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第十二話 ミーア姫、苦戦する

 さて、すべきことを整理したミーアは、翌日から、オウラニアとの仲を深めるべく、早速行動を開始する。

「大きなイベントごとは互いの距離を縮めるもの。ゆえに必須ですわ。けれど、それだけでなく、普段からの関係性も大事だということもまた、紛れもない事実。エリスの恋愛小説にもそんなことが書かれていたはずですし……」

 いささか心許ない根拠を口にしつつも、ミーアはオウラニアのもとを訪れた。

 ちなみに、急遽決まったこととはいえ、オウラニアの転入はつつがなく行われた。

 どうやら、エメラルダから相当せっつかれていたらしく、ミーアの許可が下り次第、すぐにでもミーア学園に入れるよう準備をしていたらしい。

 それがセントノエルに変わっただけだということで、それ自体はスムーズに行ったのだが……。

「ご機嫌よう。オウラニア姫殿下。無事に転入が終わったようでなによりですわ」

 早速、でっかい菓子折りを携えて、オウラニアの部屋に行ったミーアであったが……。

「あらぁ、ミーア姫殿下。わざわざ、申し訳ありません」

 などと、にっこり、笑みを浮かべるオウラニアであったが……。

「美味しそうなお菓子をありがとうございました。それでは、荷物の片づけがまだありますので、これで……」

 などと、頭を下げて、パタン、とドアを閉められてしまった。

「……あら?」

 てっきり、部屋に迎え入れられて、一緒にお茶でも……などと誘われるつもりになっていたミーアである。持参したお菓子も一緒に食べられて一石二鳥! などと思っていたミーアなのである。

 にもかかわらずの、この仕打ち……。

「……ま、まぁ……今日はたまたま忙しかったのかもしれませんし……。明日にでも、また訪ねてみましょうか」

 などと、思っていたのだが……。

 翌日は、メイドが不在だから、お茶を淹れるのが~、などと言われて断られ、その翌日には、実は甘い物はあんまり……などと言われて追い返された。

「これは……あからさまに避けられておりますわね」

 目の前で閉められたドアを見て、ミーアは、ぐぬぬ、っと唸った。

「み、ミーアさまに、なんという無礼な……っ」

 などと、珍しく真っ赤になって怒っているアンヌに、ミーアは……。

「わたくしのためにありがとう、アンヌ。でも、わたくし、気にしておりませんわ」

 やや、ひきつった笑みを浮かべてみせた。

 ――なるほど……。そういう作戦なわけですわね……。

 確かに、この対応はいかにも無礼。大国の姫がわざわざ会いに来ているのに、この仕打ちは、礼を欠くことこの上ないことではあるのだが……。

 でも、このセントノエルでは、それこそが武器になる。

「ラフィーナさまのお膝元で、権力を背景にした圧力は、極めて危険な行動ですわ」

 聖女ラフィーナは高潔な人。権力者の横暴を許さない公正な人。

 ゆえに、ミーアは強く出られない。

 ただでさえ、オウラニアをセントノエルに来させた経緯が経緯だ。下手なことをすれば、大国の横暴だ! と訴えられてしまうかもしれない。

「ううむ……手ごわいですわよ。これは……」

 そもそも、甘い物が嫌いな人間はいない、という確信を持っていたミーアである。菓子折りを抱えてきた相手はついつい招き入れたくなるのが人情というものではないか。なのに……。

「慧馬さんあたりなら、これで一発ですのに……」

 つぶやいてから、ふと、ミーアは遠い目をした。

「思えば、慧馬さんにしろ、小驪さんにしろ、騎馬王国の方はとても素直で、純粋な方が多かったのですわね……。一緒に食事して、馬に乗れば、すぐに分かり合えましたもの」

 ちなみに、ミーアと分かり合おうと思った場合には、ケーキを持って行くか、鍋をつつきあうのが良いらしい。鍋の具材はキノコが一番とされるが、兎肉でもいいらしい。

 というか、ぶっちゃけ、ミーアもまた、美味しいものを一緒に食べれば概ね分かり合えるともっぱらの評判である。

 まぁ、それはさておき……。

「ううむ、オウラニアさんのあの反応は、ちょっと想定外でしたわね……なんか、この感じ……ちょっぴり懐かしいですわ」

 それから、ミーアは静かに瞳を閉じて……。

――ラフィーナさまに、こんな感じであしらわれたんでしたわね……。ああ、懐かしいですわ。懐かしい、というか、ほろ苦いというか……。

 すっかり傷ついてしまった小心(リトルハート)を癒してもらうべく、ミーアはラフィーナのところに行った。これで、ラフィーナにまで、

「あなた……誰だったかしら?」

 などと言われたら立ち直れないところだったが……幸いにしてそんなこともなく。

 ニッコニコ、溢れんばかりの笑顔で迎え入れられたミーアは、美味しいジャムに紅茶を添えたものをたくさんもらって、すっかり回復。

 それから、前の時間軸での苦労と、現在の、朗らかな笑みを浮かべるラフィーナとのギャップに、はらほろと涙をこぼしつつ、

「ああ。やはり……お友だちはいいものですわ……。ラフィーナさまは、わたくしの、大切な、お友だちですわ」

 なぁんてつぶやいたりするものだから、ラフィーナがさらに感極まってしまって……その後、滅茶苦茶お茶会する羽目になってしまうのだが……。

 それはともかく、ミーアは決心を新たにする。

「やはり、イベント。イベントが必要ですわ。みなでワイワイ盛り上がれるような企画を立てるのがよろしいですわね。それをきっかけに、徐々に仲良くなる。これこそが一番大事ですわ。問題は、オウラニアさんが、どんなことに興味を持っているかですけど……」

 悩ましげな顔で、ミーアは唸り声を上げる。

「正直、こちらも生徒会でアイデアを募りたいところではありますけど……。キースウッドさんが意外と細かいダメ出しをしてくるんですわよね。アイデアを出す時には、否定せず、とりあえず、出るに任せろ、とクソメガネが言っておりましたのに……。基本がなってませんわね」

 やれやれ、と首を振るミーアであった。

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[気になる点] >「ラフィーナさまのお膝元で、権力を背景にした圧力は、極めて危険な行動ですわ」 扉の前にミーアと一緒にラフィーナがいた方が怖いのではないだろうか、アンヌが顔を真っ赤にして怒った様に鬼の…
[良い点] まあたまには思い通りにならない事だってありますよ。 これまでが気持ち悪いくらいに上手く行ってたのがおかしいのですから。 ……決してこの作品の醍醐味を否定するわけではありませんよ? それに…
[一言] トンデモナイ角度から殴られるキースウッド
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