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最強剣士のRe:スタート  作者: 津野瀬 文
第四章 黒痣の村
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第百二十五話 診察



 バザルに現段階でもっとも効果が期待される予防薬を投与されたメルクは、時間を無駄にはしなかった。


 さっそくバザルの案内でいくつかの家々を回り、そこに症状ごとに分けられる形で隔離されていた患者たちを見て回る。

 無論、さすがにフォルディアやスウェイミルは「今度は絶対についてくるな」と言い含めて置いてきた。彼らは今、バザルが用意した夕食を食べている。


「バザル先生……と、誰?」


 案内された民家の一つに、比較的症状が軽いと思われる少女たちが集められたところがあった。そこにバザルと共にメルクが訪れると、出迎えてくれた少女たちの中で、最年長と見られる娘が首を傾げてメルクを見てくる。


「ああ、この方はメルクさん……私と同じ薬術師さんだよ」

「へぇ? 若いのに、すごいんですね?」


 感心したように少女らに見上げられ、メルクは思わず苦笑した。

 常にエルフとしての年齢よりも上に見られるメルクだ。メルクを「若い」といったこの少女も、メルクが自分と同じくらいの年頃だと知ればもっと驚くだろう。


「私はヤーマって言います」

「ヤーマ? どこかで……ああ」


 病に侵されているとは思えない無邪気な笑顔で自己紹介してきた少女の名に、メルクは聞き覚えがあって頷いた。


 記憶が確かであれば、この娘はエディンとデネミスの娘のはずだ。だがそれをここで言うのは、あまりよろしくないだろう。


 さりげなくバザルに目をやれば、案の定、彼は小さく首を横に振った。

 メルクも小さく首肯して、 エディンと知り合いであることを億尾にも出さず振る舞うことにした。


「ところでヤーマ。なんで君たちがここにいるか分かるか?」

「もちろん。私、病気なんでしょう? 私だけじゃなくて、村のほとんどの人が。だからみんな、元気な人に病気をうつさないようにここへ閉じ込められてるんでしょう?」

「ヤーマ。閉じ込められてるとは人聞きが悪いじゃないか。これは大切なことなんだよ」


 ヤーマの率直な物言いに、バザルが少しだけ眉を上げて心外だと言わんばかりの表情をする。メルクはそれを目で制し、ヤーマに簡易ベッドに座るよう促した。


「悪いけど、少し身体を見せてもらってもいいか?」

「いいですよ」


 座ったヤーマは慣れているのか、躊躇うことなく服を脱いで上半身を晒す。

 精神が男であるメルクだが、さすがに医療目的で少女に邪な感情を抱くほど落ちぶれてはいない。

 それにヤーマのようなスレンダーな女性の裸体など、エルフの里で医療行為の際に何度も見てきたのだ。今さら意識することもない。


「うーん。先ほど見た患者とは違って、それほど進行はみられないようだな」

「ええ。むしろ従来の薬が効いているのか、症状が落ち着いてきていますね。このまま治癒するといいのですが……」


 ヤーマの身体を一通り視診し、黒い痣がないことを確認した。首元や腋窩えきかなどの触診も行ったが、どうやら腫れているということもなさそうだ。


「……肺の音も問題ない、臓器も無事だろうな。あとは少し熱感があるくらいかな?」


 メルクはヤーマと同じように、部屋にいた少女たちの診察を行ったが、いずれも重篤な症状やその兆候は見られなかった。



 少女たちに別れを告げ、その後、全ての部屋を診て廻ったメルクは、バザルと共に彼の研究室がある民家へと歩を進めていた。

 その際、暗闇をランプで照らしているバザルに向けて首を傾げる。


「診察した限り、症状は青年や中年の大人の方が進行が早いようだ。少年も少女も比較的症状が軽いように感じた。先生はどう思う?」

「ええ。おそらく若い分、抵抗力も強いのではないかと思います」


 バザルが同意するように軽く頷いたが、メルクは不満を覚えて目を細め彼を見る。


「バザル先生は私を試しているのか? ずっと村人たちを観察している先生が、そのことに気付かないはずがない。何故、事前にそのことを教えてくれなかったんだ?」

「別に試してなどいません……子どもたちより大人の方が重症の者が多いのは、診ればすぐに分かります。わざわざお伝えするほどのことではありません」

「……まぁ、いいか」


 素知らぬ顔でメルクの視線を受け流したバザルに思うところがなかったわけではないが、気にすべきところは他にもある。


「妙だと思わないか?」

「……何がです?」

「この状況だ。いくら子どもたちが若く抵抗力があるとはいえ、四、五歳の幼児まで発症していながら体力が落ちているように思えない。あまりにも症状が軽すぎる。まだ二十前後の、抵抗力も体力も有り余っている男女に深刻な増悪が見られるにも関わらずだ」

「メルクさん。薬術や治癒術に携わっているあなたなら、どんな病気でも症状の現れ方は個々によって異なることくらい知っているはずでしょう。そう言った例が見られても不思議ではありません」

「一、二件ならともかく、村中がそんな状態でもか?」


 仏頂面をしているバザルを鋭く見上げ、メルクは腕を組んだ。


「第一、抵抗力の話で言ったら老人たちはどうなる? ネッドさんをはじめ、老人たちは発症が見られないか子ども同様に症状が軽い。まるで……まるで一定の世代を狙い撃ちしているようだ」

「……病気が人を選んでいるとでも?」

「ああ。もしくは少年や老人たちが、青年、中年にはない何らかの免疫を保有しているか、だな。村人たちの症状の軽重を偶然で片付けるよりも、よほど理にかなっているはずだぞ」


 メルクの言葉に、バザルは大袈裟とも言えるくらい目を瞬かせて大きく頷いた。


「なるほど。子どもや老人に特殊な免疫がある……っ! それは考えつきませんでした。さっそく彼らの血を採取し、免疫の有無を調べてみましょう」

「ああ、明日からな。さすがにもう暗い、患者の迷惑になるだろう。ところで私たちはどこに泊まればいい? 先生の研究室がある民家か?」

「いえ、それは困りますっ」

「え?」


 なんとなしに問いかけたメルクに対し、バザルが思わぬほど強い口調で意思表示してきたため面食らってしまう。

 彼が借りていた研究室、もとい民家はいくつも部屋があった。メルクたちを止めるのも容易かろうとそれほど無理難題を吹っ掛けたつもりはなかったので、メルクとしては少しショックだった。


「……ああっ、いや――」


 バザルも強く拒みすぎたと思ったのか、少しだけ取り繕うような笑みを浮かべて小さく頷いた。


「そうですね。研究室は『黒痣病エムス・ナン・シーエ』の菌があるかもしれません。メルクさんたちのお部屋はネッドさんにでも用意させてもらいますので、少しお待ちください」


 研究室のある民家に着くやいなや、いそいそと暗闇の中をランプをかざして駆けて行くバザル。おそらくネッドの元へ、手頃な民家を借りに行ったのだろう。

 夜目が利くメルクはそんな彼の後ろ姿を、首を傾げて見送った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 微妙かな名探偵コナンくんじゃないんだし どこかの聖女さまとか、聖職者みたいに「疑わしきはまず殴る」くらいが「なろう」のラノベらしいと思いますよ。
[気になる点] バザルさんの挙動的に黒痣病作成の痕跡が民家にありそうだな。 [一言] メルク気付いてなさそうだし、どうやってみつけるのか気になる。
[一言] あからさまに怪しいんだよなぁ
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