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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第五十二話 ミーア姫はダンス上手!

 大きく息を吐き、思い切り吸って……。

 ミーアは東風に指示を出した。

「派手にやってやりますわよ、東風。蛍雷と慧馬さんに、負けないようにお願いいたしますわね」

 ミーアの声に、東風は、ぶるるーふと鼻を鳴らして答える。ミーアが手綱をキュッと短く持った瞬間、東風が静かに駆けだした。

 それほど急ぐ必要もない。ミーアは東風が作る心地よい三拍子に身を委ねつつ、会場に視線をやる。

 ――ふむ、どうやら、こちらに意識を誘導することには成功しているみたいですけど……。

 問題はこの後……。きちんと、演技が終えられるかどうかだ。視線を集めたうえで、失敗して途中で演技が止まってしまう、など赤っ恥もいいところである。

 アベルの前で、無様な真似は出来ぬ、と大いに気合が入るミーアである。

 そうして、まず、向かった先は、レッドムーン公の私兵団のすぐ前に置かれた障害物だ。その数は二つ。連続ジャンプをすることになる。

 不意に東風の足のペースが変わる。綺麗な四拍子。それに合わせ、ミーアは腕と膝を使いリズムを重ねる。

 障害物は、こうして見ると、なかなかに高い。されど、ミーアの心に恐れはない。

 ――変に怖がると、それが馬に伝わってしまいますし……。そもそも馬が怪我をしないよう、簡単に倒れる軽い障害物なわけですし……。

 実際にミーアも練習の時に持ち上げてみたが、ミーアでも持ち上げられるほどに軽く、また、もろく作ってある。仮にミーアが頭からぶつかっても、怪我をするようなものではないわけで……。

 ゆえに、ミーアはただただ、東風の動きにのみ集中する。

 ――集中ですわ。集中。どうせ、跳ぶのはわたくしではありませんし、ここは、東風に気持ちよく跳んでもらえるように、邪魔しないようにしなければなりませんわ。

 歩調の変化に合わせ、体を揺らす。それはさながら、波間に漂う海月のごとく……自然に東風に身を委ねる。

 近づく障害物を前に、ミーアはグッと鐙を踏み、体を前傾姿勢に。お尻が軽く浮いたところで、ぶわわっと東風の身体が飛んだ。

 東風の重心と自身のそれを完全に一致させつつ着地。膝と腰を使って、衝撃を殺しつつ、次の障害物へ。

 再びのジャンプ!

 その二度のジャンプは意外なことに、お手本のように美しいものだった。意外なことに!

 そうなのだ、昨今のミーアの乗馬の腕前は、かなりのレベルに到達しているのだ。

 もはや、小馬姫などと、小馬鹿にすることなどできない。ミーアはすでに小馬姫を越えた乗り手、いわゆる、超・小馬姫と呼んでも過言ではない実力を持っているのだ。スーパーポニプリミーアなのである。

 ……スーパープニプニミーアではない。念のため。

 そうして、二つ目の障害物を飛び越えたところで、驚くべき出来事が起きた。

 ミーアが……あの、海月式馬術の権威たる、あのミーアが……なんと、

「東風、そこで、ぐるり、ですわ!」

 自ら指示を出したのだ! それは実に画期的な光景だった。

 そうなのだ、乗馬に関して馬にすべてを委ねるミーアではあるのだが、ダンスに関しては話が変わってくる。なにしろ、ミーアの唯一と言っても良い特技がダンスなのだ。

 ミーアは、ダンスパートナーに心地よく躍らせる術はもちろん、自分たちのダンスを周りに魅せる術をも、フワッと感覚で理解しているのだ。

 レッドムーン私兵団の者たちに、自らの愛馬を紹介するように、小さな円を描いて一回転。それから、ゆっくりと、彼らの目の前を悠々と横切っていく。

 それを見て、レッドムーン私兵団の中からも、ほう! っと感心したようなため息がこぼれる。

 次に、ミーアと東風が向かったのは、皇女専属近衛隊のほうだった。

 ミーアが近づくにつれて、うおおおっ! と歓声のようなものが轟いた。皇女専属近衛隊の中でのミーアの人気は高いのだ。

「東風、そこで……」

 ミーアが声をかけると、東風の耳がぴくぴくっと動いた。ミーアが手綱を再び短く持って身構えると、東風は、ぶひひぃんっ! と高々と嘶き、前足を大きく上げた。

「おおおっ!」

 っと、歓声を上げる皇女専属近衛隊の面々。それに片手を上げて応えながら、

「いきますわよ。はいよー! とうふー!」

 ミーアの声に応え、東風が再び加速。障害物の前で、高々とジャンプ。着地。ジャンプっ!

 ふんぬっ! と気合を入れつつ両脚と腰でバランスを取り、ミーアは美しい姿勢を維持する。

 ダンスと名がつくもので、無様な真似はできない。

 ミーアにだって、意地がないわけではないのだ。一応は。

 無事に着地した東風にその場でもう一度、一回転させて、ミーアは手を挙げる。

「おおおおっ!」

 と、再びの歓声。

 それを聞き、ミーアはようやく自身の誤解に気が付いた。

 そうなのだ、ミーアは別に、自らの力で慧馬を上回る波を作り出す必要などなかったのだ。

 ――そうですわ。わたくしは……慧馬さんが作った波に上手く乗って、それなりにやり過ごせばよかったのですわ!

 今の観客は、慧馬によってとても盛り上がりやすい状態にされているのだ。そんなチョロい観客を熱狂させることなど、わけもないこと!

「さて、仕上げですわ。東風。しっかり、レッドムーン公の視線を惹いて差し上げますわ」

 馬首を翻し、目指すは、観覧席前に設置された障害物。

 今までと同じように、真っ直ぐに向かって駈け出した。

 そんなミーアたちの背中を押すように、風は……少しずつ、強さを増していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この追い風が吉と出るのかそれともスーパー大吉に化けるのか。 [一言] こうしてみると、ミーアって、ものすごくラッキーガールに見えるから不思議です。
[良い点] 皆様方〉バ···バカな······、き···きさまはポニプリミーアだろ!?     ち···ちがうのか···!? ミーア〉ちがうな·····わたくしは超(スーパー)ポニプリミーアだ!! […
[良い点] 軽い障害物と徐々に強さを増していく風……。 ここまでが出来過ぎなくらい順調ですからねえ。 前のレースみたいに拍子抜けするくらいあっさり終わって欲しいものですが、フラグがバキバキ立っている…
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