表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
952/1481

第十二話 聖女ラフィーナ、私情を捨てて……

「ふぅ、まぁ、なんとかこれで、上手くいってくれるとよろしいのですけど……」

 新年の挨拶を終え、ミーアは、ホッと安堵の一息。けれど、そこで休んでいるわけにはいかない。

 勝負は、すでに始まっている。

 ラフィーナから勝ちを厳命されている以上、ミーアとしてはきっちりと選挙準備しておかなければならない。今の内から、生徒の支持をできるだけ集めておかなければならないのだ。

「さて、生徒会の方たちにも話を通しておく必要がございますわね」

 ということで、翌日には、ミーアは生徒会に召集をかけた。

 ミーアにしては珍しい、比較的、迅速な行動だった。そうして、部屋に集まった面々の前で、ミーアは改めて今年の抱負を告げる。

「今年もわたくし、生徒会長になろうと思っておりますの」

 その言葉に、反対の声は上がらなかった。

「しかし……まぁ、正直なところ、わたくしとしては、少々荷が勝ちすぎるので、別にシオンにやっていただいても良いのですけど……」

 チラッと目を向けるも……。

「いや、この時期に無理に変える必要はない。今は、ともかく、安定を図るべきだろう」

 すげなく断られてしまった。他の者たちも、どうやらミーアの言葉は冗談だと思ったらしく、和やかな笑みを浮かべている。

 まぁ、仕方ないか、と思い直し、ミーアは小さく頷く。

「このような時ですものね。あまり陣容を動かさないほうが良いのでしょうけれど……」

 でもなぁ、面倒くさいんだよなぁ、っと、微妙に歯切れが悪くなるミーアであった。

 っと、その時である。

「よろしいでしょうか? ミーア姫殿下」

 手を挙げたのはキースウッドだった。通常であれば従者には一切の発言権がない場ではあるのだが、ミーアは細かいことは気にしない。

 誰かの意見を聞かなかったせいで状況が悪化するのは避けたいし、この場にいる誰の意見も、自分よりは優秀であろうことを、ミーアは知っているからだ。

「なにかしら、キースウッドさん」

「以前、ミーア姫殿下は、ラフィーナさまに対抗する候補がいないと、選挙が機能しなくなる、というようなことをおっしゃっていたと思いますが、その辺りのことはどうお考えですか?」

「ああ、その懸念は不要よ。キースウッドさん」

 答えたのはラフィーナだった。いつもと同じ、穏やかな笑みを浮かべて、ラフィーナは続ける。

「ヴェールガ公国からは、今年、立候補者が立つことになっているから」

「ヴェールガ公国から……?」

「ええ。マルティン・ボーカウ・ルシーナ司教の長男、リオネル君が、生徒会長候補として立つ、とすでに連絡を受けているわ」

「ルシーナ司教というと、今、セントバレーヌに赴任されている司教さまですか?」

 尋ねたのは、アベルだった。地理的に、セントバレーヌはレムノ王国とも近い。特に、レムノ王国南方の貴族の中には、セントバレーヌとの繋がりが深い者もいるのだ。

「ええ、そうね。アベル王子は面識がおありかしら?」

「いえ。生憎と……。しかし、ヴェールガから候補が立つとなると、もしや、ラフィーナさまは……」

 みなの視線を受け、ラフィーナは静かに瞳を閉じる。

「ええ。ヴェールガから立候補者が立つ以上、仕方ないわ。私としては、たいへん心苦しいところなのだけど、ここは私情を捨てて……」

 ラフィーナは、涼やかな笑みを浮かべたまま続ける。

「ミーアさんを、応援するわ!」

 その一言に、室内に静寂が立ち込めた。

「……うん?」

 キースウッドが、聞き間違いかな? という顔で首を傾げる。

他の生徒会の面々も反応は様々ながら、概ね、驚きの表情をしている者が多い。

「ええと、ラフィーナさま……? 私情を捨てて、ヴェールガの候補者を応援する、わけではなく?」

 ラフィーナは静かに頷き、

「リオネル君とは、以前、会ったことがあるの。私をとても慕ってくれる、純粋な男の子だったわ」

 ――ふむ、ラフィーナさまは、どちらかというと年上趣味っぽいですし……。年下の男の子にはあまり興味がない、とか、そういうことかしら?

 などと、恋愛脳ミーアが、若干、ポンコツなことを考えているが、それは気にしないとして。

「けれど、私はあえて知人への私情、同国人への想いを捨てて、ミーアさんを応援するわ。それが、それこそが公義だと信じるゆえに……!」

 そのラフィーナの言葉に、アンヌは深々と頷いていた。

 ミーアの味方をすることこそが、世界のためになる、と心から信じて疑わないためだ。

 同じように、シュトリナも深々と頷いていた。

 友の味方をすることこそが、絶対なる正義である、と心から信じて疑わないためだ。

 ただ一人……キースウッドだけが、微妙な顔をしていた。

 確かに……政治的な手腕、道義的な正しさにおいて、ミーアという人は文句のつけようがない人ではあるが……できれば、料理に関しては無条件に協力したりはしてほしくないなぁ、などと思うキースウッドである。

 人は誰しも過ちを犯す者、ブレーキ役として、ラフィーナさまには動いてもらいたいな! できれば、料理については! などと、心から祈っているキースウッドである。

 まぁ、それはさておき……。

「もっとも、私は、選挙の時には卒業してしまっているから、あまり意味はないのかもしれないけれど……」

 そんなことを言うラフィーナであったが、その影響は、やはり計り知れないものがある。卒業後にミーアを支持すると……せめて、リオネルは支持しないと、表明してもらえるだけでも意味があることなのだ。

「感謝いたしますわ。ラフィーナさま。それでは、わたくしは、全力をもって生徒会長の任を務めさせていただきますわ」

 ミーアの言葉に、ラフィーナは嬉しそうに微笑むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あれ、シュトリナが普通に生徒会の会合にいるみたいだけど、いつの間にか生徒会の役員になったんかな? 書紀補があるから会計補として入ったのかな?サフィアスの代わりにシュトリナを鍛えるという名目で ミーアに…
[良い点] >誰かの意見を聞かなかったせいで状況が悪化するのは避けたいし、この場にいる誰の意見も、自分よりは優秀であろうことを、ミーアは知っているからだ。 これだけ実績を積んでも、増長することなく慎…
[一言] ラフィーナ様は私情を挟まない公正なお方。イイネ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ