第二十四話 帝国のえーちの考えた、最強の生徒会!
「ご機嫌よう、みなさん」
生徒会室に入ると、すでにメンバーは揃っていた。
「ああ、来たか。ミーア」
立ち上がり、ミーアを迎えたのは、副会長のシオンだった。高等部に上がった彼は、すっかり背が伸び、ミーアを見下ろすほどになっていた。
その爽やかで精悍な顔つきは、相変わらず女子生徒の人気を集めているようだったが……。未だに、彼のハートを射止める者はいなかった。
「昨日は大変だったみたいだな。怪我がなくてなによりだ」
「ええ。アベルが来てくれましたから」
ミーアの言を受けて、アベルは真面目腐った顔で頷き、
「君との鍛練のおかげもあって、無事に助けることができたよ」
「それはよかった。しかし、互いに剣術の鍛練に手は抜けないな。大切な者を守るために」
などと、握手をする二人の王子。アツイ男の友情を眺めやりつつも、ミーアは他の生徒会メンバーに目を移した。
テーブルにつき、四人の少女たちが談笑していた。
副会長のラフィーナ、その隣には会計のクロエと書記のティオーナが並んでいる。
そこまでは以前までと同じメンバーだが、後の一人は……。
「お疲れさまです。ミーアさま」
「ああ、ラーニャさん。ご機嫌よう。ふむ……今日のお茶菓子はペルージャン産のものかしら?」
「はい。今日は、カッティーラを持ってきました」
朗らかな笑みを浮かべるのは、ラーニャ・タフリーフ・ペルージャン。農業国の第三王女である。
卒業したサフィアスの代わりに書記補として、ミーアが指名したのはラーニャであった。
その人選は一部の者たちから『皇女ミーアのお友だち生徒会』などと揶揄されているらしく……、それをもとにミーアを批判しようという者がセントノエルにも帝国内部にもいるらしいのだが……ミーアは一顧だにしなかった。
自信があったのだ。これこそが、ミーアの考える最強の生徒会である、と。これ以上の陣容は、ミーアとしては考えられなかった。
その理由はとても簡単で……大飢饉がやってきたからだ。
いや、より正確に言うならば、大飢饉へと繋がりうる時期がやってきたというべきだろうか。昨年の収穫は、その前年に比較して恐ろしいほどに減っていた。そもそもその前の年より徐々に収穫高が減ってきているから、状況は極めて深刻だ。
下手な手を打てば餓死者が続出し、一挙に大飢饉の悲劇を招きかねないこの状況。数年間に渡る農作物の不作という時期にあって、農業国の姫たるラーニャの話を聞かないことはあり得ない。
周りを専門家で固めてこそ、自らはイエスマンでいられる。その信念のもと、ミーアは今回の生徒会メンバーを選んだのだ。
農作物の事情がよくわかっているラーニャと、帝国貴族の中で大きな農業地帯を保有するルドルフォン辺土伯令嬢のティオーナがいる。さらに流通の事情通である、商人の娘クロエもいる。この三人は、今後の情勢の中で最重要の役員といえるだろう。
そして、同じ理由から、ミーアもまた会長の地位から降りられずにいた。
今こそ、パン・ケーキ宣言の真価が問われる時。
そのような状況にあって、ミーアが生徒会長を外れるわけにはいかなかったのだ。
だからこそ、ラフィーナは、生徒会長選に出ることを辞退し、ミーアへの推薦を表明している。生徒会長選挙に立候補するのは誰でも可能ではあるが、空気を読まずにミーアに盾突く者は一人もいなかった。
では、ミーアは公約を出す必要がないのだろうか?
対立候補なし、争うこともなく、すんなりと生徒会長になっても良いものだろうか?
答えは否である。
選挙が行われないからこそ、ミーアは証明しなければならないのだ。
自身が生徒会長に相応しいと。選挙をするまでもなく相応しいのだと……証明しなければならないのだ。
――なんだか条件が選挙をするとき以上に厳しいような気がしますけれど……。
などと思わなくもないミーアであるが、ともかく、ここしばらくのミーアは選挙公約作りに勤しんでいた。それはこの場に集うみなが知っていることだった。なので、
「それで、ミーア、今日の用向きはなにかな? 今度の生徒会長選挙のことか?」
シオンはそう首を傾げた後、
「それとも、例の蛇の……?」
わずかばかり眉をひそめた。
シオンは、あの巫女姫との最終決戦の場にいなかった。それゆえにどこか煮え切らない思いを抱えている様子だった。それは、彼の従者キースウッドも、ティオーナとリオラも同様だった。
一方で、蛇、という言葉を聞いた時、ラーニャも顔をしかめていた。
すでにラーニャには、蛇のことを知らせている。帝国の反農思想に蛇が関係していると知って、ラーニャはたいそう憤っていたものだった。
――農業国の姫として、肥沃なる三日月地帯を汚すという思想は、理解できないのでしょうね。
そんなラーニャを眺めながら、ミーアは小さくため息を吐く。
ちなみに、ラーニャの怒りが初代皇帝でなく、混沌の蛇へと向いているのは、ミーアの巧みな誘導によるものだった。とりあえず、ヤバそうなことは蛇に責任を押し付ける方針のミーアである。
まぁ、実際、無関係じゃないので、それはいいとして……。
「そうですわね。とりあえず、どちらでもあると言えるのですけれど……その前に、みなさんにご挨拶したい者がおりますの……」
と、そこでタイミングよく、ドアがノックされた。
「ああ。来ましたわね。どうぞ、入って」
その声に応えるようにドアが開き、そして、
「失礼いたします」
響いた声に、ひときわ驚いた様子だったのは言うまでもなくアベルだった。