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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第九十五話 報告、そして……

 とりあえず、ミーアは、自身が滞在する予定の部屋にやって来た。

 そこは、領主の執務室、といった趣の部屋だった。

 重厚な机と、分厚い本が収められた本棚、接客用の円形のテーブルなども置かれている。

 オヤツの合間に仕事をするには、ちょうど良さそうな部屋だ、とミーアは分析する。さらに、壁には剽悍な青年の肖像画が飾られていた。おそらくは十代の後半ぐらいだろう。若々しい生気に溢れた彼が、パティの弟、ハンネスだろうか?

 ――大叔父、ハンネス。どんな人だったのかしら……?

 っと、そうこうしている間に、ルードヴィッヒの後輩、ジルベール・ブーケがその場に片膝を付いて一礼する。

「ああ、そんなのは不要ですわ。ええと、ブーケさん?」

「よろしければ、ジルベール、もしくは、ジルと呼んでくれると嬉しいっす」

「そう。ならば、ジルさん。そこの椅子に座って、報告を聞かせていただけるかしら?」

 それから、ミーアはルードヴィッヒにも目を向けて、

「ルードヴィッヒも、疑問に思ったことは構わないから、すぐに聞いていただきたいですわ。わたくしでは気付かないことがたくさんあると思いますし……」

「かしこまりました。もっとも、そんなことはあり得ないと思いますが……」

 ルードヴィッヒは苦笑いしつつ、ジルの隣に座る。ミーアも同じく円形の卓を囲んだところで、ジルベールの報告が始まった。

「ルードヴィッヒ先輩の指示を受けて、私と護衛の二名は、クラウジウス家のことを探っていたっす。ただ、いかんせん、昔の話ですし、聞き取りをするにも限界がある。ということで、少しリアクションを見たいな、と思いまして……」

「……クラウジウス家のことを探る者がいるという情報を、それとなく流したのだな?」

 ルードヴィッヒが探るような目つきで見つめる。と、ジルは苦笑いを浮かべて頬をかいた。

「まさか、それが、誘拐未遂事件を誘発するとは思ってなかったすけど……面目ないっす。リアクションが来るとしたら、こっちかと思ってました」

 一転、しゅんと肩を落とすジルに、ミーアは首を振った。

「レティーツィアさんが誘拐されたのは、遅かれ早かれ確実なわけですし。防げたのですから、問題ありませんわ。それよりも、自分の身を危険に晒すようなことは、避けていただきたいですわ」

 あのルードヴィッヒが信頼して、仕事を任せるような人物と釣り合うような情報というのは、ミーアには想像できない。自身がイエスマンでいるための貴重な人材を失う愚を避けたいミーアである。

「敵の最大戦力は狼使い……火馬駆だと思っておりましたけれど、聞くところによれば、それをも凌ぐ実力者がいるとか。用心するに越したことはありませんわ」

 ミーアの言葉を受けて、ジルは、ぽかん、と口を開けたが、すぐに首を振り……。

「ご心配いただき恐縮っす。以後は、このようなことをしないように心がけるっす」

 それに、一つ頷きを返してから、ミーアは続きを促した。

「はい。それで、ええと、クラウジウス候ハンネスが失踪したのは、今から二十二年ほど前、皇妃パトリシアさまが亡くなる五年前のことみたいっすね」

「まぁ……わたくしが生まれるより前のことなんですのね……」

 どうりで、覚えていないはずだ、とミーアは納得する。そもそも、会ってすらいないのであれば、記憶に残るはずもない。まぁ、もっとも、会ったことがあるとしても、どうでもいいと思ったことは綺麗さっぱり忘れたりするのが、ミーアという人ではあるのだが……。

「では、もしかすると、あそこに飾ってある肖像画は、ハンネス卿の若かりし日の姿かしら?」

 ミーアがそう問いかけると、ジルは、なぜだろう、悪戯っぽい笑みを浮かべて、

「いえ、あれは失踪する、その直前に描かれたものみたいっすよ」

「失踪する直前……? というと、ええと、四十代ぐらいかしら? ですけれどあれは、どう見てもまだ少年の姿に見えるような……」

「どうも、それが呪われたクラウジウス家という噂に、信ぴょう性を生む結果になったとか、そういうことみたいっすよ。なんでも、ハンネス卿は、悪魔に魂を売ったがゆえに、年を取らず、いつまでも若々しいままであった……とか。領民の血をすすって若さを保ってるとか、いろいろと噂は耳にしましたが……」

 それから、ジルは少しだけ真面目な顔をして、

「どうも調べたところ、ハンネスさまの失踪は、暗殺の線が濃厚のようっす」

「暗殺……ああ、やっぱり、そうなんですわね」

 ミーア、小さくため息。それから、パティにどう話そうか考え出す。

 ――生きててくだされば、まだ話しやすかったのに……。ぐぬぬ、なんと説明したものかしら……。ああ、でも、蛇の関係者が暗殺したというのであれば、それをきっかけにパティを味方につけられるかもしれませんわね……。

 考え込みつつも、ミーアは続きを促す。

「ちなみに、その暗殺、誰の手によってされたものですの? やはり、蛇?」

 その問いかけに、ジルはうーん、っと悩ましげに唸って……。

「犯人は捕まってない……というか、暗殺自体が確定したわけではないのでなんとも、っすけど……。ただ……」

 と、そこで言葉を切るジル。それから、

「これは、今、確認を取りに行っているところなんっすけど、どうも、この暗殺には、イエロームーン家が関わっているのではないか、と思ってまして」

「まぁ! ローレンツ殿が関わっているというんですの? あら? ということは……」

 ミーアの脳裏に、かつてのローレンツの言葉が甦る。

 自分たちは、ただの一度も暗殺をしたことはない、と。

「もしかすると、ハンネス卿は……」

 と、その時だった。ドアの外、かたり、という物音が聞こえた。

「え……?」

 ビクッと、肩を震わせるミーア。なにせ、呪われたクラウジウス家で鳴った怪音である。

 ビビるなというのは、大変、酷な話であって……。

 ルードヴィッヒとジルが急いで扉を開ける。っと、そこに立ち尽くしていたのは……。

「……ぱ、パティ? 今の話を聞いて……」

 蒼白な顔をするパトリシアに、嫌な予感が、ミーアの中を駆け抜けて……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >オヤツの合間に仕事 あの、ミーア様……もしかして普段からそのような生活をしているのでしょうか……w
[良い点] ミーアきのこ「今こそ蛇の誤解をとくときではきのこ! 今なら応援きのこもいて波乗りきのこになれそうきのこ。」 眼鏡きのこ「さすがミーア様。これも予想済みのことに違いないきのこ!」 ジルきのこ…
[良い点] >>少しリアクションを見たいな、と思いまして…… 行き詰ったなら情報の方から来てもらえばいいじゃない?って発想は いかにもガルヴ門下の面々が考えそうなことですね。 そして情報の信用度で…
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