真エピローグ ふっ、増えてる!?
シリアスは前話で燃え尽きました。
最後の輝きだったのです。
それでも良いのでしたら続きをどうぞ。
「……ん……ぁ。ふああ、寝すぎましたわね……」
いつの間に寝ていたのだろうか……。ミーアは図書室の机に突っ伏していた。
ふぁわわ……っと大きなあくびを一つ。そして、ミーアは異変に気付いた。
なんだろう……? 辺りが、少しばかり明るいような……?
寝すぎて、辺りが夕闇に包まれていたということならばわかる。でも、逆に明るいというのは、いったいどういうことなのか?
ぼんやーりと辺りを見回したミーアは……瞬時に覚醒する。
その光源、その黄金の光が、本棚の一角から放たれていることに気付いて……。
「なっ、あっ、あれは……まさか!」
震える声でつぶやきつつ、恐る恐る、ミーアはそこへと向かう。
期待などはしない。
そんな奇跡、そうそう起こるはずがない。
けれど……こうも言える。二度ある奇跡は、三度ある。
ミーアはうとうとする前のことを思い出した。
状況は似ている! あの時と……酷似していた。
ミーアはあの時、導を求めて、結果としてベルが現れた。
今、またミーアは求めていた。
導と……そして、シュトリナを立ち直らせるきっかけを。
その答えとして与えられるのは、“彼女”以外に考えられなくって……。
でも、そんなことが、本当に起こるだろうか?
信じたいという気持ちと、期待して裏切られるのが怖いという気持ち……二つの感情の間で揺れるミーアの複雑な心境……などは一切慮ることなく、黄金の光はあっさりと人の形をとろうとしていた。
懐かしい、あの……少女の姿を。
腰の辺りまで伸びた白金色の髪、好奇心に輝くクリクリとした碧眼と、どこかミーアに似た顔……。
呆然と、ミーアが見つめる前、光の中から現れたベルは、辺りをキョロキョロ見回して……。
「あっ! ミーアお祖母さまっ!」
ミーアのほうを見て、ニコニコと輝くような笑みを浮かべる。
「お久しぶりです。ミーアお祖母さま……いえ、ミーアお姉さま」
それから、ドレスのスカートの裾をちょこん、と持ち上げる。その仕草に、どことなく、姫の気品のようなものを感じてしまって……ミーアは驚愕に、口をあんぐり開ける。
「ベル……、あなた、本当にベルなんですの? 元気なんですの?」
あまりにも突然のことに、ミーアは混乱してしまう。
前の時には、ベルは、壊滅した帝都からやってきたはずだ。自身の命を狙う追手から逃げている途中だったと聞かされていたが……。
どうやら、目の前のベルは、そこまで、酷い状況にはないらしい。着ている服は、しっかりとした仕立てのものだし、なにより、その所作には、帝国皇女の気品が感じられた。
「おかげさまで。ミーアお姉さまが頑張ってくれたおかげで、帝国は安定しています。ボクもお母さまたちと、とても幸せに暮らしています」
ニッコリと笑みを浮かべて、ベルは言った。
「ミーアお姉さまが、約束を守ってくれましたから。ボクの夢を終わらせないって……頑張って、くださいましたから」
その言葉に、ミーアは、ほうっとため息を吐いた。
「そう。それならば、良かったですけれど……では、どうしてここに?」
「あ、はい。それはえっと、ルードヴィッヒ先生によるとミーアお祖母さまのせいで……。あ、悪い意味ではないんですけど……」
「わたくしのせい? ルードヴィッヒがそう言ったんですの? それはいったい……うん?」
っと、ミーアは、そこで違和感を覚える。
それはベルに……ではなく、その後ろの空間に対してのものだった。
ベルが出てきた黄金の光は、消えることなく未だに輝きを放ち続けていた。
目を凝らす、っとなにやら、その光から謎の影が……蠢きだしてきて……っ!
「ひぃっ!」
思わず息を呑んだミーア。その視線の先に現れたのは――幼い少女だった。
まだ、十歳には満たないだろう。その少女は、ミーアの顔を見て、きょとりんと首を傾げた。
東方の国の伝統人形のような、丸いシルエットを描く短い髪。真っ直ぐに切りそろえられた前髪、その色は、ミーアと同じ白金色だった。長いまつ毛に飾られたその瞳も、ミーアやベルと同じ青い色、その顔の雰囲気もどこか、ベルに似ているように見えて……。
「…………っ!? ふっ、増えてるっ!?」
ミーア、思わずツッコミを入れる! 大変珍しいことであるが、気持ちはわからないでもなかった。
なにしろ、ベルが現れるのは、まだ予想の範囲内と言えるのだが……、さすがにもう一人、別の子がついてくるのは想定外だった。
「ベル、その子は……、いったい……」
あまりに唐突な展開に、瞳をぐるぐるさせつつ混乱するミーアだったが、すぐにぽこんっと手を打った。
「ははあん……もしかすると、あれですのね? つまりは、やっぱりまた未来でなにかあって、その子は……ベルの妹とか? あるいは、親戚とか、ともかく、トラブルから逃れて来た子ですわね?」
ミーアとて、だてにこの半年間、頑張ってきていない。ベルがいなくなって以来、ミーアは頑張って、その叡智(仮称)を酷使してきたのだ。スイーツを燃料に、フル稼働させてきたのだ。
目の前の状況から、何が起きたのか、推論を立てることなど造作もないことなのである。
そうして、ミーアは推論を展開する。
「そのトラブルの原因が、今の時代にあって、だからそれをなんとかするために、こうしてやってきたとか? 当たってますかしら?」
どうだ! と言わんばかりに胸を張り、推理を告げるミーア。対して、ベルは……。
「この子は……」
とても真面目な顔で、ミーアを見つめて……、それから傍らに立つ少女のほうに目を向けて……。
「この子、は……」
こくん、と喉を鳴らし……そしてっ!
「……えーと、誰なんでしょうか?」
きょっとーんと首を傾げてみせた。
「…………はぇ?」
かくて、孫と祖母の物語は再び動き出す。
To be コンティニュー「第五部 皇女の休日」
泉に落としたベルが、綺麗なベルになって戻ってきて、
さらにもう一人小さいのがついてきました……という。
……えー、ということで、シリアスは前話で燃え尽きました。
第五部は、一週間、間を開けてのスタートにする予定です。それでは!




