表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
836/1477

第二十八話 第一回 大釣り大会……第一回?

『……どうして、こんなことに……? なぜ、誰もわたくしに、言ってくれなかったんですの?』

 耳の奥、聞こえた声。それは、前の時間軸、セントノエルで一人ぼっちになっていた頃の、自分の声で……。


 釣り大会当日の朝……。ミーアは、珍しく朝早くからパッチリ目を開けていた。

「ふぅむ……やはり、オウラニアさんには、しっかりと教えて差し上げなければならないかしら……」

 ベッドの上、寝転がったまま腕組みして、ミーアはつぶやく。

「言ってわかるものでもありませんけれど、言って聞かぬはあちらの罪。言わずにおくのは、わたくしの罪でしょうし……。下手をしたら、オウラニアさんにお尻を蹴っ飛ばされてしまいますわね……よし!」

 気合の声を一つ上げ、それから、ミーアは起き上がった。


 着替えを終えたミーアは、朝食をのんびり楽しんだ後、部屋に戻ってベルを起こし。それから、アンヌを伴って釣り大会の会場を訪れた。

 晴れ渡る青空からは、さんさんと、豊かな日の光が降り注ぐ。まるで、夏がぶり返したような、暑い日だった。

 否、冷夏であった今年の夏には、これほど暑い日はなかったのではないか、というぐらいに、素晴らしい快晴の日だった。

「晴れましたわねぇ……。少し暑すぎるぐらいですわ」

「そうですね。ミーアさま。どうぞ、これを……」

 そう言って、アンヌが差し出してきたのは、真新しい帽子だった。

「ありがとう。アンヌ。あなたも気をつけて。とっても暑いですから」

 帽子を被りながら、ミーアは、釣り大会の会場である港に目をやり……。

「はて……奇妙ですわね……」

 小さくつぶやいた。

 ミーア発案の釣り大会の準備は、サンテリを始めとした釣りマニアたちの手により、順調に進められていった。実に順調だった。それはそう、言ってしまえば、雪山の上から、雪の玉を転がし落とすような……そんな感じで。

 コロコロ、コロコロ、転がり始めた雪玉は、周りの雪をくっつけて……大変、大きな、大きな雪玉になっていき……。そして。

「実に、奇妙なことですわ。この、盛り上がりはいったい……」

 港には、たくさんの露店が並んでいた。

 そこから感じられるのは、いつぞやの剣術大会や馬術大会を上回る熱気! 大変な熱気である!

「……なんだか、こう……思ったより遥かに大変なことになっているような……」

 ミーアのイメージとしては、もっとこじんまりというか……、もう少し内輪の集まりのつもりだったのだが……。

「ちょっとした学校行事ぐらいのつもりでしたのに、なぜ、こんなに盛り上がっているのかしら?」

 ふと、視線を向けた先には、

『第一回 セントノエル学園、大釣り大会』

 などという、巨大な横断幕が揺れていた。

「第一回……」

 ミーア、それを見て、思わず、クラァッとする。

 ――第一回ということは、二回目以降も行うことが前提となっている、ということかしら……? そんなつもりは、まるでないのですけど……。

 これは、なかなか面倒なことになってきたぞぅ、とミーアは頭を抱える。

 そもそも、声をかけた釣りマニアたちが、まずかったのだ。

 騎馬王国で乗馬大会を開く、などと口にすると、トンデモないことになってしまうように……。ノエリージュ湖近辺で、あるいは、ガヌドス港湾国の関係者の前で、釣りの大会を開く、などと言ったら大変なことになるのだな、ということを、ミーアは遅まきながらに気が付いた。

「こちらでは、釣った魚の大きさを競うコンテストを開いています。証拠として魚拓を取った後は、こちらで調理して食べられまーす」

 なぁんて、元気のいい声が聞こえた。

「あれは……魚の大きさコンテスト……?」

 その男の隣では、同じように、学園の職員が声を上げている。

「ノエリージュ湖には、たくさんの種類のお魚がいます。そのレア度で、順位を……」

「あちらは、レア度……っていうか、あそこに貼ってある魚リストは、オウラニアさんにまとめていただいたものでは……?」

 さらにさらにさらに! そのすぐ隣には……。

「さぁさぁ、ノエリージュ湖の主を釣り上げた者には賞品として、ラフィーナさまの肖像画を進呈……おや? ラフィーナさま、視察に来られたのですか? へ? 裏に行くのですか? それはいったい……はぇ?」

 なんだか、最後に、チラッと獅子の気配をまとったラフィーナの姿が見えた気がするが……。まぁ、それはともかく……。

「勝負とか、そういうことにはしなくてもいいと言ったのですけれど……」

 こうした催し物を開くと、やはり、勝負をしたくなるものらしい。人と言うものは、互いに、争わずにいられないものなのだな……などと、人間と言うものの悲しいサガを思うミーアである。

「いやぁ、素晴らしい盛り上がりですな」

 声をかけられ、振り返る。っと、そこにいたのは、釣り衣装できっちり決めた、サンテリだった。その腰には、使い古された魚籠が結び付けられていた。

「あら、サンテリさん……。面白い格好をしてますわね」

 確か、彼は、生徒が海に落ちたりしないように、監視する役だったはずだが……。

「ああ、これですか。なぁに、大会が終わった後で、夜釣りをしようと思いまして。いつでも釣りに行けるよう、準備してきたのです。ははは」

 どうやら、釣りマニアの血が大いに騒いでいるらしい。

「それにしても、想像していたより盛り上がっておりますわね。学生たち以上に、この島の人たちや、学園の職員の方たちが盛り上がっているように見えますけれど……」

 っと、首を傾げるミーアに、サンテリは、しかり、と頷く。

「ええ。その通りです。なにしろ、ヴェールガ公は、もともと漁師だったという伝説があるぐらいですからな」

「ああ。そうでしたわね。そういえば、ヴェールガの歴史的には、確かに漁師が大きな役割を果たしておりましたわね」

 騎馬王国の建国神話があるように、ヴェールガ公国にもまた、それが存在している。

 羊飼いの末裔である騎馬王国に対して、ヴェールガの初代領主は、ノエリージュ湖で魚を獲る者であったと言われている。

「ええ。それにちなんで、中央正教会の中心となる教義を魚の頭文字で作るなど、ヴェールガ公国では、とかく、魚は親しまれた存在なのです」

 サンテリは、穏やかな笑みを浮かべて続ける。

「さらに、ヴェールガ公オルレアンさまも、魚がたいそうお好きな方で。食べるだけでなく、あの形がとてもお好きだとか。それで、ある時、同じように大切にされている愛娘、ラフィーナさまと合わせてみたらよいのではないかと、伝説の人魚の肖像画をモチーフに……」

「サンテリ……。少し、いいかしら?」

 唐突に……音もなく現れたラフィーナに、ミーアは、思わず息を呑む。

「ら、ラフィーナさま……?」

 ミーアのほうを見たラフィーナは、涼やかな笑みを浮かべて……。

「ああ、ミーアさん。後で、一緒に釣りをしましょう。私もしたことがないから、楽しみね」

 なぁんて言いつつも、

「じゃあ、サンテリを借りていくわね。あ、それと、開会の挨拶も、楽しみにしているわ」

 そうして、むんずっとサンテリの腕を掴んで去っていくラフィーナであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ラフィーナさま、ご存知ですか?とある国にはですね、名前がオルカ(=シャチ)に似た伝説の生き物がおりましてですね。何と、体が魚で顔が虎なんですよ。その国では、それはそれはたいへんありがたーい…
[良い点] 考えてみれば、ヴェールガが水運と密接に関わる国であることは、かなり前から示唆されていたんでしたね。そもそもセントノエルが湖の中央の島に建てられた学校ですし、シャロークが拠点にしている港湾都…
[気になる点] 神父様にプレゼントした肖像画って、ラフィーナの直筆サイン付きだったような。 選挙直後の好感度MAXになった頃合いだっとしても、よく対応してくれたな。。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ