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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第六十四話 ミーア姫、探りを入れる

 さて、レティーツィアに手紙を出してすぐに、ミーアはパティたちに話をしに行った。

「料理会……?」

 怪訝そうな顔で首を傾げるパティに、ミーアは深々と頷く。

「そう、セントノエルでしたようなものですわ」

 言ってから、すぐに、ミーアは付け加える。

「お料理の腕を磨くことは、とても意味があることですわ。食とは、わたくしたちに与えられた喜びの最たるものですもの。日々の食事を楽しめない人生は、つまらない……みたいなことが、神聖典に書いてあったはずですわ……確か」

 ラフィーナがいないので、やや適当なことを口走るミーアである。が……。

「ともかく、誰かに美味しい料理を作ってあげたい時に、そのための腕前がないというのは不幸なこと。あなたも、いざ作ってあげる機会が得られた時に欲しても遅いですし。未来を予測して動くのが大切ですわ」

 それから、ミーアは指を振り振り、偉そうに続ける。

「そう、わたくしも、初めてアベルに作ってあげた時には少し困りましたわ」

 ……少し?

「あの時のわたくしは、まだまだ未熟者で。アベルが喜ぶようなものを、一人では作ることができなかった。みなの助けが必要でしたわ」

 微妙に“そんな私も今は……”みたいなニュアンスが感じられないでもない言い回しなのが、いささか気になるところではあるのだが……。

「相手を喜ばすために心を尽くすことは当然。されど、そのためには、スキルも必要ということですわ。いいですわね」

 だから、弟に作ってあげる時のために、今から料理の腕を上げておくのが良いよ、と、主張したいミーアなのである。

 ……その主張は概ね間違ってはいない。いないが……こう、なんというか、ミーアが偉そうに言っていると、微妙に引っかかる者がいないではないような気がするが……それはさておき。

「あの、ミーアさま、あたしたちも一緒に行っていいんでしょうか?」

 不安そうな顔をするヤナ。対照的にキリルは嬉しそうだった。先日のセントノエルでのことが楽しかったと見える。

「問題ありませんわ。あなたたちだって、貴重な戦力ですわ!」

 優しい笑顔で、そう言ってあげるミーアである。

ちなみに、子どもたちに関して言えば……勝手にパンを馬の形にしたりしないので、どこかの誰かさんより戦力になるというのは、れっきとした事実であった。お世辞抜きの真実なのであった。

 とまぁ、そんなこんなで、子どもたちにも事情を伝え……さらに翌日のこと。

 ミーアは、サフィアスを白月宮殿に呼び寄せた。

 ――手は打ってありますけれど、一応、サフィアスさんに探りを入れることも必要ですわね。

 そんなことを思ったためだ。

 ちなみにベルによれば、ブルームーン家は、謀反の責任を取らされてお取り潰し。派閥は解体の憂き目に遭うという。

「うーん、変ですねぇ。ブルームーン公爵家と言えば、ミーアお祖母さまの治世を支える大切な存在ですし……」

 などと、しきりに首を傾げるベルである。

 実際、中央貴族の中には、ミーアが女帝になることに対して、反対の者が数多くいる。そんな不満分子を、ブルームーン家当主としてサフィアスが押さえてくれることは、ルードヴィッヒら女帝派も期待していることだった。

「もちろん、謀反は起こらないと思っていますが、もしも、サフィアスさまが裏切るようなことになれば、我々としても立ち回り方を変える必要があるかもしれません」

 あのルードヴィッヒすら、苦々しい顔をするような事態。されど、ミーアは涼しい顔を崩さない。なぜなら、すでに手は打ってある。

 ――レティーツィアさんを上手く丸め込めばどうということはございませんわ。

 確固たる確信を胸に、ミーアはサフィアスがやってくるのを待っていた。

 やがて……。

「ミーアさま。ご機嫌麗しゅう」

 やって来たサフィアスは普段とまったく変わらぬ様子で、親しげな笑みを浮かべた。

 そこに違和感などは、一切なく……否! ミーアの鋭い観察眼は、サフィアスの顔に表れた微かな陰りを見出した。

 それに、ミーアを見つめる目に、微妙な不安の色が見え隠れしている。

 ――あら、あの表情……なにか心配事でもあるのかしら……? ふぅむ、謀反の兆候がまるでない、とは言いきれないということなのか……。ふむむ……。

 自らの手紙が、彼の心配事の中心であることなど、夢にも思わぬミーアである。

 ミーアは、ニッコリ笑みを浮かべて、

「ご機嫌よう、サフィアスさん。さ、どうぞ。今日は、せっかくですし空中庭園でお茶にしましょうか」

 さりげなく、人気(ひとけ)のない場所へとサフィアスを誘うミーアである。

 白月宮殿の屋上、少し張り出した場所にある空中庭園は、ミーアたち皇帝一族やその身の回りの世話をする者たち、そして、招かれた一部の客以外は、立ち入れない場所だった。

 じっくりと探りを入れるには、もってこいの場所と言えるだろう。

 ――念のために、人払いをしたうえで、ルードヴィッヒはそばに控えさせておりますし……。準備は万端。まずは、話を聞くのが大切ですわね。

 懸念点である、日記帳の記述の信ぴょう性について、できれば、はっきりさせておきたいミーアである。

 そうして、気合とやる気に満ち溢れたミーアが、着いて早々に放った一言が……。

「ふむ、まずは……紅茶とケーキで心を満たしましょうか……」

 いつでも揺らがぬ帝国の叡智の姿なのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何故だろうミーアの言葉がすべて空虚に聞こえる…w 地の文のツッコミがなくてもw
[良い点] 前半、どこぞの従者さんが聞いていたらこめかみに青筋立てていそうな発言の数々…。 [一言] しばらく前から「いいね!」ボタンが実装されましたが、本文を読んで、感想を書いて満足してしまうと、つ…
[一言] 聖女様とか辺土伯令嬢・植物学博士とかが料理について一家言あれば(必ずしも料理が得意である必要はないですよね、特に聖女様は調理させてもらえない立場でしょうし)、「ミーア様、食べ物で遊んではいけ…
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