第十五話 暴火の一撃
「やぁ、世話になる。改めて、俺はヨナヒム。冒険者パーティー『暴火の一撃』の一応リーダーだ」
屋敷を出て人気のないところに来ると、男冒険者はメルクにそう名乗った。立ち上がってみれば彼の偉丈夫ぶりがはっきりと分かる。背丈は十四にしては背の高いメルクよりも頭が一つ、二つは抜けている。
前世では冒険者をしていたメルクだが、『暴火の一撃』というパーティー名にもヨナヒムという名にも馴染はなかった。
おそらくはエステルトが死んだ後に頭角を現したパーティーなのだろう。
ヨナヒムという男が「一応リーダー」と言ったあたり、あまり上下関係は厳しくないのかもしれない。エステルトが所属していたパーティーと少し雰囲気が似ている。
「……あたいの名はエレア」
そしてメルクの方を無言で睨み付けるように見ていた槍遣いの女が、ヨナヒムの視線に促されるようにそう言った。だが、名前を告げただけでそれ以上の事は言わない。
メルクが案内をすることに対し、分かりやすくあまり良い顔をしていなかった。
「ルカ、魔法使い」
こちらの方はもっと素っ気なかった。
しかし、エレアと名乗った槍遣いのように特に嫌な感じは受けない。ただ単に、こういった話し方なのだろう。
「私の名はメルク。『炎翼狼』が拠点にしていると思しき洞窟の場所は何度か行ったことがある。そこまで案内しよう」
「いや、案内はその周辺まででいい。あとはルカが『炎翼狼』の気配を探知してこちらで見つけ出すよ」
「いいや、遠慮はしないでもらいたい。魔力を探知するにも労力はいるはずだ。洞窟まで直接行けばそんなことをする必要もない」
「……遠慮じゃないんだけどなぁ」
困ったように頭を掻くヨナヒムの気持ちは何となくわかる。
傍目から見て戦える者に見えないメルクを心配してくれているのだ。しかし、メルクの目的は単なる案内ではなく、機会があれば自身の手で『炎翼狼』を討伐することだ。なので譲ることはできない。
なんとしてでも冒険者パーティーに同行する必要があった。
「ちょっと、頭使いなさいよ。足手纏いだって言ってんのっ!」
我ながら頭の悪い無理を言っている自覚があるメルクに、分かりやすく暴言を吐きながらエレアが一歩近づいてくる。
その圧倒的な胸に目を奪われながらも、メルクは首を大袈裟に傾げてみせた。
「足手纏い? まさか皆様のような凄腕の冒険者が、案内役のエルフ一匹守れないなんてことはないでしょう?」
「うっ……と、当然じゃない」
煽るような一匹のエルフの言葉に、凄腕冒険者は咄嗟にと言う様子で昂然と胸を張る。
(ふ、かかった)
前世でこういった手合いのあしらい方は慣れているので、エレア程度の小娘など簡単に丸め込める。
メルクは内心でほくそ笑みながら、素知らぬ顔で強調されたエレアの胸を見ていた。
「こら、エレア。相手は『炎翼狼』だぞ? いくら俺たちだって余裕はないんだからな?」
「わ、分かってるわよっ! けど、こんな馬鹿にするように言われたら、大丈夫って言うしかないじゃない。それに、あたいたちなら大丈夫よ」
「またそんな、根拠のないことを……えーと、メルクさんだっけ? あんまりうちの槍遣いを煽らないでもらえるかい?」
「ふっ。煽ったつもりはないが、そう感じたのであれば非礼を詫びよう。申し訳ない」
形だけの謝罪を済ませ、メルクは洞窟までついて行くのが決定事項であるかのように、それ以上は案内に言及せず歩きだす。
「さて、さっそく山に向かおうと思うが何か必要な物があるだろうか? 登山の時間と『炎翼狼』との戦闘時間を考えるに、あと半時ほどしか猶予はないはずだが」
冒険者たちがどのくらい戦えるか知らないし、山に巣食う『炎翼狼』がどの程度の手強さなのかも知らない。なので、これはおおよその推測なのだが、おそらくそこまで外れてはいないはずだ。
「うーん、特に俺は問題ないかな。二人は?」
「あ、あたいはヨナヒムが準備できてるなそれで……」
「問題ない。すぐ行ける」
一様に問題は無さそうなので、とりあえず山へ向かう。その際、緊張感がないのか、あるいは緊張を和らげるためなのか、ヨナヒムがしきりに話しかけてきた。
「いやぁ、エルフの里ってもっと排他的だと思っていたけれど、意外と人間に対しても友好的なんだね?」
「は?」
先ほどの問答を見ていたはずなのだが、そんな的外れな言葉を聞かされて、メルクは思わず低い声を出してしまった。
しかし言うに事欠いて、人間に友好的とは……。
たしかに冒険者ギルドに依頼を出す程度には排他的ではないし、メルクの父のように日頃から人間に関わっているエルフもいる。かと言って里全体で見た時に友好的でもないと思う。
先ほども、「人間の案内などみんなごめんだ」的な遣り取りをしていたのだし。
「それにやっぱり、エルフって均整のとれた美人が多いね。男からしたら目の保養になる里だよ」
「え、ああ。それは思うが……」
「あ、これ種族的差別になるのかな? ごめん」
前世が同じ男だったので同意すると軽い調子で謝られ、こっちの調子が狂ってしまう。何だかこの感じ、酷く懐かしい。
「均整のとれた美人って、あんなの貧乳じゃない。魅力的な身体つきとは言えないわ」
そう思っていたらヨナヒムに褒められたエルフが羨ましいのか、すこぶる魅力的な身体つきのエレアが反論する。言われるまでもなく、エレアやルカとメルクを含めたエルフたちを比べてみれば、その身体つきの違いは一目瞭然だ。
どちらの体型に心惹かれるかは個人の嗜好しだいだろうが、一般的にはエレアたちの方が好ましく思われるのかもしれない。
実際、メルクとしてはエレアやルカの方に魅力を感じてしまう。
そんなメルクを嘲笑うかのように、ヨナヒムは好青年さながらの涼し気な顔をエレアに向けた。
「そうかな? 容姿はあくまでも目の保養になるか、気になるきっかけになるか程度だろう? 結局本当に魅力を感じるのって、体型とかじゃなくて相手の性格とか心とか……内面的なところじゃないかな?」
「はぁ――」
(――こいつ、ぶっ殺してやりてぇ……)
何気ない様子で微笑しながら言ったヨナヒムに、メルクは口に出しかけた言葉を内心だけに押し留める。
さすがにその殺意の言葉は、あまりにも脈絡がなくて誤魔化しようがないからだ。
しかし、あまりに爽やかさを伴って紡がれたその言葉は、どうやらエレアには覿面に効いたらしい。
「そ、そうねっ」
見つめてくる美男子と目も合わせられなくなったのか、エレアが赤くなった顔をヨナヒムから背けた。そして、反対側にいたメルクと今度は目が合う。
「な、何よっ!」
「いや、何でもないけど」
「ならこっち見ないでっ!」
(そっちから向いてきたんだけどなぁ)
まぁ、赤くなった顔を見られるのは恥ずかしいのだろう。精神的にはずっと年上なメルクは気を遣い、反論せずに隣へ顔を移した。
そこには、「我関せず」と言わんばかりの魔法使いルカがいた。
「……えーと、ルカさんはどういった人に魅力を?」
流れから話しかけるべきかと問いかけると、魔導帽の下から少しだけ見える目をこちらへ向けてきた。
「……金、持ち」
「……さいですか」
冒険者パーティー『暴火の一撃』――なんだか面倒くさそうなパーティーだと思った。




