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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第八十三話 ルードヴィッヒの戦力分析、そして……

「そうか。ミーアさまが、御自ら……」

 シューベルト邸での事の顛末を聞いた時、ルードヴィッヒは思わず、と言った様子でため息を吐いた。

「シューベルト家に生息していたキノコの毒を用いて、下手人を撃退……。その後の聞き取りもスムーズに……。むぅ、さすがはミーアさまだ」

 臨機応変、融通無碍。帝国の叡智の柔軟極まるやり方に、思わず瞠目するルードヴィッヒである。陽の光に照らされて、その眼鏡のレンズがキラリと白く光った。

「それにしても、まさか、シューベルト侯爵家に蛇が潜んでいたとは……」

 サフィアスが謀反を起こす、と言われ、半信半疑だったルードヴィッヒであるが、それでも、調査を進めていた。

 ブルームーン派の貴族の動向を探りつつ、謀反を起こすとしたら、誰の差し金であるのかを、詳しく検討していたのだが……。

「このタイミングで、あいつが帝都にいないのが悔やまれるな」

 森の賢者ガルヴの兄弟弟子、ジルベール・ブーケ。通称ジル。

 帝都の行政と中央貴族に詳しい後輩は、現在、クラウジウス家の調査のため、旧クラウジウス領に出向いていた。

 彼であれば、ブルームーン派の動向に関しても、もっと楽に調べられたかもしれないのだが。

「やはり、人脈は大事だな。こちらの伝手ではどうしても時間がかかってしまう」

 まだ、ブルームーン派の貴族すべての動向はつかめてはいない。けれど、ある程度、揃ってきた情報によれば、現在、サフィアスが謀反を起こしたとして、協力しそうな者は皆無だった。

「それはそうだろうな……」

 ルードヴィッヒは、思わず、そうつぶやいてしまう。

 現在、帝国の食料供給のキーマンは、紛れもなくミーアであった。

 最大の食料供給地、ペルージャン農業国は、ミーアに全面的な支持を示している。同じく、小麦の供給地であるルドルフォン辺土伯、ギルデン辺土伯も同様だ。国外からの輸入も、ミーアの築いた人脈、フォークロード商会が担っているこの現状……。各地で、農作物の不作が起きる中、少しでも自領の食料状況がわかっている貴族ならば、ミーアを怒らせたら不味いことはわかるはず。

 確かにボンクラ貴族の中には、自領の食料事情など意に介さない者もいる。サフィアスが帝位についたほうが都合がいいからと、謀反に協力する者もいるかもしれないが……そうした者たちに対して押さえとなるのが、ミーアの人脈だ。

 すなわち、聖女ラフィーナの存在である。

 権力志向者にとって、聖女ラフィーナというネームバリューは非常に大きな意味を持つ。

「皇帝陛下の意に反すること、ミーア皇女殿下に逆らうことはできても、ヴェールガの権威に逆らうことはできない。こう考えると、あらゆる意味で、今、ミーアさまに謀反を起こそうなどと言う者はいない。だが……」

 ルードヴィッヒは、あえて、そこに付け加える。

「……それも、将来においては定かではない」

 喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人と言うものの本質。食料危機が終わってしばらくすれば、ミーアの影響力が弱まることも考えられる。

「そして、次の帝位が定まらぬ限り……ブルームーン家が抱える潜在的な危機は解消されない。つまるところ、サフィアス殿は、蛇の誘惑を受けやすい立場であり続けることになる。ミーアさまが、女帝になってしまわない限りは……」

 ルードヴィッヒは、そこで改めて、想像を巡らせる。

「女帝ミーア陛下、か……」

 その夢の実現性を、ルードヴィッヒは考える。

 ミーアが女帝に着く際、無条件に味方になってくれそうな勢力はどの程度か。

 現皇帝は、恐らく支持するだろう。というか、あの人は、たぶん、ミーアのやることに一切、反対はしないはずだ。

 ルドルフォン辺土伯、ギルデン辺土伯も、恐らく心配ない。イエロームーン家、レッドムーン家の存在も大きい。

 四大公爵家の内、二つが味方に付いているという状況はとても心強いものがある。が……。

「レッドムーン家は良いが、軍部のほうはどうか……。影響力が強いとは言っても、黒月省とレッドムーン家は一体ではない」

 帝国軍の軍政改革はいずれ手掛けなければならないことだろうが、それが女帝の手によって行われることを、軍がどう思うのか……。

「頭の固い武官はいるだろうから、黒月省は微妙だ。逆に、ミーアさまの農地改革について好意的なのが赤月省だ。外交面に強い緑月省も、どちらかといえばミーアさまの味方だろうが、同じく外交に強いグリーンムーン家は微妙といえば微妙……」

 ルードヴィッヒは、恐らく、現時点でもミーアは女帝になれるだろうと踏んでいる。けれど、同時に、今、それを表明すれば苦労も多いだろうというのが、苦しいところだった。

「ミーアさまを、帝国内の問題のみに縛り付けることは、大陸の損失になる……」

 帝国内のことは、早急に盤石にしておきたいルードヴィッヒである。そのためには、もっと味方が必要だった。よりミーアのしようとすることを理解し、協力できるような有力な貴族が……。

「イエロームーン家によって、国外に脱出した貴族たち……彼らの力を借りられるかどうかが、大きな分岐点なのかもしれない」

 と、その時だった。不意に、執務室の扉をノックする音が聞こえてきた。

「ルードヴィッヒ、いるかしら?」

「これは、ミーアさま……」

 来客が、自らの主だと知って、彼は慌てて扉へと向かう。

 ドアを開けると、そこには、わずかばかり思いつめたような顔をするミーアの姿があった。

「ミーアさま、どうかされましたか?」

 不思議そうに首を傾げるルードヴィッヒに、ミーアは言った。

「実は、旧クラウジウス侯爵領に行きたいと思っているのですけど、その準備をしていただけないかしら?」

 思いのほか真剣な顔をするミーアに、ルードヴィッヒは一瞬息を呑み、けれど、すぐに頷いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あー、久々のさすミア(笑) 前回がシリアスだったから余計に心にしみますね。 女帝になろうと思えばなれるけど、どうせなるならガッチガチに、 それも誰にも反論を挟ませないくらいに足元を固めて…
[良い点] 眼鏡は全くぶれませんね素晴らしいです [気になる点] 弟が敵か味方かでこの後の雰囲気が変わりそう [一言] 兄弟弟子って「ジルベール・ブーケっす」の人ですね そういえばなろうで賢者が出る作…
[良い点] 蛇関係の行方不明者を探そうと言う時に、イエロームーン家による国外脱出者の話題が出てきたので、もしかして?とワクワクしてます。
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