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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第三十八話 ベルーツ

 古来より王侯貴族の血筋に関しては、時にスキャンダラスな、時にミステリアスなところがあるのが常と言われている。

 神話の登場人物にルーツを持つ騎馬王国の族長しかり、神を王と戴いた初代ヴェールガ公爵しかり。

 その風潮はティアムーン帝国においても、例外ではない。

 何らかの事情で、サンクランド王国から出た第二王子エシャールと結婚したエメラルダ・エトワ、グリーンムーン、一兵士でありながら、士爵に叙せられた男と結婚したルヴィ・エトワ・レッドムーンをはじめ、イエロームーン家令嬢や、他の貴族たちにおいても、その手の話は後を絶たない。

 そして、帝国の叡智の孫娘、ミーアベル・ルーナ・ティアムーンの出自にも、いささかミステリアスかつ、スキャンダラスな一面が存在していた。

 と言っても彼女自身や両親に関するものではない。それは、彼女の父方の祖父に関するもので……。


「ねぇ、ベルちゃん、少しいいかしら……?」

 その日、ベルは、シュトリナと共に図書館に来ていた。

 自らが持つ課題を解決するため……。すなわち、彼女が過去に飛ばされてきた理由を、真面目に検討するため……などではなく……もちろん、単純にテスト対策である。

 冬休み明けのテストを見て、さすがにヤバイと気付いたらしいシュトリナとリンシャによって、ベルへの大変厳しい(リンシャ&シュトリナ比)教育が施されようとしていた。

 そうして、ルードヴィッヒ作成の、初級(ルードヴィッヒ比)問題集を前に、ベルは悲しげな顔で佇んでいたのだが……。

 そんなベルにシュトリナが話しかけたのだ。

「リーナは、ベルちゃんが生まれてくるために全力を尽くそうと思ってるの。だから、教えてほしいことがあるの」

「教えてほしいこと……?」

「うん、そう。ベルちゃんのお父さまって、どこの誰なの?」

 唐突な問い。ベルは、んー、っと小さく首を傾げてから。

「はい。そうですね。お話ししておいても大丈夫だと思います」

 珍しく、キリリッとした顔をして言った。別に、勉強をやるより楽そうだぞぅ、などと思ったわけでは決してない。ベルだってやる時にはやる人なのだ……たぶん。きっと!

 なので、それは、ただ単に、こちらのほうが重要だとベルが判断しただけであって、決してサボれるから、というわけではないのだ。

 そういうわけで、ベルは嬉々として、話し始める。

「ボクのお父さまは、ツロギニア王国という国のチャルコス伯爵家の人です」

「ええと……ツロギニアというと、帝国の南方の国だったかしら?」

 シュトリナは頬に指をつけて、ちょこん、と首を傾げる。

「あまり大きな国だったという記憶はないのだけど、ずいぶんとミーアさまも思い切ったことをなさったのね。でも、一応、地理的には政略結婚の意味はあるか……」

「それが、そうとも言い切れなくて。実は少し込み入った話があるんです」

 ベルは、ちょっぴーり声を潜めて続ける。

「チャルコス伯爵と言うのが、ボクの大叔父に当たる人なのですが、その妹の夫、すなわちボクの祖父と言うのが謎の人でして……」

「謎の人……?」

「はい。お祖母さま……あ、ミーアお祖母さまじゃないほうのですけど、ともかく情熱的な恋に落ち、ボクの父を身ごもった……のは良かったのですが、婚儀までは結ばなかったとか……」

 なかなかにスキャンダラスな話に、シュトリナは思わず目を見開いた。

 要は、伯爵家令嬢ともあろう者が、誰ともわからぬ男の、子を宿したということなのだから……。

「それって、大丈夫なの……?」

 眉を顰めるシュトリナに、ベルはペラペラと手を振った。

「それだけだと大丈夫じゃないんですけど、さらに込み入った事情がありまして……」

 それは、例の、かつてベルがやって来た未来の記憶に依存する事情であった。

かの、司教帝ラフィーナの世界……その時の記憶によれば、いささか話は変わってくる。

 実のところ、ベルにはかすかながら、祖父と言う人の記憶が残っていた。さる高貴な血筋と聞いたことがあるどころか、そもそも、どこかの貴族の息子であることを聞いたことがあったのだ。婚姻関係もきちんと結ばれていた。けれど、なにかがあった……。ゆえに、祖父のことは公然の秘密のように、母は口に出さなくなっていったのだ。

「なるほど……口に出しづらい雰囲気になったということは、お家が取り潰しになったとか、そういうことかしら……。時の権力者に逆らったとか、あるいは、廃嫡の憂き目に遭ったということも考えられるか……。そもそも、結婚前にご令嬢に手を出すなんて、あまり素性の良くない人なのかも……いや、だけど、ベルちゃんのお祖父さまが、そんなことは……ううん」

 難しい顔で考え込むシュトリナ。そんな彼女を尻目に、ベルはこっそーりと問題集を脇に置く。一応、二ページほど進めて、本日のノルマの三分の一は消化したため、罪悪感はさほど……否、まったくない!

 さぁて、それじゃあ、なにか面白い本でも読もうかなぁ! と立ち上がったベルの目が、不意に捉えた者……

「あれ……あれは?」

 それは図書室に入ってくるリオネルの姿だった。

 一人で室内に入って来た彼は、ふぅー、っと深いため息を吐き、椅子に座り込む。

 ――ミーアお祖母さまの敵対者……これは、少し探りを入れてみる良い機会かも……。

 そうしてベルは意気揚々と立ち上がり、リオネルのほうへと向かった。


活動報告更新しました。

来週は遅めの春休みにする予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「それだけだと大丈夫じゃないんですけど、さらに込み入った事情がありまして……」 >それは、例の、かつてベルがやって来た未来の記憶に依存する事情であった。 >かの、司教帝ラフィーナの世…
[一言] >一兵士でありながら、士爵に叙せられた男と結婚したルヴィ・エトワ・レッドムーンをはじめ、イエロームーン家令嬢や イエロームーン家令嬢だけ詳細が書かれていないのは、シュトリナ様からの圧力です…
[良い点] >ベルーツ 「ベルツー?」 「アレが二人も三人もいたらたまらんわ!」
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