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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第八十一話 気配りの人、ミーアの配慮!

「それで、蛇の仲間は、どこにおりますの?」

 ミーアは改めてゲルタに問う。と、

「も、もう、この国には、うぐ、いない……あはは、残念だったな、帝国の叡智」

「本当かしら……?」

 ミーア、かたわらのシュトリナに目を向けると、シュトリナは小さく頷き、

「今のゲルタさんが嘘を吐くことがとても難しいですから……」

「ふぅむ……」

 腕組みするミーアに変わって、シオンが口を開いた。

「毒を残し、事が起きる頃には、自身はすでに遠くに逃げおおせている。このやり方は、エシャールの時と似ているな……。毒を渡した男の名と、特徴は?」

「ぐ、な、名前は、火燻狼(カ・クンロウ)。火の一族の、毒使い……。そ、それと、ふふふ、古き蛇、ヴァイサリアンの男も……あはは、一緒に、あっはははは」

「ヴァイサリアン族……?」

 ミーアは、思わず、ヤナのほうに目を向けた。すると、ヤナが、まるで怯えた様子で体をすくめた。

「ああ……ごめんなさい、ヤナ。別に、あなたを責めているわけではありませんわ。わたくしとしたことが、うっかりしましたわ」

 ミーアは安心させるように、ヤナの頭を撫でる。

「敵があなたと同じヴァイサリアン族の出だからといって、あなたにはなんの関係もないことですわ」

 と、保証してやりつつ、

「火燻狼という方については、慧馬さんに聞いてみるのがいいかしら……そして、やはり、気になるのはヴァイサリアン族の男のほうですけど……」

「……バルバラが、セントノエルに渡った時に手引きした男と同一人物……と見るべき、かもしれないな」

 難しい顔でつぶやくアベルに、ミーアは静かに頷いた。

「そうですわね……。しかし、考えることがまた山積みになってまいりましたわ」


 やがて、皇女専属近衛隊の者たちの手で、ゲルタは連れていかれた。シューベルト邸の部屋で、尋問の続きをすることになったのだ。

「ミーアさま、念のために、リーナも一緒に行こうと思います」

 命に別状はないとはいえ、一応は、毒キノコを食べたゲルタである。彼女からは、まだ聞きたいことがあるし、万が一、死んでしまったら『毒キノコから始まる蛇の逆転ストーリー』が始まってしまうかもしれなかったので、シュトリナがついていくのは、ありがたい話であった。ということで……。

「ああ。そうですわね……でしたら、ベル、申し訳ないけど、あなたもリーナさんに同行してもらえないかしら?」

「え……? ボク、ですか?」

 不思議そうに首を傾げるベルに、ミーアは重々しく頷く。

「リーナさんのそばで、あのキノコについてしっかり学んでくること。毒キノコの恐ろしさをしっかりと教わってくるとよろしいですわ。キノコは、素人が簡単に手を出すと痛い目を見る、とっても興味深いものですから……」

 極めて、まっとうな識見を披露するミーアである。惜しむらくは、ミーアが自分のことを、『割とキノコの熟練者だ!』と認識している点であるが……。

「なるほど、わかりました」

 ベルは、キリリと皇女っぽい、凛々しい顔で頷いて、

「行きましょう、リーナちゃん」

 四大公爵家令嬢、シュトリナを率いて、調理場を出て行った。

 スッと伸びた頼もしくも、頼りがいのある背中を見ていると、帝国の未来もこれで安泰であろうことが、確信できて……確信……、確信? 安泰……? いや、そうでもないか。

 まぁ、それはともかく……。

「しかし……今回は、ミーアにしては、珍しく攻撃的な手段をとったな。敵にとはいえ、あんな毒キノコを食べさせるとは……」

 シオンが、意外そうな顔で言った。

「察するに、サフィアス殿が巻き込まれそうだと知って、怒りが抑えきれなかったのかな? まぁ、実際、俺も、エシャールを陥れた者が関わっていると聞けば、同じように強硬な手段に出ていたかもしれないが……」

 シオンの問いかけに、一瞬、ポカンと口を開けかけたミーアであったが……。

「……ええ、まぁ、大体、そんな感じですわ」

 ミーアは、重々しく頷いてみせる。腕組みしつつ、いかにも、すべて狙ってやりました! と言った様子で、うんうん、頷く!

 っと、それを、シラーっとした顔で見つめているキースウッドと微妙に目が合った。

「あら、キースウッドさん、なにか……?」

「……いえ。まぁ、そういうことなのでしょう。ええ。そういうことにしておきましょうか」

 なにか、こう……微妙に納得のいかない顔ながら、無理やりに同意するキースウッドである。一方で、

「ミーア姫殿下が……サフィアスさまのために怒りを……それで、あのようなキノコを……」

 胸元で、両手をギュッと握って、レティーツィアが感動に目を潤ませていた。

 サフィアスが大好きなレティーツィアは、サフィアスのことになると、時々、賢さがマイナス五十になってしまう人であった。ミーアは、そんなレティーツィアの手をひっしと掴み……。

「ええ。実は……、今回、わたくしは、そのために、ここにやってきましたの」

 熟練の波乗り士にして、どんな小さな流れにも乗る海月でもあるミーアは、生じた流れを見逃すことはない。

「実のところ、先日、わたくしのところに、サフィアスさんが謀反を起こすとの情報が入りましたの。もちろん、わたくしは、サフィアスさんのことを信じておりましたけれど……、しかし、なにか胸騒ぎがしましたの」

 いけしゃあしゃあとそんなことを言うミーアである! が……、今回は特に罪悪感はなかった。

 なにしろ、レティーツィアと仲良くしようという段で、サフィアスに対する疑いは綺麗さっぱり消していたからだ。

 サフィアスが完全に無罪だとわかる前から、信じていました、と言えるギリギリのタイミングだったわけだが……ともかく、ミーアは、サフィアスのことを信じていたという自負が、ミーアにはあったのだ。

 ゆえに、堂々と胸を張って言った!

「サフィアスさんは、わたくしにとっても大切な人物ですし、もしもなにかあれば一大事と、こうしてやって来たのですわ。まさか、蛇がこのようなところに紛れ込んでいるとは思ってもみませんでしたけれど……」

「申し訳ありません。ミーアさま、我がシューベルト家のメイドが、このようなことを……」

 頬を青くするレティーツィアにも、ミーアは朗らかな笑みを返す。

「謝罪は不要ですわ。彼らは、どんな場所にも隠れ潜んでいる、とっても恐ろしい存在ですから、あなたのせいではありませんわ」

「ですが……」

 っと、空気が張りつめそうになった、その瞬間のことだった。

「お姉ちゃん……僕、お腹空いた……」

 キリルが、ヤナに甘える声が聞こえてきた。それで一気に、その場の雰囲気が弛緩する。

「ああ。そうでしたわね。すっかり忘れておりましたわ」

 ぽんっと手を叩き、ミーアは頷いた。

「確かに、まだお食事をしておりませんでしたわね……」

 それから、ミーアは野菜鍋のほうを見た。

「みなで作ったお鍋はございますけれど……」

 手元には解毒薬と毒がある……。解毒薬を入れれば、無害化できるのかもしれないが……。

「さすがに、毒の入った食べ物を、危険を冒して食べるなんてことはできませんわね。もったいないですけど、そこのお鍋の中身は破棄してしまいましょう……それで、新しいナニカ、を作るのがいいのではないかしら?」

 ミーアが、ごくごく気軽な様子でトンデモないことを言い出した!

「よくよく考えれば、お料理会に、ベルやリーナさんとキリル、それにパティやヤナも参加していませんでしたし……キースウッドさんやサフィアスさんも、お料理会に参加したかったのではないかしら?」

 気配りの人、ミーアは、周囲への配慮に余念がない。

「いやいやいや、ミーア姫殿下……。そ、そのぅ、そう、もう食材を使い切ってしまったのでは?」

 慌てて、止めに入るサフィアス。であったが……。ミーアは、実になんとも愛らしい笑みを浮かべて、

「ふふふ、それならば、問題はありませんわ。ほら」

 そうして、彼女が指し示した先、未だ、山盛りの野菜が残っており……。

「まだまだ、食材が余っておりますし。それに、お野菜というのは、それほど長持ちするものではありませんし。ここは、トラブルも解決したということで、改めてお料理を……」

「い、いや、しかし、さすがにこのようなことがあった後で、お料理というのはいかがなものかと……」

 キースウッドが横から援軍を出すも……。

「このようなことがあったから……ですわ」

 一転、ミーアは真面目な顔をする。それから、近くにいたヤナの頭を撫でて……。

「ごめんなさいね、ヤナ。怖い思いをさせてしまいましたわ」

「い、いえ……あの、えっと……」

 急に撫でられたことで、頬を赤くするヤナ。ミーアは優しい笑みを浮かべてから、

「子どもたちの今日の思い出を、こんなことで終わらせたくはありませんの。楽しいお料理会の記憶を、この子たちに用意してあげたいのですわ」

「ぐぬ……」

 思わず、キースウッドは言葉を失う。

 ミーアの吐いた正論に対して、反論する言葉を持たなかったのだ。

 確かに、地下道で怖い思いをした子どもたちが、このまま今日を終えるのは可哀想なこと。それを放置するのは、シオンの従者に相応しくないことかもしれなくって……。

 一方で、サフィアスも適切な反論を思いつけずにいた。

 ふと見れば、愛するレティーツィアがやる気になってしまっている。

「地下室で頑張ったサフィアスさまのためにも……!」

 などと気合の入ったつぶやきと共に、腕組みを始めている。そのうえ、子どもたちのためと言われてしまえば、強硬に反論するのは感じが悪いだろう。

 そうして、苦し紛れに彼らが視線を向けた先、そこには最後の砦、ダリオが……ダリオが! ……いなかった!

「おや、ダリオは……」

「申し訳ありません。サフィアスさま、ダリオは、ゲルタのことがショックだったらしく、少し部屋で一人になりたいと……」

 などと言うレティーツィアの声を聞いて、サフィアスは、なんとなく察する。

 義弟よ……逃げたな! っと。

「おのれ、逃げるとは、情けない……。義弟よ!」

 なぁんて……ちょっぴり前の自身の行いなど、ぽーいっと記憶の彼方に投げ捨てたサフィアスであった。

ちなみに、気になるクラウジウス家のことは、次回更新にて……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギロロシェフ「キースウッド、大丈夫だギロ!今度ミーア姫殿下には特製のザシュット・ポロリンコをプレゼントしておくギロ!」
[気になる点] >「おのれ、逃げるとは、情けない……。義弟よ!」ダリオは、逃げ切れたのでしょうか?(笑) ミーア「ダリオさんの分も作っておきましたわ!」 と言って、ダリオの部屋に料理を持っていきそう…
[一言] 義弟よ……逃げたな! いや!サフィアスお前が言うなし 似たもの同士、お互い様だろうにww
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