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第百四十四話 帝国最強と剣聖茸騎士

ギミマティアス→ギミマフィアス に変更。ミーアの父マティアスと名前が被るので……。

皇帝陛下の名前を忘れてたわけじゃないよ!

 ミーアは馬龍と相談することしばし、すぐさま、騎馬王国行きを決めてしまった。

 剛毅果断なその姿勢に、ルードヴィッヒは改めて感銘を受けつつ、その決定に従って粛々と準備を進めた。

 もともと、短い時間ながら立ち寄る予定ではあったのだが、これは少し長引くかもしれない。

「いやはや、次は騎馬王国に行く羽目になるとはね。さて、うちの姫さんは、どう落としどころを見つけるつもりなのかね?」

 呆れた様子で肩をすくめるディオンに、ルードヴィッヒは苦笑した。

「どうだろうな。あの方は、あまり我々にお心を明かしてくださらないからな。ただ……、たしかに、騎馬王国が不安定になるのは我が帝国にとって、いや、ミーアさまの構想にとって、あまり良いことではない」

 ミーアの壮大なる構想ミーアネット。その実現のために、騎馬王国は重要な位置にあった。ヴェールガとサンクランド、さらには、レムノとの間に位置するこの国は、言ってしまえば、大きな緩衝地帯といえた。

 国境の概念がおおらかな彼らが支配することで、草原地帯には一定の平和と治安が確保されているといっても過言ではなかった。レムノ王国にしろ、サンクランド王国にしろ、騎馬王国に接する地域に住む人々にとっては、彼らは近しい隣人である。

 また、草原を移動しながら暮らす彼らにとって、大規模な侵攻ならばともかく、軽度の国境侵犯など取るに足らないもの。自分たちの飼う動物たちが勝手に国を越えて行ってしまうことだってある。だから、お互い様だし、むしろ草原は草原。どこかに線が引かれているわけでもなし。

 細かく国と国とを分かつ線引きは、あまり重要なものとは考えないのだ。

 これで、もしも彼らがいなければ、レムノ王国とサンクランド王国との間には少なからぬ鍔迫り合いが起きていたはずだ。軍事力を伸ばしつつある国が隣国であったなら、きっとサンクランドは放ってはおかなかっただろう。

 一方で、レムノ王国としても、サンクランドの力を削ぎたいところ。なにかにつけて、ちょっかいをかけたであろうことは、想像に難くない。

 ところが、この騎馬王国が間に入ることで、そうしたことは、ほとんど起きていなかった。彼らの頭を飛び越えて戦端を開くことはあり得ないし、彼らの騎馬戦力は決して侮れるものではなかったからだ。

「騎馬王国の不安定化は場合によっては、大陸全体の安定を崩すことになるかもしれない。彼らの力が衰えれば、サンクランド、ヴェールガ、レムノを結ぶ巡礼街道の治安も悪化するだろうし、そうなれば商隊の維持にも支障をきたす。それは混沌の蛇の喜びそうな状況じゃないか?」

「もしも、姫さんが国家間の食糧供給を円滑に行おうと思っているなら、放置することはできないか。まぁ、姫さんならそうだろうけど、さて、どうするつもりなのやら……」

 それから、何事か思いついたのか、ディオンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「あるいは、騎馬王国の美味しいものを食べることしか、考えていなかったりしてね……」

「ははは。まぁ、当初の目的は羊のバターだったからな。ミーアさまのことだから、そのついでに、今回のトラブルも解決してしまおうなどと思っているかもしれないな」

 ディオンの冗談に軽口を返すルードヴィッヒ。そうして、二人の男たちは、笑みを交し合う。それは、かつて帝国の中央貴族たちに使われていたころには決して浮かべえなかった、朗らかな笑みだった。


 さて、ルードヴィッヒと別れた後、ディオンが向かったのは、盗賊の少女、慧馬を閉じ込めている馬車だった。

 彼女は今、皇女専属近衛隊二名の監視下に置かれていた。

「異常はないか?」

「これは……、ディオン隊長……いや、ディオン殿」

「ははは。まぁ、どっちでもいいんだけどね。それで、変わりはないかな?」

「はい。特に逃げるそぶりもなく、眠っているようです」

「へぇ。それはなかなか、肝が太いな」

 感心した様子で頷いてから、不意にディオンは視線を転じた。

 ガシャリ、ガシャリ、と重たい金属音を立てて近づいてくる者がいたからだ。

 現れたのは、レムノ王国唯一の護衛騎士、ギミマフィアスだった。

 彼は、ディオンのほうに顔を向けると、軽く手を挙げながらやってきた。

「精が出ますな。ディオン・アライア殿」

「ギミマフィアス殿。このような場所に、なにか?」

 今回の旅は、ティアムーン帝国の兵が中心になって護衛の人員を分担している。そして、ギミマフィアスもその警備計画の中に組み込まれてはいたが……。年齢のこともあって、できるだけ、アベルのそばに配置してあった。

 ギミマフィアスは、頭をひたひた、と叩きながら、

「いや、なに。万に一つも賊に逃げられてはいけないと思いましてな。どれ、吾輩も一つ監視に名乗り出ようではないか、と参上仕った次第。それに、貴殿も姫殿下の護衛でお忙しいのではないか、と」

「お気遣いには及ばないさ。姫殿下の周りは、近衛隊が固めてるしね。それに、貴国の王子殿下もそばについていてくれている」

 現在、ミーアと一緒にいるのは、ラフィーナやアベル、さらに、シュトリナなどだ。

 いわば要人が一か所に集まっている形である。自然、近衛の兵力も、そちらに集中しているし、騎馬王国の者たちも、彼らのところを重点的に守るだろう。

 であれば……、むしろ危険なのは、こちらのほうだとディオンの直感が告げていた。

 今、命を狙われそうなのは、慧馬という盗賊の少女のほうだ、と。

「ギミマフィアス殿も、アベル殿下の護衛で忙しかろう。ここは、僕に任せて、アベル殿下の守りに回っていただけないだろうか」

「なるほど……、そうですな。であれば、ここは帝国最強の騎士殿にお任せすることにいたしましょう」

 ギミマフィアスは、深々と頷いて、

「しかし、貴国のミーア姫殿下は、ずいぶんと変わった方ですな。まさか、いきなり盗賊とテーブルを囲もうとは……」

「あはは。うん、それは、どうも否定の余地はなさそうだね」

 答えつつも、ディオンはじっくりと観察していた。ギミマフィアスの一挙手一投足に視線を送り、内心で舌を巻く。

 ――驚いたな。さすがはレムノの剣聖。不意打ちで斬り殺すヴィジョンが浮かんでこないな。どう斬りかかっても捌かれてしまいそうだ。

 普通に戦ったら、金属の鎧に刃を当てることも難儀しそうだ、と、ディオンの直感が告げていた。もしも、戦うことにでもなったらさぞかし…………楽しそうだ!

 そんな彼の内心を知ってか知らずか、ギミマフィアスは、特に気負った様子もなく、

「それでは、この場のことは任せましたぞ、ディオン殿」

 深々と頭を下げて去っていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ディオンさん…正解!(笑) 強者にワクワクする辺りやっぱり根っからの戦士ですなぁー。
[一言] 名前が被る。そんな時こそミドルネーム先生の出番ですよ!
[一言] ディオン隊長がここまで人の強さを認めるの初めてかな?
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