表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
744/1477

第四十八話 いよいよ、始まるメインレース

 ――ふむ、なにやら、寒気を感じましたけれど……。

 ミーアは、キョロキョロと辺りを見回した後、観覧席のほうに目を向けた。そこでは、皇帝マティアスとレッドムーン公マンサーナが楽しげに談笑していた。

 こう……肘を曲げて力こぶを作り、それを指さし、今度はバノスのほうを指さす。

 恐らく、バノスの強靭な肉体と強兵ぶりを二人で称えているのだろう。

 それは、ミーアとしては望むべき展開……のはずなのだが、なぜだろう。ミーアには、なんとも言えない嫌ぁな予感がまとわりついていた。

 ――いえ、まぁ、考えすぎですわね。うん。

 結局、競技は、バノスの圧勝に終わった。馬上剣術においても無類の強さを発揮したバノスは、レッドムーン私兵団の代表を圧倒。見事、皇女専属近衛隊隊長の面目躍如となったわけだ。

「まさか、バノスさんがあれほど強いとは……これは、意外な誤算でしたわね」

「ふっふっふ、誤算などではありませんよ。ミーアさま」

 見ると、ルヴィが得意げに鼻を膨らませていた。

「バノス隊長ならば、あのぐらい、簡単にやってのけます。片手でも楽勝だったはずです」

 片手で馬を操りながら剣を振るのは不可能なのでは……などと思わなくもないミーアだったが、口に出すような野暮はしない。恋する乙女に水を差すなど無粋極まるではないか。

 ニッコリ笑って、ミーアは言った。

「それは、とても心強いことですわ。まぁ、なんにせよ、レッドムーン公へのアピールは十分にできたはず……」

 そうして、満足そうに頷きながら、

「後は、ヒルデブラントが上手いこと餌に釣られてくれれば、我が計略なれり、ですわ。慧馬さん、頼みましたわよ」

 視線を転じた先、ちょうどタイミングよく、慧馬とヒルデブラントが登場した。

 二人の乗った見事な月兎馬に、会場内の空気が変わる。

「おお、あれは……」

「あれがレッドムーン公が誇る月兎馬『夕兎』か……。実に見事な毛並みだ」

「いや、しかし、ミーア姫殿下のご友人の乗る馬も素晴らしい馬だぞ。あのしなやかな後ろ足を見ろ。実に美しい……」

 ゴクリ、と喉を鳴らす、両陣営の兵士たち。

 その様子を見てミーアは察する。

 ――なるほど、騎馬王国だけでなく、我が帝国にも結構な数の馬好きがいるみたいですわね……。ゴルカさんとか一部の方だけかと思ってましたけど……。

 潜在的ウマニアの存在を発見するミーアである。

 ――ふむ……。これはもしや、ミーア学園で馬の研究を始めたら、興味を持つ方がいるのではないかしら? それに、場合によっては、協力を申し出てくる貴族もいるやもしれませんわね……。

 とかく学校経営にはお金がかかる。そして、若干、改善したとはいえ、未だに帝国の財政は厳しい。にもかかわらず、相変わらず無駄遣いをしやがる貴族はそれなりにいるわけで……。

 ――どうせお金を使いたいのなら、ミーア学園のために使わせるのがいいのですけど。その時には自分から喜んで出させるのが、さらによろしいですわ。ふむ……。

 そこで、馬である。

 馬の研究ならば、いろいろと役に立つし、将来的には、商売に繋がるかもしれない。

 ――馬を売るようなことは、騎馬王国の方々が好まないでしょうけれど……馬の怪我を治す方法の研究だとか、後は馬乳酒など、馬の乳を使った食べ物作りというのであれば……。それに、なにより良き馬を育てる技術であれば、むしろ興味を持つはず……。であれば……輸出も視野に……。

 ミーアはニンマリと頷く。

「なるほど。いけるかもしれませんわね。騎馬隊の強化にも繋がるでしょうし、輸送にだって馬は必要。なにより、なにかあった時に逃げるのは馬……。いいですわね、馬の研究!」

「ミーアさま? どうかされましたか?」

 不思議そうな顔で尋ねてくるルードヴィッヒに、ミーアは小さく首を振った。

「いいえ。なんでもありませんわ。ええと、ちなみに、あの二人の勝負は、何周勝負なんですの?」

「一周です。月兎馬の速さが映える距離なのではないかということでしたので……」

「なるほど。純粋な速さ勝負ということですわね」

 確かに、それは、月兎馬の勝負に相応しい。ミーアが、騎馬王国での馬合わせに勝てたのは、それが持久力勝負の長距離走だったからだ。山族の誇る月兎馬『落露』と純粋な速さ勝負をしていたら、きっとミーアは負けていただろう。

 ――東風は良い馬ですけど、向き不向きと言うものがございますものね……。

 そして、月兎馬の真価が現われるのは、やはり、この短距離走だろう。

 自慢の馬を披露するためだろう。慧馬とヒルデブラントは並んで、観覧席の前に行き、それから、両陣営の前をゆっくりと歩く。

 ちなみに、二人はどちらの陣営にも属さない。いわば、特別ゲスト扱いである。

 それゆえに、なんのしがらみもなく、両陣営の者たちは応援することができた。

 さて、二人が近づいてきたところで、ミーアは声を上げて応援する。

「慧馬さんっ! 頑張ってくださいまし! ヒルデブラントもほどほどに!」

 心からのエールを慧馬に、形ばかりのエールをヒルデブラントに送るミーア。

 それに応えて、騎手二人は笑みを浮かべて手を振った。

 ――ふむ、あの顔……。慧馬さんもやる気がみなぎっておりますわ。これは、一安心ですわね。

 ディオンを前に怯えていたのも今は昔。

 勝負に集中する慧馬を見て、一安心のミーアであったが……。

 彼女は気付いていなかった。すでに、危険な種が蒔かれていたということ……。

 慧馬の走り、そこに含まれる兆候。それをミーアが感じ取ったのは、スタートの合図が鳴って、少ししてのことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >>馬の研究ならば、いろいろと役に立つし、将来的には、商売に繋がるかもしれない。 各国で飼ってる馬のいいところを掛け合わせて最強の馬を作って所有してみませんか? それを専門に勉強する学科…
[一言] >片手で馬を操りながら剣を振るのは不可能なのでは……などと思わなくもないミーアだったが、 どちらもスタントマンか本人か覚えていませんが… 三船敏郎が疾走する馬上で手綱を放し両手持ちで槍…
[良い点] バノスそんなに強かったんですね あのディオン百人隊の副隊長を務めてたのは伊達じゃありませんね [一言] 馬の研究を考えるのは普通に有用でしょう ミーアさまが冴え渡っていますが実現したら思い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ