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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第百二話 妙ですわね……

「病気……?」

 ミーアは確認するように、自らの知恵袋、ルードヴィッヒのほうに目を向ける。

「いえ、クラウジウス候が病気であったという話は聞いていませんが……。念のため、ジルベールにも確認したほうがいいでしょう」

「そうですわね。ふむ……」

 ルードヴィッヒの答えを吟味するように腕組みし、ミーアは考え込んだ。

「治った……ということなのかしら。ねぇ、パティ、その病気は、治るものなんですの?」

「……わかりません」

 吐き出すように言って、パティはギュッと唇を噛みしめる。

「詳しいことはなにも……」

 大変、悔しそうなその顔に、ミーアは慌ててフォローする。

「ああ、そんなに気にする必要はありませんわよ? それが普通というものですわ」

 いかに聡明な自らの祖母パティといえど、十歳そこそこの少女に、病気の詳細を問うのは酷な話だろう。しかも、パティが持っている知識と言うのは、大部分が蛇からのもの。であれば、当然、蛇は大切なことは教えていないだろうし……。

 などと考えつつ、ミーアは腕組み。考えてるっぽい雰囲気を醸し出す。

「とすると……ハンネス殿は……ええと……うーんと……」

 ぐむむ、っと唸るミーア。っと、そこに、すすすっとアンヌが歩み寄ってきて……。

「ミーアさま、あの、よろしければ、お茶とお菓子をお持ちしようかと思うのですが……」

 そんな提案をしてくれた! 

 それで、ミーアはようやく気付いた。自らの体内の糖分が、すでに払底しているということに!

 お腹をさすりつつ、改めて空腹を実感したミーアは、ほわぁ、っと力の抜けた笑みを浮かべた。

「ああ、よく言ってくれましたわ、アンヌ。確かに考えごとをする時には大切ですわね、お茶とお菓子は。すぐに用意していただきたいですわ」

 そうして、ミーアの命を受けて、素早くお茶の準備を始めるアンヌであった。


 さて、小休止の後、ミーアの目の前には、淹れたての紅茶と、大きめのクッキー二枚が運ばれてきた。

 二枚ではちょっと少ないような気がしないではなかったが、夕食前であることを考えると、こんなものだろうか。

「うふふ、やはり、考えごとをする時には甘いものとお茶、ですわね」

 上機嫌に笑うミーア。その正面にはパティが座る。さらに、その両隣にはルードヴィッヒとシュトリナがそれぞれ座っていた。

 アンヌだけは、やはり気遣うようにパティのそばに立ち、ミーアの指示があれば、すぐにでも動き出せる姿勢をとっていた。メイドの鑑である。

 ――本当に、アンヌにはいつも助けられてばかりですわ。

 っと心の中で感謝しつつも、さっそく、クッキーを一口。

 さくり、さくり……。

 それを紅茶で洗い流す。

 ――おや、このクッキーなかなかですわね。甘さが控えめですけど、その分、上品なお味……。うーん、もう一枚。

 さくりさくり……。

 紅茶をもう一口。うーん、美味しい!

「ミーアさま……よろしければ、少し状況を整理いたしたく思いますが……」

 ふと、そんな声が聞こえる。視線を上げると、ルードヴィッヒがこちらを見つめていた。

「ええ。そうですわね。現状わかっていることと、疑問点を挙げていただけるかしら……?」

「では、僭越ながら……」

 眼鏡の位置をクイッと直し、ルードヴィッヒが話し始める。

「まず、今の休憩時間に、ジルベールに確認をとってきました。クラウジウス候ハンネスさまが、ご病気を召しておられた、という話は、少なくとも公の記録には残っていないようです」

「なるほど。ということは、やはり完治したということかしら……あるいは……」

 っと、ミーアはパティのほうに目を向けて、

「その病気というのは、薬を飲んでいる限りは、わかりづらいものなんですの? 目立った症状が出ないとか、そういうことは?」

「薬を飲んでいれば、少し元気がないぐらい。体が弱い子というぐらいです……。でも、飲まなかったら、衰弱して死んでしまう……」

「薬を飲まなければ、死んでしまう……ふむ。とすると……」

 ミーアは、ゴクリ、と紅茶を飲んでから、テーブルの上に手を伸ばし……。その手が空を切る。

 ミーア、思わず目を見開き、確認。クッキーのお皿が空になっているのを見つける!

「……妙ですわね」

 わたくし、いつの間にクッキーを食べたのかしら……? と、思わず首を傾げるミーア。それに同調するようにルードヴィッヒが頷いて。

「ええ、ミーアさまの仰るとおり妙です。もしも、薬を与えないだけで死ぬというのであれば、わざわざ、イエロームーン家を使って殺させる必要がない。薬を与えなければいいだけですから……」

 その指摘に、シュトリナが続く。

「お父さまの代になって以降、イエロームーン家は一人の暗殺にも関与していない。暗殺対象は国外に逃がし、いずれ、蛇と袂を分かつ際の味方にしようとしていたから……。だから、そんな症状を持つ人を、なんの備えもなしに国外に逃がしたとは思えません」

「確かにそうですわね。リーナさんのお父さま……ローレンツ卿は、抜け目ない方ですし……。となると、病気が完治したのか、あるいは、蛇以外から薬を継続的に手に入れる手段を得ていたのか……」

 クッキーから瞬時に思考を切り替え、さも"まさに、そのことを考えていました"的な顔を作るミーア。熟練波乗り師の面目躍如といったところだろうか。

「いずれにせよ、ハンネス大叔父さま……? にお会いして聞いてみなければ、なんとも言えませんけれど……」

 っと、その時だった。不意に、ドアが勢いよく開いた。

「ミーアお姉さま!」

 賑やかな声をあげて入ってきたのは、ベル探検隊の一同だった。

「もう、ベル、少しはしたないですわよ? もう少し慎み深く……」

「そんなことより、気になるものを見つけたんですけど、見ていただけますか?」

 ミーアの注意を華麗にスルーしつつ、ベルが差し出してきたもの……それは……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 英語でビスケット、米語でクッキー、同一のもの。だけれども、日本ではお菓子業界が独自の解釈で別々のものという扱い。 自動車のパーツ名称って、英語と米語と日本語で悉く違いますよね。日本語のカタカ…
[良い点] この作品読んでると無性にクッキーやキノコを食べたくなります。ミーア様は食品販促のチート能力を持ってるのでは・・・
[良い点] >>二枚ではちょっと少ないような気がしないではなかったが、夕食前であることを考えると、 こんなものだろうか。 取り放題にしたら際限なく食べ…もとい飲んじゃいますからね。 アンヌの作戦勝ち…
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