表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
735/1477

第三十九話 意気上がる者たち……

 正直な話……。皇女専属近衛隊内において、今回の乗馬大会は、若干の違和感をもって受け止められていた。

 これまでの帝国の叡智の行動には、すべて確固たる理由が存在していた。

 最近忙しくしている食糧の護衛などは最たるもので、自分たちの仕事に極めて重大な意義を感じていた。それゆえに、忙しくてもなんの問題もなかったわけだが……。

今回の乗馬大会は、それとはいささか趣が違っていた。

 ある者たちは、労うために、肩の力を抜けるような、楽しめるようなイベントを用意してくれたのだ、と言っていたが……。

「まぁ、確かに、常に緊張感の高い任務ばかりでは息が詰まる。ここいらで、一息吐けるような、ちょっとしたレクリエーションを用意してくださろうという、そのお心が嬉しいではないか……」

 そのぐらいの感覚でいたのだ。

 競技に参加する者も、それは同様で……どちらかと言えば、ミーアが後半に言っていた、「怪我をせず楽しもうぜ!」という意識のほうが強かったのだ。が……。

「……みな、聞いたな。ミーア姫殿下のお言葉を」

「ああ……確かに……しかと聞いた」

 皇女専属近衛隊の者たちは、自らの陣営に戻って来るや否や、小声で囁き合った。

「ミーアさまは、我々を、誇りと言われた。ご自分の、帝国の叡智の、剣にして、盾と……言ってくださった……」

 その言葉に、誇らしくも胸を張るのは、元近衛隊の者たちだ。

 忠義に厚い彼らにとって、ミーアの言葉は、なによりも誇らしいものだった。

 対して、元ディオン隊の者たちの反応は違っていた。

「レッドムーン公の軍に勝てと、おっしゃるか。なるほど、さすがはミーア姫殿下。言うことが違う」

 百戦錬磨のディオン隊の者たちにとっても、レッドムーン公の軍は、紛れもない精鋭部隊だ。剣や弓の腕のみならず、その乗馬技術も超一級品で……けれど、皇女ミーアは、そんな強敵に立ち向かい、勝てと言う。

 あなたたちならば勝てるのだ、と……堂々と言う。

 かのディオン・アライアに鍛えられし兵が……どこかの潰えた未来で、年老いた身なれど、聖女の軍に一泡吹かせた男たちが……、そのようなことを言われたら、どうなるのか……。

「さすがは、ミーア姫殿下。実に愉快なことをおっしゃる。ならば、その命令、達成しないわけにはいかないな……」

「当たり前だ。いちいち口にするまでもない」

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる男たち。その士気は、天井知らずに上がっていく。

「我らにこのような見せ場を用意してくださった。ミーアさまのお心遣いに応えるためにも、お前ら、気張れよ」

 そんな檄を受けるのは、代表として選ばれた騎手たちだ。

「おうっ! 任せておけ」

 仲間たちの声援を背に、騎手たちは自らの馬のもとに向かって走って行った。


 一方でレッドムーン公の私兵団の方も、意気上がっていた。

 なにしろ皇女専属近衛隊に、大切なルヴィお嬢さまを筆頭に、複数の女性兵を引き抜かれた彼らである。

 いかに、皇女ミーアの近衛隊に……とは言え、微妙に納得のいかないモヤモヤを抱えていたのだ。

「これは、意趣返しの良い機会だ。さすがに、正面から戦を仕掛けるわけにもいかなかったところを……まさか、あちらの方から、このような場を設けてくださるとは思わなんだ。ミーア姫殿下の前で、奴らに恥をかいてもらうとしよう」

「そうですな。先ほどの姫殿下の演説も、いささか聞き捨てなりませんでしたし。騎馬の扱いにて、我らを負かせとは……」

 レッドムーン公爵家の兵たちは、自分たちの軍を誇りに思っている。ミーアが口にした帝国最強というお世辞を、彼らは、ごく自然に受け入れていた。

 そう、自分たちこそが帝国の最精鋭。姫のそばにはべる近衛などに、負けるはずもなし。

 にもかかわらず、先ほど、ミーアは言ったのだ。

 皇女専属近衛隊に「勝て」と……。

 そのせいで、彼らのプライドはいたく傷ついたのだ。

「我らは帝国臣民として、ミーア姫殿下を敬愛している。ゆえに……、姫殿下の不見識を放置してはおけぬ。このまま放置しては姫殿下の恥となろう。ここは、ご見識を改めていただくべく、一肌脱ごうではないか。なぁ、諸君?」

 リーダー格の男の声に、おおうっ! っと気合の声を返す面々である。


 さて、意気上がる両陣営を遠目に見て、ミーアは、うんうん、っと満足げに頷いた。

 ――双方、共にやる気十分ですわね。あれだけ気合が入っているのですし、きっとレッドムーン公にもご満足いただけますわ。迫力が違いますもの……。

 そうして、待つことしばし。

 第一試合が始まる。最初は、単純な速さ勝負だ。

「ちなみに、レッドムーン家では、馬はどのように揃えておりますの?」

 ふと気になって聞いてみると……。

「大部分は、テールトルテュエ種ですな。あとは、血を混ぜた種類もおりますが……しかし、だいたいは、テールトルテュエ種で統一しております」

 帝国が誇るワークホース、テールトルテュエ。速さは月兎馬に譲るものの。絶対的な安定性とタフネスには定評がある馬である。

「ほう、テールトルテュエ……東風と同じ種類ですわね……。となると、馬の差はほとんどなく、純粋に乗り手の技術が問われそうですわね」

 なにやら、解説家めいた偉そうなことをつぶやいてから、ミーアは、ふん、っと腕組みするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あの開会宣言でどいつもこいつも曲解が過ぎる(笑) ミーアが望むと望まざるにも拘わず"ガチ"の勝負になってしまうようですね。 そういうわけでミーアは"炎上系皇女"の称号を手に入れた! も…
[良い点] ミーアさまの演説はなぜここまで周りの士気を高めてしまうんでしょうかね しかもミーアさまの意図せぬ方向にw [一言] 言われてみればレッドムーン公の軍は華が奪われてしまったんですね その不満…
[気になる点] ヒルデブラントはレッドムーン私兵団側として参加するですか? そうなると、ヒルデブラントはレッドムーン私兵団の団員達と仲間になって、レッドムーン家のお婿さんとして認められると……何がやば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ