表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
834/1477

第二十六話 ミーア姫、耳より情報をゲットする

 ヤナとパティと別れたミーアは、女子寮のオウラニアの部屋を目指した。

「オウラニアさん、いらっしゃるかしら……? また釣りに行っていたりしなければいいのですけど……。あっ!」

 っと、ちょうどタイミングよく、オウラニアの部屋のドアが開く。中から現れたオウラニアは、ミーアのほうを見ると、小首を傾げてみせた。

「あらぁ、ミーア姫殿下……。なにかありましたかー?」

 おっとりとした口調で言う彼女に、ミーアは小さく頷いてみせて。

「ええ、実は、あなたに少しお話があるのですけど、よろしいかしら?」

「あー、えーと、お茶会でしたら、またの機会にー」

 などと、そそくさと逃げ出そうとするオウラニアだったが……、ミーアは目ざとく、彼女の手元に視線を送る。オウラニアは……なんと、釣り竿と魚籠をもっていた!

 まさに、これから、釣りに行くところだったのだ!

 ――ほほう、これは、想像以上の釣りマニア……。やはり、わたくしの狙いは当たったようですわね。

 静かな確信を胸に、ミーアは厳かな口調で言った。

「いいえ、お茶会ではありませんわ。釣りについてのことなのですけど……」

 ミーアの言葉を聞いた瞬間、オウラニアは、ピクンッと立ち止まる。

「釣りについて……ですかー?」

 ゆるーりと振り返るオウラニアに、ミーアは深々と頷いた。

「ええ。釣りですわ」

「それはそのー、お魚を針と糸で釣り上げる、あの?」

「ええ……。というか、それ以外の釣りというものは、寡聞にして存じ上げませんけれど……」

 ミーアは穏やかに笑みを浮かべて。

「それに、魚の詳しい話についてもお聞きしたいですわ。ご存知かしら? 生徒会主催で釣り大会を開こうとしている、と……」

「あー。ええ、まぁ、そのー」

 などと言いつつ、オウラニアが体をこちらに向けた。それを見て、ミーアはニンマーリと笑みを浮かべる。

 ――ふふふ、食いついてきましたわね?

 ミーアは澄まし顔で、オウラニアの手元を見た。

「ちょうど、釣りに行く途中だったようですわね。ならば、あなたのおススメの釣り場に向かいながら、少しお話しいたしましょうか。釣りのお話を……」

 こう言われてしまえば、もうオウラニアに逃げ場はない。

 今から部屋に戻るわけにもいかないし、急いでどこかに向かっているから、と断ろうにも、一緒に行くと言われてしまえば、断れない。

 逃げ場はすべて潰している。

 追い込み漁のごとき巧みさで、ミーアはオウラニアを捕まえる。

「さ、では、参りましょうか」


 オウラニアは女子寮を出て、学園の裏手に回った。そこから伸びる細い道を、ずんずん進んでいく。

 ――あら、この道は、確か以前、アベルと通りましたわね。あの、秘密の砂浜に降りる道ですわ。

 そう気付いた瞬間、ミーアは、シュシュっと足元を確認。馬の落し物は……ない!

「ええとー、それで、その、お話しってなんなんでしょうか?」

「へ? あ、ああ。ええ。実は、みんなで釣りをした後で、釣り上げた魚をその場で料理して食べようと思っておりますの」

 そう言って、チラリと目を向ければ……。

「なるほどー! それはとーっても、良い趣向ですねぇ」

 目をキラッキラ輝かせるオウラニアの顔が見えた。

「自分で釣ったお魚をその場で食べるのって、とっても美味しいし、楽しいんですよねー」

 そうして、彼女は上機嫌に笑う。

 ――ふふふ、ですわよね。美味しいお魚を釣った以上、食べたくなるのが人情と言うもの。森で採ってきたキノコは、すぐにお料理して食べたくなるものですもの。同じですわ。

 正直なところ「甘い物がそれほど好きではなくってー」などと言われた時には、この想像の埒外の存在をどのように扱ったものか……っと、頭を抱えたミーアであったが……。

 オウラニアは、今、この瞬間に、ミーアの理解の範疇に入ってきた。

 そうなのだ、彼女は得体の知れない不気味な人ではない。ただの、魚介類好きなお姫さまに過ぎなかったのだ!

 やがて、頭上を覆っていた木がなくなると、視界が開ける。

 空から降り注ぐ柔らかな日光に照らされて、白い砂浜が輝いて見えた。

 オウラニアは、意気揚々と砂浜に降りると、波打際まで行き、湖の中を覗き込んだ。

「私はお魚も好きですけどー、貝なんかも大好きですよー。ノエリージュ湖にも貝がいるって聞きましたけど、この辺りにはいませんねー」

 靴のまま、水をぱしゃり、と蹴り上げて、オウラニアは笑った。

「ああ、貝類も、こりこりしてて美味しいですわよね」

 などと返事をするミーアであったが、実は、貝類については、そこまで思い入れはない。のだが……。

「貝の中に、海のキノコって呼ばれてる貝がいて、それがすごーく、美味しかったんですよー」

「ほう……海のキノコ……? そんな変わった貝がいるんですのね」

 ミーア、思わず唸り声を上げる。俄然、ミーアのテンションも上がってくる。が、ミーア、いったん、その耳寄り情報を脇に置き……。

「まぁ、それはともかく……。お魚の中には、食べられる魚と食べられない魚とおりますでしょう? その見分けをどうやろうかと思ってまして……。それで、あなたのお知恵を借りたく……」

「わかりましたー。それは、ぜひ、協力させてください」

 やや、食い気味に返事をするオウラニアに、ミーアは勝利を確信する。

「ありがとう、助かりますわ。オウラニアさん」

「うふふ、それにしてもー、ミーア姫殿下が、こんなに楽しい方だとは思っていませんでした」

「あら? そうなんですの?」

 きょとん、と首を傾げるミーアに、オウラニアは言った。

「楽しい人って、私、大好きですよー。やっぱり、人生、美味しいものをたくさん食べて、たっぷり遊んで、楽しく生きないとダメですよねー」

 そうして、オウラニアは朗らかに笑うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >海のキノコ 海のマツタケことトコブシこのとかな?
[良い点] いつも楽しく読ませて頂いております。 コミカライズも良い方に巡り会えたようで、続巻をいつも待ち遠しく思っています。 [気になる点] 誰も突っ込んでいないのか、直すのが面倒なのか分かりません…
[良い点] 釣り大会を通じて友誼を深める、どころか もう既に「同志ミーア」「同志オウラニア」と呼び合う仲寸前のような…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ