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第九十五話 来たる! ビッグウェーブ!!!

「ティオーナさんにお聞きしたのですけど、ご子息のセロ君は、とてもご聡明な子だとか。なんでもすごく勉強ができるそうですわね」

 ミーアのその言葉で、ルドルフォン辺土伯は、即座に理解した。

 ――なるほど、つまり姫殿下の提案というのは……。

 恐らくは、セロをどこぞの学校に入れる、その口添えをしてくれるとでもいうのだろう。

 領地の代償としては少しばかり安い気もするが……。

 ――いや、そこがただの学校であるとは限らないか?

 ルドルフォンは、一瞬考えこんでから、口を開いた。

「ミーア姫殿下、もしや、セントノエル学園にセロを入学させるために、お口添えをいただけると、そういったことでしょうか?」

 大陸最高峰の教育環境を誇るセントノエル学園への入学ならば、確かに破格。先日のことへの代償としても十二分に釣り合いが取れるというもの。

 ――ミーア姫は、ラフィーナ公爵令嬢と友誼を結ばれていると聞く。もしも、ティオーナがそれを依頼していたとすると、ありえない話ではないが……。

 ルドルフォンは、そこで厳しい顔をする。

 もしそうであるならば、それは願い下げだった。彼は後継ぎである息子を帝国の外に出すつもりはなかった。

 けれど、そんな彼に、ミーアは首を振って見せた。

「そうではございませんわ。我が国が誇る人材を、わざわざ国外に流出させるような愚を犯すわけにはいきませんわ」



 手紙をもらって以来、ミーアは考えていた。

 もし仮に、セロがセントノエルに入学した場合、その手柄はどこに還元されるか?

 言うまでもなく、それはセントノエル学園、あるいはヴェールガ公国の聖女、ラフィーナ公爵令嬢にだろう。

 あるいは、姉であるティオーナに、だろうか?

 少なくともラフィーナに口添えしただけの自分でないことは確かである。

 ミーアにとって大切なことは、セロ・ルドルフォンの功績を自らのものにすること。そのためには、セロにはミーアの庇護下にいてもらわなければならない。

 しかし、それでは帝国の学校に入れればいいかといわれると、そんなこともない。

 なぜなら、ティアムーン帝国内にはセントノエル学園レベルの学校は存在しないからだ。

 教育水準に劣る学校にセロを入学させた場合、最悪、新型の小麦は生み出されないかもしれない。

その矛盾をどう解決するか……。

 ミーアは悩んだ末に、一つの答えを出した。

「望み通りの学校がないなら、作っちゃえばいいじゃない!」

 閃いた瞬間、ミーアの脳裏でいくつもの要素が革新的な結びつきを果たした。

「そういえば、わたくしの町ができるんだったかしら。それならば……」



「ベルマン子爵領にプリンセスタウンができること、ご存知かしら?」

 急な話の展開に、ルドルフォンは目を白黒させる。

「え? あ、ええ、それはもちろんですが……」

「わたくし、その町に学校を作ろうと思っておりますの」

「学校を、でございますか?」

「そう、セントノエルのような学園都市が帝国内にもあったら、素敵だと思わないかしら?」

 ミーアは何でもないことのように言って、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「どうかしら? セロくんを、わたくしの学校の生徒第一号にしてみる気はないかしら?」

 ルドルフォンは、内心で舌を巻いていた。

 森を皇女直轄領とすることで、争いを収めること。

 ベルマン子爵領にプリンセスタウンを建てさせて、子爵の自尊心をくすぐること。

 ――姫殿下は、その一連の流れの中に、我がルドルフォン家に対する利点をも組み込もうとされているのか?

 子爵領であれば隣接領。しかも、森に住まうルールー族は友好部族だ。

 帝都に通うよりよほど簡単である。

 恐らく、その計画には莫大なお金がかかるだろう。されど、皇女の町を作るという計画に他の貴族たちが参与しないわけにはいかない。

 ミーアは、必ずその計画を実現させるだろう……。

 そんな確信を抱いてしまう、ルドルフォン辺土伯であった。

 彼は深く頭を垂れる。

「かようなご配慮、身に余る光栄です。当家にできることはなにもございませんかと思いますが、もしも、なにか私にできることがございましたら……」



「んー、そうですわね……」

 何気なさを装って、ミーアは小さく首を傾げて見せた。

 なにがいいかしらー、などとつぶやきつつも、彼女は敏感にそれを感じ取っていた。

 ――これは、好機ですわ!

 そう、自らを強力な力で押し上げるビッグウェーブを!

 ミーアは、それに身をゆだねる。

「では、御当家で保有されている小麦が欲しいですわ」

「は? 小麦、ですか?」

「ええ、普段から小麦を安売りすることなく、できるだけ蓄えておいていただきたいんですの。そして、飢饉が起きた際には……」

「それは、もちろん、ご下命あれば小麦は帝室に供出いたしますが……」

「いえ、そうではありませんわ。辺土伯」

 それは、とてもまずいことになる。ミーアの本能が告げていた。

 もしそんなことをすれば、帝室は中央貴族や自分たちのためだけに小麦を貯めこみ、民は飢える。

 結果、怒った民衆は革命を起こす。

 断頭台へとまっしぐらだ。

「小麦は、ルドルフォン家から直接、民衆に配っていただきたいのですの。その際に、わたくしの名前を出していただければ……」

 ものすごく図々しいお願い……を口にするミーアに対し、辺土伯が向けるまなざしには——なぜか、尊敬の光が宿っていた!?

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