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第二百十九話 油断大敵 ~ミーア姫、少々昂ぶる~

「ううん、ちょっぴり疲れましたわね……」

 午後からのルードヴィッヒらとの話し合いを終えた頃には、辺りはすでに暗くなりかけていた、

 ミーアは、宿泊地として借り受けた族長の家に戻ってきた。今は、慧馬が一人で使っているという家は、他の村人のものと比べて、大きなつくりになっていた。

 慧馬は、あれで、さっぱりした性格だから、部屋の中にも物は少なく、きちんと整理されていて……だからだろうか、わずかに物寂しさを感じてしまう。

 ベルとアンヌが、水浴びのため少し席を外している今となってはなおのこと、そう思ってしまって……。

「ここに一人は、少し寂しいですわね。もともとは、お兄さまと二人で暮らしていたのだとすれば、余計に……」

 ミーアは思わず、ため息を吐いた。

「狼使い、火馬駆(カ・マク)。上手いこと連れ戻すことができればよろしいのですけど……うーん。慧馬さんの話にも耳を傾けなかったら、どう説得したものかしら?」

 狼使いごと戦士たちを連れ戻すことができれば、残るは巫女姫ヴァレンティナのみ。ほかに護衛が数人いたとしても恐るるに足らず、である。そうなれば楽なのになぁ、などと思いつつ、なにげなく辺りを見回していたミーアは、ふと見つけてしまう。

 壁に誇らしげにかかっている……でっかい、狼の毛皮の外套を!

「ふむ……これは……、あの子たちの親か、祖先の毛皮、かしら……?」

 珍しい毛皮を見つけてしまったミーアは、思わずモフモフっと撫でてみて……、

「ほう、これは……」

 その極上の手触りに、うなる。優しく手を受け止める、モッコモコの感触がなんとも……なんとも、気持ちよくって!

 余談だが、ミーアは帝国の姫なのである。嘘のような本当の話である。

 だから、基本的にミーア自身は節制に努めてはいるものの、身の回りには高級なものが割と溢れている。そして、高級なものというのは、えてして、もこもこ、ふわふわしているものなのである。絨毯や毛布など、もこもこ肌触りの良いものが多く……そして、それに慣れているミーアは、手触りの良い、モコフワが割と好きだったりする。

「ふむ……」

 ミーアは、辺りをキョロキョロ見回しつつ、

「これは、慧馬さんの家宝かもしれませんわね。おいそれとは触れない……とはいえ? まぁ、別に注意もされておりませんし? ちょっと包まるぐらいならば、怒られませんわよね……うん」

 などとつぶやきつつ、いそいそと外套を手に取った。

「ふふふ、これは……。なかなかの着心地。それに、なんだか、狼になったような気分になって、ちょっぴり面白いですわ」

 これで寝たら、さぞかしいい気持ちで眠れるだろうなぁ……、などとミーアが床に横になりかけた、まさにその時だった。

 こん、こん……と。小屋の扉をノックする音が、響いた……。

「あら? 早かったですわね、アンヌ」

 この格好で出たら、びっくりするかな? などと、お茶目ないたずら心を発揮しつつ、ミーアは、無警戒にドアを開けた。

 大きな油断が……あったのだ。

 小屋の周りには護衛の兵士たちがいること……それを率いているのが帝国最強のディオン・アライアと、帝国の叡智の知恵袋、ルードヴィッヒ・ヒューイットという、最強の布陣だったこと。

 それらに加え、目まぐるしく移り変わる状況に、ミーアの頭は、すっかり疲労していたのだ。

 危険などないと、勝手に思い込んでいたのだ。

 そして……実はその認識は、ある意味では正しく……ある意味では間違っていた!

「やぁ。ミーア、夜分にすまな……い?」

 戸口に立っていたのは、アベルだった。

 彼は、狼の毛皮をモッフモフ着込んで、ニッコニコ顔で迎えに出てきたミーアに、きょとんと首を傾げた。

「ええと……」

「あっ、ああ、アベル? ど、どうしましたの? こんな時間に!?」

 想定外の訪問に、思わず声が上ずるミーアであったが、直後、シュシュっと自らの格好を確認。毛皮のモフモフにご満悦な自身の、ちょっぴり恥ずかしい姿を発見する! 

 見られてはいけない姿の自分が、そこにはいた。

「もしかして、寒いのかな?」

「ちっ、違いますわ! 出来心、じゃない。ええと、そう。狼使いの狼の鼻を誤魔化すために使えないかな、と思っただけのことですわ。別に、毛皮に包まれてのんびり寝たら気持ちいいだろうな、とか、そんなこと、全然思ってませんわ!」

「そうなのか……」

 アベルは、ちょっぴり困ったような顔で笑みを浮かべてから、

「ああ、でも、夜は少し冷えるからちょうどよかったかもしれないな。ミーア、これから少し付き合ってもらえるだろうか?」

「え……と?」

「少し話がしたいと思ったんだけど……」

「ええ……。それは、構いませんけれど……。どうかしましたの?」

 不思議そうに首を傾げるミーアに、アベルは、悪戯っぽい笑みを浮かべて、

「大した理由はないんだ。ただ、今夜は月が綺麗だから。少し、見ながら話がしたいと思っただけだよ」

「あら? そうなんですの?」

 それは、つまり、デートのお誘いというものではないだろうか……?

 気付いたミーアは……少々、昂ぶった!

「ふふふ、月を見ながらのお散歩、素敵ですわね! とても素晴らしいですわ!」

「まぁ、護衛付きだから、甘い言葉を囁いたりはできないだろうけどね」

 冗談めかして、肩をすくめるアベルに、ミーアは……。

「ふむ……」

 何事か、考えるように腕組みした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アベルくんはいつもながら守られるヒロインボジション 本人が一番気にしていそうですが、 お孫さんの為にももうちょっと頑張って。 というかベルの為に頑張るアベルくんも見たいです [一言] 最…
[一言] 更新お疲れ様です。 しかし、作者様でさえ確認の為に一言入れておかないと忘れてしまう設定でしたね。帝国の姫様は毛皮にくるまるかなぁ? ゴロゴロしている時に見つかる運のなさもww
[良い点] >>余談だが、ミーアは帝国の姫なのである。嘘のような本当の話である。 たまに書いておかないと忘れてしまう方がいるかもしれませんしね。 思えば長いこと帝国に帰っていませんからね。 帝国内で…
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