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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第百四話 ミーア姫、かぶる……!

「あら……この紙……穴が空いてますわね」

 ベルから受け取った紙を見て、ミーアは小さく首を傾げた。ゆっくりと、それを指でなぞってから……。

「これは、虫食い……かしら?」

「おお! やはり、ミーアもそう思うか! 私も同意見だったぞ」

 嬉しそうに笑みを浮かべるのは父、マティアスであった。

 ギョッとしたミーアは、思わずベルのほうに目を向けると……。

「はい。パパもさっき同じことを言ってました」

 ベルはニコニコしながら頷いて、

「やっぱり親子ですね」

「わはは、そうだろうそうだろう。さすがは我が娘ミーアだ。わはは!」

 よほど嬉しかったのか……上機嫌に笑うマティアスである。

 ウザ! ……と思ったミーアであったが、当然、口に出すようなことはせず、ただ、頬を引きつらせつつ……。

「い、いえ。よくよく見れば、穴の位置が揃ってますし、虫食いなはずがありませんでしたわね。わたくしとしたことが、ついうっかり愚かなことを言ってしまいましたわ」

 それから、ミーアは改めて紙を見つめて、真剣に……真剣に! 考えて……!

「これは……もしや、火で炙ると文字が浮かび上がるとか……」

「ああ、やっぱり、そう思いますよね。ボクと同じ考えです!」

 今度はベルが嬉しそうに声を上げる。

「さすがは、ミーアおば……お姉さまです。うふふ、意見が合うなんて嬉しいなぁ」

 お気楽な笑みを浮かべるベルに……ミーア、若干の渋い顔をする。

 ――真剣に考えた結果がベルと同意見と言うのは……どう考えればいいのかしら?

 っと、そこで、横からシュトリナが手を差し出して、

「ミーアさま、失礼いたします」

 紙を受け取ったシュトリナは、そっとそれを鼻に近づける。そっと瞳を閉じて、小さな鼻をひくひくさせてから……。

「一般的な、炙り出しに使う薬品には、特徴のある匂いがつくものですが、これからは感じられません」

 紙をミーアに返しながら、シュトリナは続ける。

「無臭の薬品を使ったか、あるいは、年月を経るうちに匂いが薄れてしまった可能性もありますが、今の時点で火に当てるのは、リスクが大きいと思います」

「ふむ……。なるほど……。とすると……」

 再びミーアは、ジッとその紙を眺めていたが……ふと、なにか思いついたのか、ポン、と手を打ち、

「ああ。そうですわ。パティに聞くのがいいんじゃないかしら?」

 なにしろ、パティは、この屋敷のもともとの住人である。しかも、この紙を残したのは、恐らく彼女の弟のハンネスのはずなのだ。

 一瞬、そんなことしたら、父にパティの正体がバレるんじゃ? と考えなくもなかったが……。横目で窺った限りでは、父は、ちょっぴりお馬鹿な高笑いを続けている。

 ――まぁ、大丈夫ですわね。この感じなら、たぶん。

 そもそも、時間を越えて幼き祖母が、この時代にやってきた、などという事態を想像しろというのが無理な話なのだ。

 ということで、ミーアはパティに目を向けた。

 話を振られたパティは、目をパチパチ瞬かせていたが、おずおずとその紙を受け取る。

「どうかしら、パティ。これに、なにか心当たりはございますかしら?」

 言いつつ、ふと、ミーアは思った。

 ――しかし、よくよく考えると、この紙がなにか大きな手掛かりになっていると考えるのは、早計なのではないかしら? 仮にこの穴が人為的に開けられたものであったとしても、ハンネス卿に繋がる手掛かりになるとも限りませんし……。そもそも、屋敷にいた子どもの、ただの悪戯ということも考えられますわ。

「これは……」

 紙を受け取ったパティは、マジマジとそれを見つめた。そっと紙の表面を細い指でなぞって、それから、ハッとした顔をする。

「音……」

「え……?」

 パティはミーアのほうに目を向けて、それから、もう一度、紙に目を落として……。

「これは、音を記録したもの……。シューベルト侯爵家の、あの楽器があれば、弾けると思います」

「ほう。音を……」

 唸るミーアの後ろで、ルードヴィッヒが手を打った。

「ああ、そうか。聞いたことがあります。十年近く前から、教会では、伝統的な聖讃美歌を民衆が歌えるように、音を記号であらわす試みをしていると……。確か、発案者の名前をとってヨルゴス式音階とか……」

 音楽は、神が民に与えた喜びの表現法……と、神聖典は語る。

 神を讃え、種蒔きに、収穫に、その御業を感謝する時に、人々は音楽を使ってきた。

 けれど、それが、真に民衆のものになったのは、つい最近のことだった。

 教会のとある神父が発案した表記方法。通称ヨルゴス式楽譜が登場するまでは、音楽を表記する方法は、この世界にはなかったのだ。

 ゆえにそれまでの音楽は、楽器を扱う専門の職人によって、師から弟子へと伝わるもの。あるいは、歌い継いでいくもの、と思われていた。

 人々が真の意味で音楽に親しむようになったのは、西方の小国に派遣された神父ヨルゴスによって、十二の音階の表記法が発案されてからのことで……。けれど……。

「え? そんなはずない。だって、これは、私とハンネスが考えたんだから……」

 パティは、目を見開いて言った。

「あの楽器を弾いて、二人で遊んだの……。私たちだけが知ってることのはず……」

 その言葉に、紙を手にしたルードヴィッヒは、すっと眼鏡の位置を直した。

「もしも、それが本当であれば、その神父とハンネスさまは、なにか、繋がりがあるのやもしれませんね」

「なるほど。ハンネス大叔父さまから聞いたことをもとにして、その神父さまが、音階表記法を発案したと……」

 顎に手を当てて、考え込むミーア。そのすぐそばで、

「ヨルゴス神父って……もしかして……」

 ヤナが弟、キリルの顔を見た。

「もしかして……あの時の……」

皮肉屋ヨルゴスを忘れてもいいと言ったがあれは、嘘だ……

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどな…作者の掌の上ってわけか。 恐れ入ったよ、完全に騙されていたぜ。 作者より賢いキャラは書けないとはよく言われるが、逆に言えば書けるキャラを作者は凌駕しているということ………つまり…
[良い点] ミーアの血筋は天才発明王の血筋だった?!これはベルが電話を発明するフラグ?! [気になる点] レコードや蓄音機ももう少しで作れそうです! [一言] >確か、発案者の名前をとってヨルゴス式音…
[一言] 800話おめでとうございます! これからも応援してます!
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