
メルクの眼から見て、『暴火の一撃』はそんな間抜けには見えなかった。
「……ヨナヒム。お前たちは何等級冒険者だ?」
待ち受けていた『翼狼』たちを返り討ちに、いや、それどころか蹂躙して見せた冒険者たちにメルクは尋ねた。
エルフの里に現れた『炎翼狼』の討伐に乗り出した時点でただ者ではないと思っていたが、この数の『翼狼』相手に撃退どころか無双して見せた姿は度が過ぎている。
並みに毛が生えた程度では済ませられない実力者だ。
「ああ、言ってなかったか? 俺たちは一応、三等級冒険者だ。まぁ、予定では今回の依頼をこなせば二等級に上がるはずだけどな」
「二等級……へぇ、その歳で二等級はなかなかのもんだ」
冒険者ギルド公式の冒険者パーティーの格付けは、下から上へ六等級から一等級となっている。
一等級冒険者と言うのは、エステルトが冒険者をしていた当時では、彼らを含めて僅かに五組しかいなかった。そして、ヨナヒムら『暴火の一撃』が上がれそうだと言う二等級ですら、広い大陸においても五十組すらいなかったはずだ。
この十数年でその数がどのように変化したか知らないが、それほど変わりはないはずだ。そう考えると、これほどの若さで二等級に値すると言う『暴火の一撃』の実力は大したものである。
「何で上から目線なのよ?」
そう考えて素直に称賛したメルクに、不満そうにエレアが突っかかってくる。たしかにあまりにも感心しすぎて、メルクの中にあるエステルトの部分が少し出てしまったかもしれない。
「不快に思わせたなら非礼を詫びよう、申し訳ない。だが、感心しているのは本当だ。将来、君たちなら一等級冒険者になれるかもしれないな」
「ふ、ふんっ! 当然じゃないっ」
頭を下げてから顔を上げてエレアに真っ直ぐな視線を送ると、彼女はそんな素直な反応が返ってくるとは思わなかったらしい。
少し戸惑った後にどうしていいか分からなくなったのか、お決まりのように昂然と胸を張った。
そんなエレアにパーティーメンバーは苦笑するような表情を向け、彼女と正面から向き合うメルクは、
(おお、でけぇ……)
強調されたその双丘に、邪な目を向けるのであった。




