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第百三十一話 サスペンスでホラーな目覚めとは程遠い、ミーアベルの目覚め

「ん……うん……?」

 朝、柔らかな光を受けて、ベルは静かに目を覚ました。

「朝……?」

 もにゅもにゅ、と口を動かしつつ、大きく伸びをしようとして……気付く。

 なんだか、口の周りがちょっぴり濡れているような……。

 それから、ベルは使っていた枕を見て……発見する。よだれの跡を!

『あなたは、あの方の血を引く者。その誇り高き名を抱いて生きなさい』

 頭の中、懐かしい言葉が響いた気がした。

「エリス母さま、アンヌ母さま……」

 育ての母である二人の女性たちから受け継いだもの、その誇りを胸にベルは……、シュシュッと枕を裏返した。

 速やかに証拠隠滅をして、ふうっと一息。

 それから、改めて隣を見る。と、ベルが起きたからだろうか。毛布がずり下がってしまったために、シュトリナが、寒そうにきゅっと体を丸めていた。

 ベルは、そっとベッドから降りると、シュトリナに毛布を掛けなおした。

 そうして……気付く。

「あれ? ミーアお姉さまがいない……」

 ベッドの真ん中近くにいたはずのミーアの姿が、どこにもなかった。

「朝のお散歩かな……?」

 小さく首を傾げつつ、ベルはうーん、と唸った。

「サンクランドの朝の街をお散歩……うん。楽しいかもしれない」

 帝室の姫として、他国の街を見学することは有意義だとかなんだとか……、適当な理屈を頭の中でこねつつ、ベルはさっさと着替えると、部屋を出て行った。

 ……ベルは気付かなかったのだ。

 ベッドとベッドの合間……、その小さな隙間からかすかに聞こえる……、

「う……ううん」

 という、悪夢にうなされるような声に。


 宿を出た途端、早朝の爽やかな風が吹いてきた。少しだけ冷たい風に、ベルは目覚めの街の匂いを感じる。

「ううん……、気持ちいい」

 大きく伸びをして、胸いっぱいに空気を吸うと……、古い記憶が甦ってきた。

 新月地区に隠れ住んでいた時、ベルは、この時間が好きだった。

 帝国の叡智が愛した町……新月地区。活気あふれるその町のあちこちが目覚め、動き出す……そんな時間は、いつだってベルの胸をワクワクとときめかせたのだ。

 窓からこっそり外の景色を見ていると、アンヌ母さまが朝ごはんができたと呼びに来て、夜遅くまで執筆していたエリス母さまが、眠そうな目をこすりながら「おはよう」と優しく言ってくれて……。

 そんな、大好きな時間を、つい思い出してしまって……。

「エリス母さま……アンヌ母さま……」

 ちょっぴり、切なくなってしまったベルが、こしこし、と目元をこすっていると……、

「ん? 君は……」

 誰かが声をかけてきた。

 ぼんやりと滲んだ目を、そちらに向けて……、瞬間、ベルのセンチメンタルは消し飛んだ!

「てっ、天秤……、じゃない。シオン王子? お、おはようございます」

「ああ、おはよう。ベル嬢。こんなところで、どうかしたのかな?」

 サンクランド王国の王子、シオン・ソール・サンクランドとその従者キースウッドがそこに立っていた。

 朝日を受けて、柔らかに輝く白銀の髪、優しげな光を湛える瞳に、ベルは、ふわぁ、っと見惚れてしまう。が……、すぐに正気に戻って、笑みを浮かべた。

「実は、少し町をたん……見学しようと思ってました」

 そのベルの答えに、シオンは、面白そうに笑った。

「そうか。町を探検か。なるほど、たしかに。町があったら探検したくなるな」

 明るい笑みを浮かべるシオンに、すまし顔のキースウッドが近づいて……、

「どうでしょう? せっかくの機会ですし、シオン殿下が町を案内して差し上げては……」

 キースウッドはそう言ってから、チラリ、とベルのほうを見た。それから、シオンに肩をすくめて見せる。

「町を探検した先輩として、いろいろ案内してあげるのもよろしいのではないですか?」

 キースウッドの言葉に、シオンは、ふむと頷いた。

「なるほど。まぁ、どちらにしろ町を見て回ろうと思っていたし、それもいいかもしれないな」

 そんなシオンに、ベルは思わず目を見開いた。

 ――てっ、天秤王と早朝デートっ!? ふわぁ! さすが、キースウッドさん! 気が利いてます!

 などと、心の中で大絶賛するベルは知らない。

 昨夜、臆することなく城の中を探検してのけた蛮勇の姫を、キースウッドが警戒していただけだということ。

『このお姫さんは、ミーア姫殿下以上に危険だぞ。ミーア姫殿下も割と平気で危険に突っ込んでいかれる方だけど、この子の場合は、無意識のうちに危険に踏み込むタイプっぽいし……、きっと開放市場あたりの少し治安が悪いところにも平気で入っていくに違いない。一人にしたら危険だ!』

 などと……最大級の警戒をしていることなど……まったくもって知らないベルである。

 もしも、知っていたら、いくらベルでも、そう手放しには喜べな……。

 ――うふふ、キースウッドさんが何を考えてるのか知りませんけど、どうでもいいです。天秤王と、忠臣キースウッドとのデート! うふふ、楽しみ! ああ、楽しみです!

 キースウッドの思惑など知ったこっちゃない、ウッキウキのベルであった。


 一方、その頃ミーアは……、

「あ……あら? ここは……? 変ですわね? 体が動かない……。それに、とても暗い……。こっ、これは、まさかっ? わたくし、寝ている間に賊に誘拐されたのではっ!?」

 ベッドに挟まって動けないという……、ちょっぴりサスペンスな目覚め方をしてしまい……、

「だっ、誰かおりませんの? あ、アンヌ? アンヌぅ……」

 と……、ベッドの間からか細い声が聞こえてくるという……ちょっぴりホラーな目覚めを周りの人たちに提供してしまったのだが……。

 幸いなことにベルはウッキウキお散歩中だったので、お祖母ちゃんの名誉は守られたのだった。よかったね!


ミーアPCの起動には、今しばらくの時が必要なようです

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― 新着の感想 ―
[良い点] アンヌ、アンヌぅ…が好き
[一言] お祖母ちゃんの名誉は守られたかー。良かっなー。…………守られたか?
[良い点] ギロちん「come on! ミーア!ふぎゃっ!」(※ベッドとベッドの隙間で待ち構えていたら、落ちてきたミーアの下敷きになり失敗)
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