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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第四十一話 令嬢たち、動き出す

 さて、速駆け勝負三本と障害物レースが終わったところで、前半の競技は終了。いったん、小休止を入れようということになった。

「なるほど、あの障害物の飛び方はなかなかお見事……。勉強になりますわ」

 ホースダンスに向けて、障害物を飛び越える練習を積んできたミーアである。同じような動きが多い障害物レースは、実に参考になる部分が多かった。

 基本的に、騎馬王国民の乗馬技術も見知っているため、目が肥えているミーアであるが……そのミーアをも唸らせるだけの腕前を、兵士たちは披露していたのだ。

「特に、今の最後のジャンプはお見事でしたわね。流れるような動きでしたわ」

「ああ。とても見応えがあったね」

 そうして、隣で観戦するアベルと笑みを交わし合い……

「ああ、実に幸せですわ……」

 なぁんて、浸りかけるミーアだったが……不意に、そこで動きを止める。

 ――って、バノスさんのアピールをすっかり忘れてましたわ! 

 そう、ミーアが集中力(シリアスモード)を持続させ続けるには、アベルのそばは場所が悪かったのだ。

 ――というか、こうしていい勝負をして盛り上がるのは良いのですけど……マンサーナさまを感心させるという意味では……まったく足りてないですわ。

 視線を移せば、マンサーナは、確かに競馬に見入っている様子だったが、特に皇女専属近衛隊に感心している様子はない。

 つい先ほどまでルヴィとミーアで懸命に売り込みをしていたのだが(あの騎兵は、隊長が手ずから鍛えた人物で……とか、良い乗り手だけど、隊長には一歩及ばない、などと、割と露骨にアピールしているのだが……)、いまいち手応えがない。

 競馬に夢中のマンサーナである。

 ――やはりバノスさん自身の腕前で、注目させるしかありませんわね。まぁ、もともとそのつもりでしたし……とすると、ここは少し気合を入れに行ったほうがよろしいかしら……。

 っと、その時だった。

「ミーアさま、すみません。少し席を外します」

「あら、リーナさん、どちらへ?」

 尋ねると、シュトリナは、実に可憐な笑みを浮かべて、ミーアに耳打ちする。

「少し子どもたちのことが気になるので、見に行こうかなと思いまして……」

 子どもたち=ベル、と頭の中で翻訳して、ミーアは、ふむ、っと頷いた。

 ――お父さまの手前、前半は一緒に観戦して……その後で、こっそりと抜け出して、お友だちと一緒に見ようということですわね。

 星持ち公爵令嬢(エトワーリン)としての務めを果たしつつ、お友だちと遊ぶことを諦めない、その姿勢!

 ミーアは、そこに、シュトリナの矜持を見た気がした。

 ……まぁ、それはともかく。

「それならば、わたくしも、一緒に行きますわ。着替えをしなければなりませんし……」

 途中で、アンヌと合流し、さらにバノスを激励してこようと思い立つミーアである。が、それを聞いて、

「なにっ!? もう行ってしまうのか? もう少し、ここにいても良いのではないか?」

 ごね始めたのは皇帝であった。

 若干、ウザいですわ……などと感じるミーアであったが、それを口にしたりはしない。

 なにせ、今年の冬でミーアは十六歳。もう、立派なレディーなのだ。そのぐらい、大人の態度で、かるぅく流せるのだ。

 ……いや、だが、待ってほしい。

 ミーアは、過去に戻った時にすでに二十歳……立派なレディーだったような気がしないでもないが……。

 まぁ、そんな些細なことは置いておくとして、ミーアはシレッとした顔で、

「あら、お父さま。準備をしなければ、わたくし、ホースダンスに出られなくなってしまいますけれど、それでもよろしいのかしら?」

「ぐぬ……いや、だ、だが……それは、あまりに寂しい……ぐぬぬ……」

 皇帝は、悔しげに唸ってから……。ぽんっと手を叩いた。

「おお、そう言えば、あの子たちが一緒に来ているのでなかったか?」

「あの子たち、とは……? ええと、パティたちとベルでしたら、下におりますけれど……」

「なんと! それならば是非もなし。子どもたちをここへと呼んでやると良い」

「いや……でも、よろしいんですの? お父さま」

 仮にも大国の皇帝である。

 そんなに気安く素性の知れぬ者を呼んでも良いのか……? と尋ねれば……。

「素性の知れぬことはあるまい。ミーアが後見人を務める子どもたちなのであろう? であれば、それだけで十分だ」

「お父さま……」

 父の言葉、そこから窺える自身への信頼にミーアは、不覚にも、ちょっぴり感動しかけて……。

「そもそも、ミーアに顔が似ているとなれば、それだけでなにも言うことがない!」

 続く言葉に、ちょっぴりげんなりする。

 ――そうでしたわ。お父さまはベルの顔に、わたくしの面影があるからというだけで、甘やかす人でしたわ。

 そのうえ今は、母の面影を持つ少女パティ(本人だが……)もいる。

 ここに呼ぶことを躊躇う理由はなにもないのだろう。

「皇帝と子どもは高いところが好きというからな。きっと、ここに来たら喜ぶぞ」

 などと無邪気に笑う父。

 ミーアは、その横にいるもう一人の重鎮、レッドムーン公爵に目を向ける。が、彼のほうも穏やかな笑みを浮かべ、

「陛下が良いと言うものを、私がどうこう言うものではありませぬ。それに……やはり、馬はみなで楽しまなければっ!」

 後半は、なんだか、前のめりになるウマニアである。

 ウマニアってそこら中にいるんだなぁ、なんて感慨深く思うミーアであった。

 ふむ、と鼻を鳴らしてから、今度はシュトリナに目を向ける。

 もしかしたら、こういった緊張感のある場所ではなく、もっと気楽な場所でお友だちと観戦を楽しみたいのではないか、と危惧したのだが……。

「では、早速、不肖、このリーナが迎えに行ってきます」

 などとすまし顔で言った。

 ――そうですわね。よくよく考えたら、リーナさんは、皇帝の前であろうと、緊張なんかしそうにありませんし……。

 納得顔で頷いて、

「では、行ってまいりますわ。お父さま」

 ミーアは静かに踵を返す。っと、その時だった。

「お待ちください。ミーアさま。私も、ご一緒いたします」

 やおら、ルヴィが立ち上がり、キリリッとした顔で言った。

「おや、どうかしたのかね? ルヴィ」

 父の問いかけに、キビキビとした様子で振り返り、

「はい。副隊長として、出場する騎手たちを激励してこようと思いますので……」

「出場する騎手……」

 それを聞いて、マンサーナは得心したように頷いて、

「なるほど。それは大切なことだ。行ってきなさい。『彼』によろしくな」

 その『彼』というのが、バノスを指すのでないことは明らかだろう。

 恐らく、マンサーナは、ルヴィが婚約者となる予定の青年、ヒルデブラントの応援に行くと思ったのだろう。

 そのことを察したのか、ルヴィの顔がわずかに曇るも、

「わかりました。お父さまも、どうぞ、引き続き、お楽しみください。我が皇女専属近衛隊の雄姿を」

 そうして、ルヴィは静かにその場を去って行った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミーアは朝から着替えて乗馬服を着ていたのでは? 開会宣言あたりからドレスになっていますが・・・
[良い点] >>「皇帝と子どもは高いところが好きというからな。きっと、ここに来たら喜ぶぞ」 どんな格言だ(笑) 皇帝でも子供でもないけど高いところは大好きです。 [気になる点] 今日の内容ではなく書…
[良い点] ミーアパパはミーアさま関係になると本当に寛大になりますね 親バカ中の親バカ笑 [一言] マンサーナなかなか一筋では行かなそうですね というかルヴィが素直に言えばこちらも親バカなのでなんと…
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