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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第八部 第二次司教帝選挙~女神肖像画の謎を追え!~
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第一話 ピン、ポン、パクン!

 ――ねっ、眠れる獅子を起こそうとするなど、いったいどこの恐れ知らずが、そんなことをしたんですの? そんなことをするのは、ベルぐらいしかいないはず……でも、ベルはわたくしと一緒に来ていたというアリバイがございますし……。うぬぬ。

 難解なアリバイ崩しに頭を悩ませつつも、ミーアはラフィーナを自室へと招待した。

「空中庭園でお茶と洒落込みたいところですけど、さすがに冬は寒いですし。わたくしの部屋で、申し訳ないのですけど……」

 などと殊勝なことを言うミーアに、ラフィーナは小さく首を振り、

「いいえ。嬉しいわ。お友だちのお部屋に遊びに行くことなんて、たまにしかないから」

 少しだけ寂しそうに笑った。それから、深いため息を吐き……。

「はぁ、やっぱり、駄目ね。ついつい引きずってしまって。せっかく、ミーアさんのお誕生日をお祝いしに来たのに……」

 などと表情を曇らせる。

「それは別に構いませんけれど……いったい、なにがありましたの? 珍しいですわ。ラフィーナさまが、そんな風にお怒りを露わにされるだなんて……」

 笑顔で怒るラフィーナを見るのは、前時間軸、いや、サンクランド以来だっただろうか……。最近はすっかり、獅子みも抜け、親しみやすい感じになってきたラフィーナである。

「いったい、なにがありましたの?」

 眉を潜めるミーアに、ラフィーナは再び、ため息を吐いてから、

「実はね……」

不満たっぷりに頬をぷくーっと膨らませて……。

「先日の聖夜祭でのことなんだけど……ミーアさんたちがいない時に、ヴェールガから司教が派遣されてきたのだけど……」

 セントノエル学園での一件を話し始めた。


 毎年、冬に行われる聖夜祭は、中央正教会最大の祭りだ。

 セントノエル学園でも、例年、ヴェールガ本国から司教がやってきて、儀式を執り行うことになっている。

 今年、セントノエル島にやって来た司教は、マルティン・ボーカウ・ルシーナという男だった。

 この年、三十九歳になるこの男は、司教にして伯爵を務めるヴェールガの重鎮だった。けれど、それだけでなくヴェールガ公国の中では、さらに特別な地位にある男だった。

 自由港湾都市セントバレーヌ。ヴェールガ公国の飛び地にして、商人たちが治める黄金の港……その地に派遣された司教こそが、他ならぬこの男であったのだ。

「ご機嫌よう。ルシーナ司教。お久しぶりですね」

 涼しげな笑みを浮かべるラフィーナに、ルシーナ司教は深々と頭を下げる。

「ご機嫌麗しゅう、ラフィーナさま。こうして、拝謁が叶ったこと、心からお喜び申し上げます」

「どうかしら? セントバレーヌの様子は」

 セントバレーヌは極めて難しい土地だった。ヴェールガでありながら、ヴェールガではない。その地は、商人たちの組合によって治められており、治安などは彼らが雇った自警団によって守られている。

 最も宗教心に篤いヴェールガ公国の飛び地ながら、そこは商人的な……合理主義的な金銭至上主義が思想の根底にある、変わった土地と言えた。

「相変わらずでございます。かの地は、金貨が支配する土地。それは永久に変わることがないことでしょう。まぁ、その分、献金は潤沢にいただいておりますが……」

 ルシーナ司教の言葉は、どこか苦味の感じられるものだった。

 ラフィーナは静かに彼の様子を見つめてから、

「それにしても珍しいわ。あなたがセントノエルに来るなんて。どういう風の吹き回しなのかしら?」

 セントバレーヌ派遣司教は重鎮とはいえ、国の中央とはいささか離れた地位である。

 聖夜祭のような大きな儀式の場合にも、ほとんど派遣先のセントバレーヌから離れることはないはずなのだが……。

 ルシーナ司教は、やや表情を引き締めて、ラフィーナのほうに目を向け、

「実は、ラフィーナさまに直接、申し上げたきことがあり、こうして参上いたしました」

 重々しい口調で言った。


 ミーアは、そこまで話を聞いたところで、ピンっと来た。

「ああ……もしかするとその方は、ラフィーナさまの恋愛事情に口出ししてきたということではないかしら……?」

 ミーアは思わず、ポンッと手を打つ。

 これは、もしや楽しいお話しなのでは? っと思い至ったミーアは、いつの間にやらテーブルの上に並べられていた野菜ケーキに手を伸ばす。

 フォークで綺麗に切り分けて、パクンッとあまぁいスポンジ生地を口に入れる。

 恋バナの時には、甘いケーキは欠かせないのだ。

 けれど、そんなミーアを見てラフィーナは不思議そうな顔をしていた。

「私の、恋愛事情……? なんのことかしら」

「なんのことって、馬龍先輩とのデートがヴェールガの重鎮にバレたとか、そう言ったお話しではありませんの?」

 そう指摘してやると、途端に、ラフィーナは口をポカン、っと開け……。次の瞬間には、

「なっ! そ、そんなのではないわ。そもそも、私と馬龍先輩とは、そ、そんな関係じゃ……」

「あら、そうなんですの? てっきり、またこの冬休みには遊びに行くものとばかりに……」

「まぁ、行く約束はしているけれど……で、デートとかじゃない……と思うし? あくまでも馬に乗りに行くだけで……もう!」

 そんな風に頬を膨らましつつも、お友だちと恋バナをして……心なしか楽しそうなラフィーナである。

 ――しかし、ルヴィさんもですけど、ラフィーナさまも負けず劣らず恋愛には疎いですわね。

 ……などと、ちょっぴり上から目線に評するのは、アベルとの幅広い恋愛経験を誇る帝国の恋愛脳(えいち)、ミーア・ルーナ・ティアムーン皇女殿下である。

「騎馬王国の民は、神聖典の中に登場する重要な民族よ。ヴェールガ公国との関係も悪くないし、姻戚関係も過去にないではないの」

 騎馬王国十二部族の内、水の一族は儀式を司る一族だ。中央正教会の儀式にも通じる彼らとヴェールガ公国には深い結びつきがある。

 ゆえに、林族の馬龍とラフィーナが恋仲になったとしても特に問題はなく……。

「まぁ、だからといって、私と馬龍先輩は別に、そういうのじゃないけど……」

 なぁんて、恋する乙女の顔で言うラフィーナが、ちょっぴり微笑ましいミーアである。

 ――この調子なら、獅子が目覚める恐れは少ないのかしら……?

 と、安堵したのも束の間……。

「では、なにが、ラフィーナさまをそんなに怒らせたんですの?」

 改めて尋ねると、途端にラフィーナはこわぁい顔をして……。

「酷いのよ。ルシーナ司教は、私がミーアさんと仲良くし過ぎることは問題だ、って言ったの」

「…………はぇ?」

 思わぬ方向から来た波に、ミーアは、なんとも間の抜けた声を上げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラフィーナ様が少女漫画の登場人物している点 本当、真友大好きですね [気になる点] ミーアと距離を置けと言われた時の顔は司教帝の顔ではなく 前にミーアがレムノ王国で毒殺未遂の犯人にされかけ…
[良い点] この作品の他の令嬢達より 確かにミーアは恋愛してる気がしますねw まあ、エメラルダ辺りがそういうイベント 持って行ってる感じですがw [気になる点] やっと出来たお友達と距離を置けとは 司…
[一言] ラフィーナ様がミーア神教に宗旨変え!? ということですね。実は蛇が裏でとか全くありませんよ?
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