第百三話 ベルの発見!
時間は少しだけ遡る。
ミーアがパティと真剣な話をしている頃、領主ハンネス・クラウジウスの私室にて。
ベル探検隊の奮闘(奮闘……?)が続いていた。
やはり、怪しいのは大量の本に違いない! と鋭い観察眼で見抜いたベルは、部屋にある本を片っ端から、手に取り……。パラパラーっとめくってから、
「ふむ……」
そっと閉じて、本棚に戻していく。
まぁ、それも無理のないことではあった。なにしろ、この部屋の本の約半数は、帝国語で書かれているが、一ページも読めば、頭が痛くなってくる代物だった。さらに、四割は帝国語で書いてあるはずなのに、そもそも、読んでも意味がわからない難解なものだった。
そして、残りの一割は外国語で書いてあるものだった。
端的に言ってしまうと、ベルが読める本はほぼなかったわけで……。
「やっぱり、どの本を動かしても隠し通路が出る、みたいなことはなさそうですね。うーん、残念……」
早々に、本の内容から何かを発見することを断念。部屋の仕掛けへと興味をシフトしたベルである。スパッと割り切れる、判断力に優れたベル隊長なのである。
「ねぇ、ベルお姉ちゃん、このご本は……」
その時だった。キリルが一冊の本を胸に抱えて、おずおずとやってきた。
「ほう、それは……」
その本の表紙には、なにやら可愛い魚の絵が描かれていた。受け取ったベルは、しげしげとそれを眺めて……。
「これは、子どもの本……でしょうか。なんだか、薄いし、絵がたくさん描いてありますね……。これなら、ボク……じゃなくって、キリルくんやヤナちゃんも、退屈せずに読めるんじゃないかな」
……念のために言っておくと、ベルは別に本が嫌いではない。読めないわけでもない。
ただまぁ、難しい本は得意じゃないし、エンタメ性のない本は、こう……頭に入ってこないだけなのである。
そんなわけで、その絵本をぱらぱらと、めくっていると……ふいに、一枚の紙が落ちた。
「あれっ、これ、なんでしょう……?」
ひらり、ひらりと舞いながら、床に落ちた紙。一瞬、ページが取れて落ちたのかと思ったが、拾い上げて見ると、文字は書かれていなかった。
そして、奇妙なことに、そこには、小さな穴がいくつも開いていた。
「んー、それは、虫食いの穴か……?」
後ろから覗き込んできたマティアスが、顎に手を当てて首を傾げる。が……。
「いえ、違うんじゃないでしょうか……」
ベルは、穴の様子を見て、そっと目を細める。それから、持っていた本の縁と重ねてみて……。
「これ、穴の高さが、揃ってるところがあるみたいです。例えば、ほら、左から一つ目の穴と、四つ目の穴の高さがピッタリ揃っている。同じように、二つ目と七つ目とが揃ってるみたいです」
そう言って、ベルは、うむーむ、と唸る。
「これは、もしかすると、人の手で開けられたんじゃ……。でも、なんのために……?」
「ただの悪戯じゃないんですか?」
不思議そうに首を傾げるヤナに、ベルは、確信のこもった顔で首を振る。
「多分、違います。それにしては揃いすぎてる。ほら、ピッタリ高さが合いますから……」
それから、ベルは、ふぅむ、っと眉間に皺を寄せ、こめかみを指でトントン、と叩く。
「この紙になにか文字が書かれていれば、穴になっている文字をつなげて、なにか意味が出てきそうですけど……。それとも、なにか本のページに重ねると文字が浮かび上がるとか……」
微妙な知恵の冴えを見せるベルであったが、無論、彼女オリジナルのアイデアではない。
すべては、ベルが読んだ本……エリス・リトシュタインの著書「貧しい王子と黄金の竜 ~草原の賢者の十二の問答~」によって得られた知識である。
それは、主人公である王子が、草原の賢者と呼ばれる謎の老人から出された謎を解いていくお話しだった。
物語の各所に『賢者からの提題』と呼ばれる暗号が配置されていて、さらに、途中で賢者が、密室から姿を消すなどという驚きの仕掛けが施された一冊になっている。
ファンタジー、恋愛に続き、ミステリにまで手を伸ばしてしまったエリスである!
その内、空想科学に挑戦し始めて、ミーアたちの時間転移の謎を解明してしまわないか、甚だ不安である。
「うーん、でも、どれも違うみたいですね。なにか、ものすごい秘密が隠されていそうな気がするんですけど……。これ、なんとなくですけど、宝の地図って感じがします……ふむ、となると……あ、もしかして、穴とか関係なく火であぶると出て来るとか……」
「あ……あの、み、ミーアさまのところに持っていったほうがいいんじゃ……」
ヤバいことをつぶやくベルを、この中では一番の常識人のヤナが止めにかかる。幼いヤナが一番の常識人であるあたり、ベル冒険隊の危うさが匂い立つところであった。シュトリナやアンヌを欠いていることが悔やまれる。
「火であぶったりしたら、燃えちゃって、解けるものも解けなくなってしまうかも。だから、ええと、そのまま持って行ったほうがいい、と思います」
ヤナの必死の説得。それをジィっと聞いていたベルは……。
「なるほど。確かにそうですね。ミーアお姉さまなら、こんなのあっという間に解けるに違いありませんね。うん、そうしましょう」
ポンッと手を打ち、素直に頷いた。
基本的に、ベルには謎解きを自分でやってやろうという気概は、そこまでない。
ベルは、謎解きとか特に気にせずに小説を読み進め、答えが出た時に、純粋に驚きたいほうなのだ。
「じゃあ、行きましょう!」
そうして、ベル率いる冒険隊は、お宝の地図(ベル解釈)を手に、ミーアたちのもとへと向かうのだった。




