第八十話 楽しい尋問タイム! あはは!
「まさか……ゲルタが、賊だと言うのか……」
ゲルタの突然の告白に、サフィアスは顔を青くする。
一方で、レティーツィアやダリオ、それに周りのメイドたちは、なにが起きたのかわからず、困惑の表情を浮かべていた。
「……本当に、彼女が……?」
深刻そうな顔で問いかけるアベルに、シュトリナは深々と頷いた。
「間違いないでしょう」
そう言うと、シュトリナは、ゲルタの身体を探る。っと、ほどなくして、彼女の懐から、二つの小瓶が現われた。
「ああ、やはりありましたか……」
そう言うと、シュトリナはゲルタの目の前で瓶を振りながら、
「これは、毒と解毒薬ですか?」
問いかけに、ゲルタは笑いながら「そうだ、あはは!」と答える……なんだか、楽しい雰囲気の尋問だった。
「恐らく、解毒薬を先に飲んでおいて、後から毒を飲むことで、毒は入っていないと証明しようとしたのではないかと……」
腕組みしつつ、顎に手を当てながら、シュトリナは続ける。
「……しかし、このやり方……毒について詳しい者でないとできないやり方です。もしかすると……」
っと、そこで、シオンが血相を変えた。
「まさか、エシャールに毒を渡した者が関係している、ということか?」
シュトリナは、無言で頷くと、再び、ゲルタのそばにしゃがんだ。
「この小瓶をあなたに渡したのは……?」
「あははは、くっ、だっ、誰が言うか……」
「蛇の仲間。騎馬王国の火の一族出身の男、ですよね?」
「くふふふ、そうだ。あはは、そのとおり」
実にスムーズな尋問である。そして、なんとも……楽しそうだった!
そんな光景を少し離れた場所で興味深げに見守っていたミーアは……ますます、あのキノコへの興味を深める。
「そういえば、地下でこの子たちを保護したのだが……」
っと、サフィアスが思い出したように言った。見れば、そこには、ヤナとパティの姿があった。
「はて……? 地下とは?」
小首を傾げるミーアに、キースウッドが手短に地下での出来事を説明する。
「まぁ、サフィアスさま、そんな危ないことを……っ!」
レティーツィアが顔を青くするも、サフィアスは笑って首を振った。
「なぁに、君や、ミーア姫殿下のお料理会と比べればこの程度の危険など……」
「サフィアス殿、本音が……」
キースウッドに、耳打ちされて、ハッとした顔をしてから、サフィアスは一度、咳払い。
「君や、ミーア姫殿下のお料理会を守ることと比べれば、この程度の危険など安い物さ。それに、帝国貴族として、幼い子どもたちが連れ去られるのを黙って見過ごせないし。なぁ、キースウッド殿」
「ええ。そのような、正義にもとるような行動、決してできません。当たり前です」
キリリッとした顔で頷きあう、二人の男たち……。そんな彼らを、ダリオが、シラーっとした目で見つめていたが……まぁ、それはともかく。
「パティ、それにヤナ、二人ともケガはありませんの?」
念のためにそう尋ねれば、二人とも一応は頷くものの、やはりショックだったのか、表情は冴えない。特に、パティはうつむいたまま、ミーアのほうを見ようとしなかった。
――ふぅむ、これは、よほど恐ろしい目に遭ったのかしら……? なんとかしなければ、ますます、パティが心を閉ざしてしまいそうですわ。
深刻な顔をするミーアである。
「しかし、地下にいた賊といい、ゲルタといい、いったいなにを企んでいたというのだろう。ミーアさまが、こうして料理会にやってくることを見越して潜入した、というのは、少し違う気がするが……」
不思議そうにつぶやくサフィアスに、答えたのはシュトリナだった。
「恐らく、蛇は、レティーツィアさんを人質にして、サフィアスさんを謀反人に仕立て上げようとしたんじゃないかと思います」
「なっ! お、オレを謀反人に……!? レティーツィアを人質に、それは……」
口をパクパクさせるサフィアスだったが、やがて、愁いを帯びた顔で……。
「いや、そうか……確かに、レティーツィアが人質になっているとなれば……ミーアさまに反旗を翻すこともあるかもしれないな……。君は、オレにとって何よりも大切な存在だから……」
「……まぁ、サフィアスさま」
などと、まぁ、ラブラブな二人はさておき……。
シュトリナは、腕組みしたままつぶやく。
「……イエロームーン家でも、昔、そんな作戦が検討されていたことがあったし……。狙いどころとしては、ちょうどいいから間違いないと思います」
ちょうどいい、と評されて、サフィアスが、ヒクっと頬を引きつらせる。
「ああ……ええと、サフィアスさん個人の資質ではなく、おかれている立ち位置が、ですから、お気になさらず」
ニッコリと可憐な笑みを浮かべつつ、フォローを入れるシュトリナ。相変わらず、如才ない態度である。
「なるほど。サフィアスさんは、ブルームーン家の次期当主。そのような方とわたくしとが争えば、混乱は必至。蛇の考えそうなことですわね」
ミーアの改革に、最も反感を抱いているのは、やはり中央貴族の者たちだ。その一番のまとめ役たるブルームーン家とミーアの仲がこじれれば、帝国が二分されてしまうかもしれない。その混乱に乗じて、食料の供給が滞れば、飢饉が起こり、疫病が流行り……ギロチン!
ブルルッと背筋を震わせつつも、ミーアは思考を転じる。
恐ろしい想像ばかりしていては、体がもたない。楽しい想像も織り交ぜなければ……。ということで、先ほどから気になっていたことを、シュトリナに聞いてみることにする。
「ところで、リーナさん。……なんか、さっきから、ちょっぴり楽しそうですわね、あのキノコって飲ませると、こんな風になりますのね」
「ああ、詳しい効能までは、ご存知ありませんでしたか?」
不思議そうに首を傾げるシュトリナに、ミーアは重々しく頷く。
「ええ、まぁ……。わたくしも、何もかもを知っているというわけにはいかないので」
実際には、ほぼ何も知らないミーアなのであるが、それはともかく……。
「あのキノコ、トロキシ茸は、食べると、こんな風に笑いが止まらなくなります。しばらく笑い続けることになるのですが、それがとっても苦しくて、七日間ぐらい、魂が抜けたような状態になってしまうんです」
「ほほう……。それは、実に興味深いですわ」
ミーアが楽しそうに笑うのを、渋い顔で見つめるサフィアスとキースウッドであった。
今日はワクチン三回目なのです。
なので熱で倒れた場合は、来週、更新がないかもしれません……。




