表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
815/1477

第七話 ミーアエリート育成計画、密かに進行中!

「聖ミーア学園に……? それは、ええと、どういう意味かしら?」

 目を白黒させつつ、なんとか問う。

 ついでに、手近にあった紅茶を一口。舌の上で転がし、糖分を補給しようとする……が……生憎と、砂糖の甘味は感じられなかったっ!

 ――っ! そうでしたわ。夏の間に、ちょっぴり食べ過ぎたからって、当分の間、紅茶にお砂糖は控えるようにと言っておいたんでしたわ!

 ちなみに、お茶菓子のほうには、特に注文を付けていないミーアである。

 飲み物の甘味を控え、お菓子からのみ糖分を摂取する。飲み物は甘くなくってもいいから、お菓子は甘くしてほしいな! というミーアの無言の訴えが聞こえてくるようだった。

 まぁ、その辺りの事情を知ったタチアナから、

「お菓子の量も減らしたほうがよろしいのではないかと思います。お茶菓子には……そうですね。干した小魚なんてどうでしょう?」

 などとニッコリ提案されてしまうことになるのだが……それはさておき。

 ミーアは咳ばらいをした後、改めて、オウラニアのほうに目を向けた。

 その視線を受けて、オウラニアは、ぽやーんっとした顔で、そっと首を傾げてから、ああ! と小さく声を上げて……。

「そういえば、エメラルダさんから、これをお預かりしています。どうぞ……」

 そうして、彼女が差し出してきたのは、一通の手紙だった。さっと手紙の文面に目を通し……ミーアはようやく事態を悟る。

 ――なるほど……これは、すべてエメラルダさんの差し金……。いえ、エメラルダさんがわたくしのために暗躍した結果、なんですわね……。

 そこに書かれていたのは、要するに……。

 ガヌドス国王を正面から説得するのは大変だから、娘のほうをミーア学園に入学させて、ミーアエリートに仕立て上げて、側面から攻撃してもらおうぜ! 

 みたいなノリのことだった。

 ――ぐむ……これは、確かに作戦としてはわかりますけれど……。

 ミーア、思わず唸る。

 そう、理屈は理解できるのだ。そして、恐らく、考え方も間違っていないのだろう。

 ガヌドス国王とは、いわば強固な城だ。その城壁は高く、城門も分厚い。正面から落とそうと思えば、苦戦は必至。なればこそ、正面からあたるべきではない。

 補給を断ったり、城壁の中に間諜を送り込んだり……そうした小細工が必要となってくるわけで……。

 ――力押しせず、周囲から切り崩していく……なるほど、エメラルダさんにしては実によくできた作戦ですわ。ルードヴィッヒとか、ガルヴさんとか、あのあたりの人たちが好みそうな策でもありますし……。しかし……。

 一瞬、納得しかけたミーアであったが、すぐに眉間に皺を寄せる。

 ――なんか、ミーア学園、とんでもないことになってやしないかしら?

 思うのは、そんなことだった。

 例えば、エメラルダからの手紙には、エシャールのことが、ちょっぴりの自慢を交えて書いてあったのだが……。

 とても勉強ができるし、心が清らかで素直だし……将来の夫として超楽しみ! みたいな文章に、ちょっぴり胃もたれを感じつつも、ミーアが注目したのは次の文面だった。

『それに、エシャール殿下も、周りからの良い影響を受けて、今ではすっかりミーアさまの信奉者になられました』

 ――周りからの良い影響……信奉者……。

 仄かに匂い立つキケンな香りを感じてしまうミーアである。

 ――これ以上、熱心な信奉者は必要ありませんわ。というか……聖ミーア学園、大丈夫なのかしら?

 むしろエシャールや、今現在、通っている生徒たちのことが心配になるミーアである。

 ――それに、ガヌドスの手の者をミーア学園に入学させるというのも、危険と言えば危険ですし……。

 聖ミーア学園は、新種の小麦の開発を担当してもらっている研究機関でもある。もしも、妨害工作でもされたら、一大事だ。

 ――それに、そもそも、ミーア学園の最終責任者は、わたくしということになりますわ。そこで起きた問題は、わたくし一人で対処することになりますけれど……それは、大変に不公平な話……。

 ミーアが大事にしたいことは、責任回避、並びに、責任の分散化である。

 重たい責任を一人で担うなんて真っ平ごめんのミーアである。ならば、どうするか?

 ――味方に引き入れるという基本線は、わたくしとしても望むところ。であれば、少しだけ軌道修正して……。

 ミーアは、コクリっと、目の前に置かれていたクッキーを飲み込んで……!

「オウラニア姫殿下。ミーア学園に入学したいという旨、理解いたしましたわ」

 手紙をそっと置いて、

「ただ、ご存知かどうかはわかりませんが、聖ミーア学園は、まだ、とても若い学校。貴女が通うには、相応しくないのではないかしら?」

 それ自体に嘘はない。エシャールをはじめとして、ミーア学園に通う学生は、子どもが多い。いきなり入学して最年長になるのは、オウラニアとしてもやりづらいことだろう。

「え……? でも」

 と、困り顔のオウラニアに、ミーアは優しい笑みを浮かべて。

「大丈夫ですわ。エメラルダさんには、わたくしのほうから言っておきますから。どうせ、無茶なことを言われたのだと思いますし……。それより、これは、わたくしのほうから提案なんですけど……」

 ミーアはオウラニアの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。

「このセントノエルに通ってみる……というのはいかがかしら?」

「え、ええと……」

 返事を躊躇うオウラニアを見て、ミーアは確信する。

 ――この方、押しに弱そうですわ。確かに、上手くすると、ガヌドス港湾国攻略の糸口になりそうですわね。さすがはエメラルダさんですわ!

 腹の中でニンマーリと笑みを浮かべつつ、ミーアは畳みかける。

「ラフィーナさまには、わたくしのほうでお願いしてみますわ。ですから、ね?」

 ちょっぴり前のめりになるミーアに、オウラニアはおずおずと首を縦に振るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] オウラニアさんもさぞ驚かれていることでしょう ミーア様、エメラルダさんにそっくり!!と…
[良い点] 約束は平気で2時間遅れるのに押しに弱い長身王女様
[一言] 引き込まれて、寝る間を惜しんで追いつきました。 皇帝さん、亡き母と遠き見ぬ曾孫だと知ったら、喜んで泣くんだろうな。黙ってられそうにないから、言えないんでしょうね。可哀そう。 一緒に学園に来て…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ