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第百二十一話 海月は考える……最悪とはなにか?

 さて、お茶菓子もなくなったし、とりあえず、なにかしなきゃなぁ、と部屋を出たミーア。廊下に出た直後、彼女はこちらに歩いて来る祖母、パトリシアの姿を発見する。

「あら、パティ、どうかしましたの?」

 パティは、こちらを見て、ハッとした顔をしてから、ととと、っと走り寄ってきて。

「ミーア……姫にお願いがあってきました」

「あら、わたくしにお願い……なにかしら?」

「蛇の男……カルテリアと話したい」

「まぁ、あの男と……?」

 ミーアは、ふぅむ、っと唸る。

「そうですわね。彼の聴取はルードヴィッヒに任せておりましたけれど……。直接、話を聞いておいたほうがいいこともあるかしら……」

 ミーアは一つ頷くと、パティを連れてひとまずルードヴィッヒのもとへと向かった。


 今回の事件の首謀者たちは、ほとんどが、すでに捕縛されていた。その処遇を巡っても、なかなかに面倒な駆け引きが行われた。

 普通に考えれば、彼らはガヌドス国王を害し、国内を混乱に陥れようとした大罪人である。処刑されても文句は言えない立場だ。けれど、国王ネストリの一言が、波紋を投げかけた。

 この者を処刑することは、許さぬ……と。

 あろうことか、自らに刃を向けた男の助命を告げる王に、議会は当然難色を示す。

 けれど、それを好機と見たルードヴィッヒが、横から主張したのだ。

「事件の首謀者たちは、ヴァイサリアン族の冷遇を見かねて立ち上がった者たちです。そんな彼らを処刑すれば、せっかくの融和ムードに水を注しかねないかと。それに、灯台守たちを一掃してしまえば、ガヌドス側としても困ったことになるのでは?」

 逆に、一度は処刑を覚悟したのに、それを温情によって許されたとなれば、彼らはいっそう真剣に働くのではないか? と。

 なおかつ、彼らがなぜ陰謀に加担したのか、それをしっかり聞き、その原因を排除すれば、より万全の体制になるはず、とルードヴィッヒは力説した。

 仮に彼らを一掃し、新たな人材を育成したとて、現状を維持していては、同じことの繰り返し。いつ同じ不満を突かれ、付け込まれるか、わかったものではない、と。

 ルードヴィッヒの沈着冷静な言葉には確かな説得力があり、今では、すっかり議会のご意見番的な地位を獲得しつつある。

 正直なところ……ミーアとしては自らの家臣であるルードヴィッヒの活躍は、あまり望ましいことではない。手柄がすべてミーアに帰せられてしまうからだ。

 だが……ここへきて、ミーアは方針の転換を求められてもいた。

 ――灯台が壊れてしまった以上……改修工事は不可避となりますわ。だから、もう、こうなっては、多少、形をヘンテコにしたいとか言い出しても我慢すべきですわ。黄金で作ったとしても、それはガヌドス側の無駄遣い。わたくしの……知ったことではありませんわ!

 そう、ミーアは妥協点を探し始めたのだ。

 滝に堕ちる直前の、その強い流れの前では、しょせん海月は無力なもの。なればせめて、滝から落ちても、滝つぼに沈むようなことにだけはならないように、と……。

 ミーアは落下点を模索したのだ。

 では、最も避けるべきは何だろうか……? それは……。

 ――黄金の灯台が信仰の対象になるようなことは、決して避けなければなりませんわ。

 それが、結論だった。

「あの黄金の灯台を拝めば、帝国の叡智がやってきて、あらゆる問題を解決してくれるだろう」

 なぁんてことを言われるのは、迷惑千万。ミーアとしては、絶対に避けるべきことなのだ。

 ――それに「信仰」の対象となってしまえば、中央正教会にも怒られてしまいそうですし……。ヴェールガとの関係がこじれるのは好ましくありませんわ。

 かつて、ご当地聖女とかなんとか言われていた時とは、すでに状況は違うのだ。

 本人は決して望んではいないことながら……ミーアにはすでにかなりの権力がある。

 帝国内はもちろんのこと、サンクランドや騎馬王国、ペルージャンにもミーアの知己は多い。ミーアネットなるものの存在、ミーア学園の存在もある。

今やミーアは大陸の重要人物と言ってしまっても、決して過言ではないのだ。

 けれど、そこにさらに信仰まで生じてしまえば……それは、極めて危険なことになる。

 ――ラフィーナさまとも、せっかく良好な関係を築けているわけですし……。ガヌドスには余計なことはしてほしくありませんわ。

 ゆえにミーアとしては、ガヌドス国内が混乱し「もはや隣国の救世主に頼るしかない!」 などという状態にはなってほしくない。

 国王ネストリ……はあてにならないかもしれないが、王女オウラニアや議会には、きちんと国家運営を担ってもらいたいのだ。

 そのための助言であれば、許容せざるを得ない。転びかけているガヌドスに手を差し伸べ、もう一度、自分の足で走れるように手を貸す。そのぐらいならば、仕方ないのではないか、と、ミーアは考えたのだ。

 今回の騒動の記念碑やら、感謝、友好の証としての黄金のミーア灯台ならば、もはや仕方ないことなのだろう、と……。

 そんな悟りの境地に至ってしまったミーアである。

 今ならば「あんまり派手な肖像画じゃなければ、いいかしら?」という境地にあるラフィーナと美味しい紅茶が飲めそうだ。

 まぁ、そんなこんなで、ルードヴィッヒの活躍により、今回の犯人一味は、一部を除いて釈放される予定である。

 厳しく言い含められはするだろうが、ほぼ無罪放免と言っても良い状況だろう。

 そして、その、無罪放免から除かれた一部に、例の蛇の暗殺者、カルテリアがいるのだ。

 ――それにしても、パティ、いったい何の話をしたいのかしら?

 小さく首を傾げるミーアであった。

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[良い点] なかなか他人に心を開かないけど 一度開くとどこまでもその人との愛や友情に尽くす不器用なツンデレ気質 カルテリアもオウラニアもネストリに似てる?! [気になる点] パティ!?まさか、アレをす…
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