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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第一章 出郷のエルフ
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第十四話 立候補


「――と言うわけで、すまんが早々に『炎翼狼ゲゾ・ヴェルチェ』を討伐してもらいたいのじゃ」


 メルクが男冒険者の持つ剣に思いをせていると、どうやら里長の話は終わったようである。


「分かりました。では、『炎翼狼』がいる場所までどなたか案内していただけませんか?」


 今まで頷くのみで黙って話を聞いていた男冒険者が低音かつよく透る声でそう訊ねると、里長は表情を険しくした。


「そう、じゃのう。しかし、発見者に案内させるのは少々酷じゃろうて……しばらく山に入るのは恐怖じゃろうからな。代わりと言っては何だじゃが、登山用に『魔馬ベルバルル』を貸し出すことは可能じゃが」


 案内人ではなく、エルフの町で飼育している乗馬用の魔物を貸し出そうとした里長に、青年はやんわりと首を振る。


「いえ、『魔馬』に乗っているとどうしても蹄の音で気付かれやすくなります。それに普段馬に乗る習慣もないので、騎乗には慣れていないのです。有難い申し出ですが、ご遠慮しましょう。それよりも発見者じゃなくて構わないので、案内人を付けてください。正確な場所でなくとも、近くなればうちの魔法使いが魔力で気配を探れますので」

「うーむ……」


 青年の譲歩に、悩まし気に首を傾げる里長。おそらくは危険な山に里の者を近づけたくなくて、場所の説明は口頭で済ませるつもりだったのだろう。


 だが冒険者の立場から言えば、地図もなく土地鑑もない山を口頭だけで探索するのはあまりにも無理がある。

 山を闇雲に探し回れば、手強い魔物を相手取る前に疲弊ひへいするのは目に見えていた。それは何としてでも避けたい事だろう。


(……待てよ? もしこの冒険者たちが討伐に失敗した時、私が尻ぬぐいをしてやれば、やはり私が『炎翼狼』を討伐したことになるんじゃないか?)


 難しい表情のまま考え込む里長を見やり、剣の事は一旦忘れてメルクの中にそんな思惑が浮かび上がる。

 案内役としてついて行き、冒険者たちが『炎翼狼』の討伐に失敗したところでメルクが見事に討伐。そして里を救った英雄として認めてもらい、この里を出るのだ。


 もちろん、冒険者たちがスムーズに『炎翼狼』を討伐できるのであればそれでもいい。里を出たいというのはメルクの我がままあって、つつがなく魔物たちが討伐されるのは多くの者の願いなのだから。さすがにそれを無下むげにはできなかった。


「里長。大体の場所で良いなら、適当な狩人に任せてみればいいのでは? 魔物どもは『畏れの洞窟』を拠点にしていることは分かっているので、その辺りまで案内させるのです」

「う、む」


 里長の隣にいた案内役が、抜け目ない眼差しを冒険者たちに向けたままそう進言する。それを受けて、里長は渋々といった風情で頷いた。


「……よし。ではこれから希望者を募って、里の者を案内に出そう。これから選定をするので、暫し待たれ――」

「――その必要はありません」


 里長の言葉を遮り、メルクがふすまを開け放って部屋へ入った。当然、隣のローは目を丸くするし、周囲の者も困惑顔だ。


「め、メルクっ!」

「これっ! 来客中だぞっ!」


 驚いた里長が声を上げ、隣の相談役が声を荒らげた。年頃の娘がはしたないと言わんばかりの表情だ。元々相談役は、木の棒ばかり振り回してちっとも女らしい様子を見せないメルクのことを快くは思っていなかったのだ。

 最近では他の者が、ルゾーウルムの弟子として腕を上げたメルクを誉めそやすものだから一層気に食わなかったに違いない。

 だが、メルクはそんな事情や反応を一切考慮することなくその場でひざまずいて顔だけ上げる。


「里長。冒険者の皆様の案内、このメルクが致します」

「な、何じゃと? しかしお主はまだ子どもではないか」

「そうだ。山は子どもだけの立ち入りが禁じられている。お前の出る幕ではない」


 メルクの突然の申し出に、里長と相談役が一斉に異を唱える。部外者である冒険者たちは急な展開に目を細めつつも、黙って推移を見届けることにしたようだ。 

 特に口を挟まない。


「しかし、今回の入山する目的は冒険者の方々の案内です。冒険者の皆様がついていらっしゃる以上、私だけということはありません。それに、果たして進んで案内に出る者が他にいるでしょうか?」

「む……」


 メルクの言葉に里長が苦し気な声を出して眉根を寄せる。たしかに、メルクの言うことも一理あると考えたのだろう。


 人間がエルフに対して一種の神聖さを覚えているのと同様、エルフ側も人間に対して一歩退いた目線に立っているのだ。


 かつてはエルフと人間は相容れない存在として、敵対するではないが歩み寄ることのなかった種族同士だ。今でこそ、時と場合によってこういった事務的な交流もするし、メルクの父であるオロンのように人里を職場に選ぶ者もいる。

 だが、それは現在においても稀なことであり、両者には未だに根強いわだかまりがあるのだ。


 里長の屋敷内を窺っているエルフの者たちにしても、遠くから隠れて見る分には良いのだろうが、実際に冒険者たちの案内役を任されたら逃げ出すことだろう。

 理屈ではないのである。


「……メルク、危険じゃぞ? お主とて、ガナンのことは忘れたわけではあるまい?」


 だが、やはりすんなりとは決められないのか、跪くこちらを立ち上がって見下ろした里長が鋭く言う。その『ガナン』という名前に少しだけ虚無感が心に生まれたが、それも一瞬のことだった。

 メルクは不敵に里長を見上げて笑う。


「里長こそお忘れですか? あの時の『翼狼ヴェルチェ』を、私が討伐したってこと」

「……ああ。そうじゃった、そうじゃったな。よかろう、行ってくるがいい」

「里長っ!」


 メルクの案内を許可する里長の言葉に、相談役は翻意を促すための叫びを上げた。しかしその相談役を、里長は挑むように見下ろした。


「メルクの言う通り、おそらくこの里で彼らの案内を買って出る者はほとんどおるまい。それともお主……行ってくれるかのう?」

「……よし、行ってくるのだ、メルク」


 里長に問われ、あっさりと相談役は翻意を諦めてメルクの入山を了承した。何とも保身的な男である。


「えーと、君が俺たちを案内してくれるんだね? ここじゃ落ち着かないし、少し場所を移そうか?」


 こちらの話が済んだのを見届け、冒険者の男がメルクへ柔らかく笑いかける。なるほど、赤い短髪で爽やかな笑顔の似合うなかなかの美男子である。メルクの前世とは雲泥の差だ。


 そんな彼に促され、メルクは他の冒険者たちとともに場所を移すことにした。



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