表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
853/1477

第四十五話 ミーア姫、真摯に答える

「どうしてって……、不思議なことを聞きますわね。そんなの、決まってますわ」

 ラフィーナらの提案に乗った勢いで、ミーアはペラペラとその問いに答えようとして……オウラニアの顔を見て――考えを改める。

 無論、適当なことを言うこともできた。

 民を思ってのことだとか、姫として当然のことだとかなんとか……耳心地の良い言葉を適当に言うことは、できたのだ。

 日夜、自らの行いを、誇張した脚色によって日記帳に書きつけるミーアは、その手の語彙を鍛えられている。だから、綺麗事なら、いくらでも口にできたのだ。

 でも……ミーアはそれをしなかった。

 なぜなら、オウラニアの問いかけが……まるで、過去の自分からの問いかけのように感じたから。

 ――そうでしたわね……わたくしは、シオンに対して、腹を立てていたんでしたわね……。

 レムノ王国に潜入した時のことを思い出す。

 なぜ、まだ間に合うタイミングで注意してくれなかったのか? と、かつてミーアはシオンに怒ったことがあった。手遅れになってから正義の味方面してくるなんて、酷いじゃないか! と。

 ――今のオウラニアさんは、昔のわたくしと同じですわ。きっとこのままワガママ放題を続ければ、断頭台の運命に乗ってしまうはず……。断頭台への道は広く、なだらかで、とても歩きやすい道ですものね……。であれば、ここは半端な言葉ではなく、心からの言葉で、誠実に答えてやるべきですわ。

 と、そうは思うものの、実際には簡単ではない。

 なにしろ、ラフィーナとクロエが興味津々とばかりに、ミーアに視線を注いでいたためだ。

 自分が断頭台にかけられないように、全力で頑張ってるだけですから! などと、素直には言えない。なので、ミーアは知恵を振り絞り……自らの行動の要約を試みる。

「なぜ、こんなことをするのか……。それはもちろん“わたくし自身”のためですわ」

 そう言って、ミーアは宣言する。

 すべては、自分ファーストであると。

 それこそが首尾一貫、ミーアが胸の中心に置いていることである以上、隠すことはできない。

「ミーア姫殿下……自身のため?」

 ミーアの言葉に込められた熱量に気圧されたのか、オウラニアがゴクリ、と喉を鳴らした。

「ええ。そうですわ。わたくし自身のため」

 ミーア、力強く頷いて……。

「わたくしが……これから先もずっと、この歩みを続けていくためですわ!」

 歩みを断ち切られるような、断頭台の運命から逃れて、生き永らえるためだ、と。

 すべては、そのためなのだ、と!

 ミーアは、拳をグッと握りしめ、最大限の熱量を込めて語る! 語る!

「そして、願わくば帝国の姫としての歩みを、その姫に相応しい歩みを続けていきたいと、そう思うばかりですわ」

 まぁ、最悪、どこかに亡命して平民になってもいいけれど、できれば今のまま姫として、姫に相応しく美味しいものを食べて、たっぷり寝て……それなりにぐうたら過ごせればベスト……。

「そのために、わたくしは頑張っておりますわ」

 そうして、ミーアはオウラニアに微笑みかける。

「それがわたくしなりの答えですけど……いかがかしら?」

「姫らしく……、姫に相応しく……」

「ええ。だって、せっかく一国の皇女に生まれたのですもの……。姫としてできることを模索し、やらなければもったいないですわ」

 皇女でなければ、できぬ贅沢がある。

 例えば、何人かでケーキを分け合わなければならない状況において、上に載った美味しいイチゴは、まず間違いなくミーアが食べられる。

 あるいは、美味しいキノコ鍋。程よく煮えたキノコに一番にフォークを刺す、一番茸の栄誉に預かるのは、姫君たるミーアなのだ。

 そんな特権を享受したい! せっかく姫に生まれたのだから、それを行使しないのはもったいない、と考えるミーアなのである。

「自分のために……」

「ええ。わたくしのためですわ。誰に褒められるためでもなく、わたくし自身のためですわ」

 順番は間違えない。

 ミーアが頑張るのは姫として、断頭台の運命から逃れるため。

他人からの称賛や、与えられた栄誉というのは気持ちのいいものだし、断頭台の運命を遠ざけるものではあるかもしれないが……どちらが主でどちらが従かを間違えるのは危険だ。

 大事なことはあくまでも“自分”が断頭台にかけられないこと。

 そうして、ミーアは朗らかな顔で、オウラニアに言った。

「誰に褒められるためでもなく、自分のため……。ああー、そうかー」

 オウラニアは深く……深く、ため息を吐き、どこか脱力した顔をした。それは、まるで、憑き物が落ちたかのような……すっきりとした顔だった。

 それから、彼女はスッと背筋を伸ばして、ミーアのほうを向く。身長の高い彼女に見下ろされると、微妙に迫力があって……ミーア、わずかばかり、身を引く。

「ミーア姫殿下……いえ……」

 と、そこで、オウラニアは言葉を切って、深呼吸した後……。

「我が師、ミーアさま……私に、姫としてー、生きる道を教えていただけないでしょうか?」

「…………はぇ?」

 まったく、想像の埒外の言葉に、ミーアは瞳を瞬かせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] はい曇ったー!お風呂回の謎の湯気ごとくに見事に曇ってしまったー!
[一言] 「情けは人のためならず」 情けをかけると巡り巡って自分に還ってくるものだから、「自分の(保身の)ために、他人に情けをかけなさい」というのは良い考え方ですよね。 「自分のため」なら、ずっと頑張…
[良い点] ミーアさまが人生相談をうけるまでに!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ