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第五十六話 やじうm……eい探偵ベル、尾行する!

 ベルとシュトリナの尾行が始まった。

 スタスタと急ぎ足で廊下を歩くユリウス。その後ろを、音もなく二人の少女がつけていく。廊下に人通りはない。ゆえに見つからぬよう、ある程度の距離を開けての尾行になった。

「ベルちゃん、こっち」

 声を押し殺したシュトリナの指示。それに従って、ベルはとっとこ小走りに進む。

 ――なんだか、リーナちゃん、すごく慣れてる……。

 足音を消し、シュシュっと物陰から物陰へ移動するシュトリナに、ベルは尊敬の目を向けていた。

 ――さっき普通の女の子だったら城壁とか乗り越えられなさそうとか言ってたけど、でも、リーナちゃんなら、もしかしたらできちゃうかも……?

 あるいは、その途中で手を滑らして落っこちてしまって、それを、夫となるアノ人に受け止めてもらって……。それで、頬を赤くしながら見つめあったりなんかして……。

 などと、ちょっぴり妄想して、ニマニマしているベル。そんなベルにシュトリナはキョトンとした顔で首を傾げた。

「どうかしたの? ベルちゃん。何か、楽しいことでもあった?」

「え? あ、ううん。なんでもありません。それにしても、ユリウス先生、どこに行くつもりなんでしょうね?」

 あはは、と笑って誤魔化して、ベルはユリウスへと視線を戻した。彼が向かうほう、教室棟を抜けた先には人気(ひとけ)のない廊下が続く。

 そういえば、この先には行ったことないな、とベルは思い出す。

 以前、この世界に来たばかりの時、学園内にしばらく潜伏していたベルであるのだが、基本的に食べ物がある食堂を中心に移動していたため、こちらには来たことがなかったのだ。

「……あんまり人もいないし、まさか、本当に火をつけるつもりだったりは……」

「ああ、それは大丈夫。この先には特に燃え広がるようなものもないし、一応、よく燃えそうなところは、ラフィーナさまに話して対処してもらってるから」

 ニコニコ、得意げな顔で言うシュトリナ。ベルとは違い、すでにこの先もチェック済のようだった。すでに、燃えやすいところも、きちんと隅々までケアしてあるらしい。

「さすがはリーナちゃん」

 などと言いつつ、それを調べてなにをするつもりだったんだろう……? などと、わずかばかり疑問を覚えるベルであった。

「あれ……?」

 けれど、次の瞬間には、その興味は別のものへと移る。

 祖母の『馬好きの血』を継いだベルの胸には、荒々しい『野次馬』が棲んでいるのだ!

 その血に促されるままに、ベルは視線を転じ……首を傾げる。

「あれ? ユリウス先生が、いない……?」

 彼の後を追い、二人が入っていったのは古いホールだった。新入生歓迎ダンスパーティーが開かれたホールよりは、一回り小さくて、若干、ほこり臭い。

 今は物置代わりに使われているのか、古びた聖餐卓や、壊れた机などが乱雑に置かれている。

 ――どこかに、隠れてるっていうことは……?

 などと思いはしたものの、隠れられそうな場所はあまりない。物置とはいえ室内は整理されていて、物陰といえるような場所は二、三箇所。そこもすぐに確認できてしまって、ユリウスの不在がはっきりする。

「ねぇ、ベルちゃん、ここ、怪しくない?」

 その時だった。眉間にしわを寄せたシュトリナが、ある一点を指さした。

 そこは壁。ラフィーナの巨大な肖像画が飾られた、壁だった。

「うわぁ、大きいですね!」

 肖像画を見上げて、ベルは思わず、ぽかーんっと口を開けた。

 ほとんどラフィーナの身長の倍はありそうな、巨大な肖像画だった。

「……こんなに立派なラフィーナさまの肖像画を、わざわざこんな物置みたいなところにかけてあるなんて、すごく怪しい」

 むむむ、っと唸って主張するシュトリナだったが、ベルには別の見解があった。

 ――ラフィーナおばさま、自分の肖像画が好きじゃないからなぁ。

 いつも、ものすごーく憂鬱そうに、自分の肖像画にサインしてたっけ……などと思い出すベルである。

 しかも、そこに飾ってあったのは実にド派手な肖像画だった。背中の白い翼を広げて(ラフィーナの背中に翼が生えているのはデフォである)宙を舞うラフィーナ。その周囲には輝く宝石のような星空が散らばり、彼女を美しく彩っていた。

 輝く星座は、聖女にかしずく従者のごとく、ラフィーナの足を飾り、その長い髪を美しい三日月が彩っていた。

 ただ一点、どこか遠くを眺める瞳は、いまいち生気というか、やる気がなく……。実に巧みに、モデルと描き手の心理の温度差を表した絵であった。

 ――この脚色は、さすがに少しきついかも……。表には出しておきたくないかもしれない。

 お調子者のベルですら、そう思うのだ。こんな風に、倉庫代わりの部屋にポツンとかけてあっても、不思議はないような気がするのだが……。

 そうこうしている間にも、シュトリナは肖像画の周りを見回して、怪しいところを探していた……。が、やがてなにを思ったのか、やにわにその額縁を両手でつかみ、ガコッと外してしまった。

「あぶないっ!」

 よろよろっとバランスを崩しそうになっているシュトリナ。ベルは慌てて手伝いに走る。そうして、えっちらおっちら、二人で肖像画を外すと……そこから現れたのは……。

「あっ! すごい!」

 思わず、ベルは目を真ん丸にする。

 肖像画に隠されていた壁の部分には四角い穴が開いていて、その先には狭い階段が続いていた。

「隠し階段ね。額がズレた跡があったから、なにかと思ったんだけど……」

 どうやら、シュトリナも半信半疑で外したらしい。その顔には驚きの色が見て取れた。

「ユリウス先生は、この先でしょうか?」

 上のほうを覗いてみるが、階段はらせん状に登っていて、上のほうまでは見通せなかった。

「ほかに隠れられそうな場所はありませんし……とりあえず、入ってみようか? セントノエルにそこまで危険な場所があるとも思えないですし」

 そう言うと、ベルはゆっくりと壁の穴を潜り抜けた。

「あっ、待って。ベルちゃん。リーナが先に行くから」

 後からシュトリナが追いかけてきて、横に並ぶ。

「あれ? リーナちゃん、あの肖像画はもとに戻さないんですか?」

 ふと振り返り、ベルが首を傾げた。

「うん……。一応、なにか起きた時のためにね。あのままにしたら、誰か気が付いてくれるかもしれないし。でも……」

 っと、そこで、シュトリナは可憐な笑みを浮かべた。

「多分、大丈夫だと思うけど……。見張りがいなかったから」

「え……?」

「ううん、なんでも。さ、行きましょう」

 そうして、二人は階段を登り始めた。

「でも、ここってなんなんでしょう? 学校にこんなところがあるなんて……」

 きょろきょろ、あたりを見回しながら、ベルが言う。と、シュトリナは小さく頷いて、

「気付いてた? ベルちゃん。入り口のところ、開いてたけど鉄格子付きの扉があったの……。あ、ほら、そこの窓にも……」

 シュトリナが指さす先、明り取りの窓が口を開けていた。そこには、頑丈そうな鉄格子が嵌められている。

「もしかすると、ここって、誰かを閉じ込めておくための場所なんじゃないかな」

「閉じこめて……あっ、あれ……」

 やがて二人の目に、重厚そうな扉が飛び込んできた。中を監視するためだろうか? 鉄格子の付いた小窓が付いた扉だった。

 部屋の中はまだ見えないが……中からは人の気配がする。

「やっぱり、誰かが閉じ込められてる……? あっ!?」

 扉に歩み寄ろうとしたベルは、突如、物陰から現れた影に腕を掴まれ、そのまま、後ろ手に拘束されてしまう。

「ベルちゃんっ!?」

 驚いた顔でシュトリナが駆け寄ろうとするが、その足が止まる。その視線は、ベルの後方に縫い留められていた。

「やれやれ、ラフィーナさまの手の者かと思いましたが、あなたたちでしたか……」

 しっかりとベルの腕を掴まえた男。優しげな笑みを浮かべたその男は……。

「ユリウス先生……どうして」

 ベルの問いかけに、ユリウスは困り顔で肩をすくめた。

「それは……」

「あらあら、ずいぶんと騒がしいですね……」

 突然の声……それは、ベルたちが覗こうとした部屋から聞こえてきた。

 次の瞬間、扉の上のほうに開いた小窓にピタリ……と、女の顔が張り付いた。

 その目が、ぎょろり、ぎょろり、と周りを見回して……。シュトリナを確認したところで、歓喜の色を浮かべる。

「おや、これは、シュトリナお嬢さま。ご無沙汰しております」

 閉じ込められていた女……バルバラがニコリと歪んだ笑みを浮かべて、そこに佇んでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] サブタイトル上手いですね。 自分なら、庵野監督風な「メイ探偵」くらいで。 メイタンテイ「ミーアですわ」 umeい探偵「ベルったら、お腹がすきました。ヒヒーン」 迷探偵「そうか、わかったぞ…
[一言] ユリウス先生がバルバラと関係が深いならまさか血e
[良い点] >――なんだか、リーナちゃん、すごく慣れてる…… レオタード着た猫目の三姉妹が知り合いにいるのかもしれませんね。 >ああ、それは大丈夫。この先には特に燃え広がるようなものもないし、一応…
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