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ティアムーン帝国物語 ~断頭台から始まる、姫の転生逆転ストーリー~  作者: 餅月望
第六部 馬夏(まなつ)の青星夜(よ)の満月夢(ゆめ)
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第十話 ベル……油断する!

 唐突に匂い立った危険の香りに、ミーアはゴクリ、と喉を鳴らす。

 ミーアの直感が厳かに告げていた。これは極めて危険な状況であると。

 一方で、ベルもまた、ゴクリゴクリ、と喉を鳴らしていた。

 こちらは、説明を終えて「ふぅ、一仕事終えたぞう」などと、紅茶をゴクリの、お茶菓子をゴクリである。

 今日のお茶菓子は、ガルヴに合わせて、ちょっぴり甘さ控えめの、渋めのチョイスとなっていたが……ベルは、まったく気にしない。

 普段から、シュトリナやミーア、アンヌにルードヴィッヒなど、年長者を相手にお茶を嗜むことが多いため、しぶーいお菓子の楽しみ方をも知っているベルである。

 そうして、ベルがお茶とお茶菓子に舌鼓を打ち……ああ、リーナちゃんや、ミーアお祖母さま、お元気かな……? このお茶菓子、美味しいな! などと完全に油断していたところで……。

「しかし……そうなってくると、別の疑問も生まれますね」

 ルードヴィッヒの声が響く。

「別の疑問……? というと?」

 深刻そうな顔をするミーアを横目に、優雅(=のんき)にお茶の香りを楽しんでいたベルだったから……。

「無論、ベルさまのことです」

「はぇっ……?」

 突如として飛んできた流れ矢に見事に刺し貫かれた。かふっと息を吐きつつ、ベルは慌てた様子で……。

「え? え……えっと? ボク……ですか? えっと、なんのことでしょうか?」

 パチパチと瞳を瞬かせて戸惑う彼女にルードヴィッヒは静かに頷き……。

「もし仮に、パトリシアさまの時間移動に『理由』があるのなら……ベルさまもまた、なにか理由があって飛ばされてきたのではないか、ということです」

 もしも、ミーアが歴史という湖面に投げ込まれた石のようなものであり、ベルがここにやってきたのは、その余波を受けてのものであったなら……。ベルがこの時代に来たことに、意味はない。

 されど、もしも、パティのように……。ミーアという『果』が『因』であるパティを引き寄せたというのなら、ミーアという『因』が何らかの理由で、ベルという『果』を引き寄せた可能性もあって……。

「パトリシアさまだけ、因果を理由に時間移動したというのも理屈に合わぬ話。とすれば、パトリシアさま同様に、ベルさまにもなにか、成し遂げるべきことがあると考えるのが道理というもの……」

「え? いえ、ボクは、その……えっと、み、ミーアお祖母さまの政治手腕を学ぶためとか……なんとか……」

 ルードヴィッヒは、自らの顎をさすりながら、小さく唸る。

「確かに、ミーアさまの手腕を身近で見ることは、統治者にとって得難い経験となるでしょうが……」

「そうじゃな。確かにミーアさまのお姿を、すぐ間近で見られるのは、将来の統治者として極めて重要。そのために過去にきたというのであれば、一定の説得力がありそうじゃが……」

 などと、ガルヴまでもが言い出した!

「いや、さすがに、その程度のことで時間移動なんかされたら、たまりませんわ」

 誰もツッコミを入れず、ただ一人、ミーアのみがツッコミを入れるという異常事態である! が……。

「まぁ、そういうこと、でしょうな。あるいは、ベルさまの言う通りなのかもしれませんが……もしも違った場合には取り返しがつかなくなる。ならば、やはり、ベルさまがやってきた特別な理由があると考えておくべきでしょうな」

 そんなガルヴの言葉を聞いて、う、ううう、っと呻くベル。

 本格的に休日が終わってしまいそうなことにショックを受けた様子のベル。がっくりと落ちた肩に、ミーアは、ぽむんっと手を置いた。

「ベル……。人間、諦めが重要ですわよ」

「うう……やっぱり、終わってしまったのですね……ボクのお休み……」

 そうして、ベルは切なげなため息を吐いた。のだけど……。

「わかりました。ボクもなにか、すべきことがあるんじゃないかって、考えてみます。それで、手っ取り早く片付ければ……」

 切り替えの早さは、ミーア譲りなベルであった。

「まぁ、いずれにせよ、我々の考えが合っているという保証もございませんが……」

「いえ、ガルヴさんとルードヴィッヒ、お二人の考え以上のものはないと、わたくしも思いますわ」

 ミーアは、そう断言する。

「おそらく、このことは、なにが正解か答えを出すのが困難なことのはず。であれば、わたくしは選ばなければならない。なにを信じるのか、どの考えに従って行動していくのか……。わたくしは、信頼する忠臣と、我が帝国が誇る最高の頭脳が導き出した考えを採用いたしますわ」

 自分を信じるか? それともルードヴィッヒを信じるか? と問われれば、迷うことなくルードヴィッヒを選ぶミーアである。

 まして、今回は彼の師であるガルヴの助力もあったのだ。信じない理由はどこにもない。

 ――となると、パティの存在は極めて重要ですわ。

 ミーアは大きく頷いてから、ルードヴィッヒに目を向けた。

「ルードヴィッヒ、申し訳ありませんけれど、秘密裏にクラウジウス家の情報を集めていただきたいですわ」

「クラウジウス……パトリシアさまのご実家ですね」

「ええ。パティが蛇に傾倒する理由を、なんとしても知る必要がありますわ。それに、やはり、パティを早急にここに連れてくる必要がございますわね」

 ミーアの行動は迅速を極めた。

 即座に、アンヌの家へと使いの者を走らせつつ、パティの受け入れ準備を始める。

「ふむ……パティ一人だと目立ってしまいますし、ここはヤナとキリルと、三人一組ぐらいの扱いがベスト。ともかく、目立たないようにしなければ……」

 本当であれば、ヤナたちは、アンヌの家のほうが落ち着くのだろうけれど、この際は仕方ない。

「料理長のスイーツ三昧で埋め合わせするとして……。あとは、なんといっても、パティのこれからのこと、ですわね……。ふぅむ……」

 それからミーアは、腕組みして考える。

 ――こうなっては仕方ありませんわ。わたくしが直々にパティの教育を手掛けなければ……。

 鼻息荒く、パティを待ち構えるミーアであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >>突如として飛んできた流れ矢に見事に刺し貫かれた。 よほど矢に縁があるようで…。 >>誰もツッコミを入れず、ただ一人、ミーアのみがツッコミを入れるという異常事態である! 自分が首を…
[気になる点] >誰もツッコミを入れず、ただ一人、ミーアのみがツッコミを入れるという異常事態である! >おそらく、このことは、なにが正解か答えを出すのが困難なことのはず。であれば、わたくしは選ばなけれ…
[良い点] ベルも何か為すべきことがありそうな点 [気になる点] 何となく、パティに必要なのは愛情と母性な気がする点。むしろ拠点はアンヌ宅のがいいんではないか…?
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