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第六十二話 熟練のイエスマン、ミーアは平常運転である

 ローレンツとの会談の翌日、ミーアたち一行は帝都ルナティアを後にした。

 目指すは、ガヌドスとの国境付近に位置する村だった。

 そこでシャロークの商隊と合流し、国へと侵入するのだ。

「以前、クラウジウス領に行った時にも経験済みかと思いますけれど、みな、きちんと演技するんですわよ?」

 やや草臥れた木綿のシャツとズボンという、ちょっぴり地味な潜入服に着替えたミーアは、馬車の前に立って、偉そうに言った。

 その言葉に、生真面目な表情で頷いたのは、ヤナだった。彼女も地味なシャツとズボンに着替えている。さらに、トレンチ帽を被り、額の刺青を隠すことにも抜かりはない。そんな姉の隣に立つキリルも、しかつめらしい顔で頷いている。服装は姉とお揃いのものだった。

 ちょっと可愛いかも……などと、母性を刺激されるミーアお姉さん(23)である。

 さらに、キリルの隣には、パティがいつも通り無表情で立っていた。いや、よく見ると、その顔には、どこか緊張感が窺えた。

 おそらく、昨日のローレンツとの会談が影響しているのだろう。

 ――蛇の束縛から逃れる道筋が見えているのですから、緊張するなというほうが無理な話ですわね。

 と、まぁ、ここまでは良しとして……。

 ――この子たちは意外としっかりしてるから大丈夫でしょうけれど……問題は……。

 とミーアが視線を向ける先……ベルが、きょとんと首を傾げていた。

「一応、言っておきますけど、ベルもきちんとバレないようにしないとダメですわよ?」

「ふふふ、大丈夫ですよ、ミーアおば……お姉さま。なにも問題ありませんから」

「どこかで探検したり、冒険したり、目立つようなことをしてはいけませんわよ? くれぐれも……」

「はぇっ……? あ、はい。それは、もちろんです当たり前です当然じゃないですか、あはははいやだなぁ!」

 やや軽めのその口調に、ミーア、若干不安を覚える。

「しかし、ミーアさま、どのような手順で進めましょうか?」

 ミーアのやや後方、スッと背筋を伸ばして立つルードヴィッヒが、聞いてきた。

「ふむ……」

 腕組みして、刹那の黙考。ちなみに、この手の話題についての、ミーアの思考はすこぶる速い。考えた末、ミーアは……。

「ルードヴィッヒ……あなたは、確か、ガヌドス国王と面識がございましたわね?」

「面識……というほどのものでもありませんが、私とディオン殿とは、一度、会ったことがございます」

「そう。ならば、どうかしら? その時の印象をもとに、これから、どのように行動すべきかしら?」

 妥当な理由をつけて、ルードヴィッヒの質問を跳ね返した!

 熟練のイエスマン、ミーアにとって、自然な流れで周りから良いアイデアを聞き出すことなど造作もないことなのである。

「そうですね……」

 ルードヴィッヒは、眼鏡をクイッと指で押し上げてから……。

「オウラニア姫殿下のお言葉のみで糾弾するのは危険かと……。のらりくらりと躱されるばかりか、思わぬ逆撃を被る恐れもあります」

 ルードヴィッヒの言に、ディオンも続く。

「確かに、食えぬ男、という印象でしたな。こちらが軍事力で攻めようとすれば、なにか、別軸のからめ手で足止めをされるような、そんな印象を受けました」

「なるほど。とすると、やはり、わたくしかアベルが実際にヴァイサリアンに対しての非道を目にする必要がございますわね」

 一国の王族を責めるために、他国の王族の権威を使う……。それが今回の基本構想である。

 ――本当ならば、正義に関して一家言ありそうなシオンにもいろいろ言ってもらいたいところですけど……。

 今回は、シオンは別行動である。

 エメラルダに引っ張ってきてもらう予定であるが、ミーアたちの入国から少し遅れての到着となるだろう。

「オウラニアさんから、隔離区の場所をお聞きして、実際に見てくるのがよろしいかしら……。あ、そうですわ。ヤナ……」

 名前を呼ばれ、ヤナがわずかに姿勢を正した。

「ヴァイサリアン族の隔離地区というものを、あなたたちは知っておりますの?」

 小首を傾げるミーアに、ヤナは申し訳なさそうにうつむいて……。

「申し訳ありません。詳しいことは、なにも……。ヴァイサリアンだってバレないように生きなさいって、言われて生きてきたから……。もしも、それがバレたら、捕まるからって……言われてて……」

「ふむ……」

 ミーアは、腕組みしつつ、つい、っとルードヴィッヒのほうに視線を送る。

「なるほど。つまり、ヴァイサリアン族であることを隠して、国の中に暮らしている者もいるということでしょうか……。先々代のガヌドス国王が行ったとされる海賊狩り……。そこで捕らえられた者たちが、隔離地区に住まわされたが、それ以前に、移り住んでいたヴァイサリアン族の者たちもいて、街中で密かに暮らしている、と言うことなのか……」

「それはまた、恨みも実に根深そうですな」

「ふむ……」

 ミーアは深々と頷いてから……。

「いずれにせよ、隔離地区の視察が、どうやら急務のようですわね」

 とりあえず、そう結論付けるのであった。

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― 新着の感想 ―
各国の関係とか理解不足で申し訳ないのですが、他国の事情にミーアとかシオンが干渉したら、内政干渉とかにならないのでしょうか? 他国の事情に首をつっこんでも許される内容だから、ということでしょうか?
内乱が起こりそうな危険な所に子供を連れて行くのは、危機管理が足りないのでは?
[良い点] >>熟練のイエスマン、ミーアにとって、自然な流れで周りから良いアイデアを聞き出すことなど造作もないことなのである。 「くわせ者」だと判断できる材料を得ているルートヴィッヒの 体験を基に行…
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