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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第七十三話 いつものミーア

 さて、料理を始めようか、といったところで、ティオーナが近づいてきた。

「ミーアさま、改めまして、ご無沙汰しています。本日は、このような素敵な会にお招きいただきありがとうございます」

「あら、ティオーナさん。ご機嫌よう。お元気そうでなによりですわ。お父さまとセロくんは、お変わりはないかしら?」

 そう尋ねると、ティオーナは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。父も、弟も元気にしています。セロは、ミーアさまの学校で学ぶのがとても楽しいみたいで……。アーシャ姫殿下にも、とてもよくしていただいているそうです」

 と言ってから、ティオーナは、でも……と続ける。

「最近は、なんだか、すごく頼もしくなってしまって……。それが少しだけ寂しいんです」

「まぁ、ふふふ。ルドルフォン辺土伯令嬢にも、弟さんがいらっしゃるのね」

 レティーツィアが気品のある笑みを浮かべて、会話に加わってきた。

「でも、羨ましい。うちの弟のダリオなんか、いつまでたっても頼りなくって……。あれでは、サフィアスさまの支えにはなれないんじゃないかしら……」

 姉の視線を受けたダリオが、微妙に居心地悪そうに頬をかいた。

「いや、シューベルト侯爵令嬢。それは、弟の近くにいるから、そう感じるだけかもしれない。少し離れてみると、見えてくるものがあるかもしれないよ」

 腕組みしつつ、そう言ったのは、シオンだった。

「そういうもの、なのでしょうか。シオン殿下」

 怪訝そうな顔で首を傾げるレティーツィアに、シオンは肩をすくめて、

「ああ。もっとも、私もそれに気付くのが遅れてね……。ミーアのおかげで、なんとか、間に合ったという感じだったよ」

 さて、そんな風に弟談議に花を咲かせつつ、ティオーナがミーアのほうを見た。

「それで、ミーアさま、私はどれを切ればいいでしょうか?」

 ウッキウキの顔でティオーナが言う。

「ふーむ、そうですわね……」

 ミーア、腕組みしつつ、考える……ふりをする。

 まぁ、実際のところ、なにから調理を始めればいいかなんて、ミーアにわかるはずもないわけで……。

「では、とりあえず、端から順番に……」

 などと、近くにあった玉月(ぎょくげつ)ネギと公爵芋(コウシャクイモ)を手に取る。と……。

「僭越ながら、その玉月ネギは、早めに入れてしまうと溶けてなくなってしまいます。味としては問題ないのですが、食感を楽しむのであれば、できるだけ後のほうにされたほうがよろしいかと……」

 ミーアの後ろから、ゲルタの静かな声が響いた。

「ですから、そちらの満月大根(フルムーンラディッシュ)などを先に切るのが良いのではないかと……」

「なるほど。では、ティオーナさんとシオン、申し訳ありませんけど、そちらの満月大根を、ええと……?」

「輪切りにするのがよろしいかと……」

「それにしてくださいまし」

 てきぱきと指示を出しつつ、ミーアは、

 ――この、ゲルタさんという方……なかなかできますわね?

 思わず瞠目する。

 よくよく思い出してみれば、先ほどからの立ち居振る舞いなども品があって実に見事。

 足音を立てずに部屋の中を歩き回る様子や、一つ一つ洗練された仕草に、ミーアは、ふむ、と唸り声を上げる。

 ――的確な時に的確な指摘をし、正解へと導いていく。実に優秀。さすがは侯爵家のメイドといったところかしら。

 まったくもって感心しきりのミーアである……。

 ゲルタが怪しいとか……そんなこと、まるっきり考えてなかったのである!

 まぁ、もちろんご存知のことと思うのだが……。

「では、シオン王子、これを一緒に……」

 っと、ティオーナとシオンが並んで作業を始めた。

 仲睦(なかむつ)まじく野菜を切るティオーナとシオンを見て、ミーアは、実に微笑ましい気持ちになってしまう。

 ――ふふふ、以前までのわたくしであれば、あんな光景を見せつけられたら、怒ったのでしょうけど……。

 前の時間軸、シオンのハートをゲットするべく、待ちの姿勢を貫いていたミーア。あの当時のミーアが見たら、きっと、嫉妬に怒り心頭だったはずで……。

 そんなミーアにも、今は……。

「ミーア、ボクたちも作業を始めないか?」

 アベルがニッコリ笑顔を見せる。

「うふふ、そうですわね」

 それに、笑みを返しつつ、ミーアは幸せを噛みしめる。

 ――ああ、素敵ですわ。やはり、愛する殿方とお料理を作れることは、何よりの幸せ……。ふむ……。

 っと、そこで、ミーア、冷静になる。

 ――っと、ダメですわね。アベルとイチャイチャしたいのはやまやまですけれど、今日はレティーツィアさんに、お料理を教えて差し上げるのがメインイベントでしたわ。サフィアスさんもいらっしゃらなくて、寂しそうにしていますし……。ここは、わたくしが気を使って……。

 いささかおこがましいことを思いつつ、ミーアはレティーツィアのほうを見た。

「レティーツィアさんも一緒に切りましょうか。やはり、お野菜は形が重要だと思いますの。この、イモを馬型に……」

「……僭越ながら、イモは煮崩れてしまうかと思いますので、あまり形を変えても意味がないかと……」

「ふむ……。やはり、見た目よりは、味付けがポイントでしたわね!」

 こうして、ゲルタの手のひらの上、なんの抵抗もなくコロコロ転がされるミーア……。その姿はさながら、大海に漂う海月のごとき他愛のなさで……。

 まぁ、つまり……その、なんというか……いつも通りのミーアなのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 海月は海月でも電気クラゲじゃないかなw
[良い点] >>――この、ゲルタさんという方……なかなかできますわね? そりゃ、蛇とか抜きにすれば侯爵家に仕える、それもベテランのメイドさんだもの。 機嫌を損ねずに軌道修正なんてお手のものでしょう。…
[良い点] 馬型のイモ…! 和食の飾り切りを目にしたら、ミーア様もレティーツィアさんも興味津々でしょうね。そしてミーア様はそれをキノコで挑戦するのでしょうか。馬型のキノコ…。 [一言] 友人に料理が苦…
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