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第百二十一話 シオンの決断2 ~…………はぇ?~

 目の前で流れていく事態に、エシャールは、諦めに近いまなざしを向けていた。

 ――ああ……兄上は、やはり、僕を処刑にはしなかった。

 帝国の叡智ミーアの仲間たちの言を受け、シオンの下した決断は、猶予を与えるという、考えられる限り、最大限の温情を持ったものだった。

 完璧な兄の慈悲により、自らの命が長らえたこと……死の恐怖とは縁遠い少年には、その思いやりすら、みじめに感じられた。

 ――兄上は……、ご自分の命を狙った僕にすら、温情をかけるのか……。

 その寛容さの前に、自身の狭隘な心が露になるようで、敗北感は募るばかり。

 エシャールの体を縛る太い鎖は、容易に解けることはなく……、さながら呪いのように幼い魂を蝕み続けていた。

 その時だった。

「失礼いたします。アベル王子にお越しいただきました」

 そんな声が聞こえて、エシャールは顔を上げた。

 部屋に入ってきたのは、兄の友人であるという、レムノ王国の第二王子、アベルだった。

 かつて、一度会ったことがあるというアベルのことを、エシャールは思い出していた。

 ――たしか、兄上と剣術の手合わせをしていたことがあったかな……。こてんぱんに負けていたと思ったけど、それでも兄と友だちになるなんて……。いったい、どういう人なんだろう……。

 などと、少しだけ彼に興味が沸いてくるエシャールである。

 部屋に入ってきたアベルは、まず、エイブラムのほうを見て、ホッと安堵の息を吐く。

「エイブラム陛下。ご無事でなによりです。先ほどは肝を冷やしましたよ」

「アベル王子、心配をおかけして申し訳ない。このような醜態を晒すこと、遺憾に思う」

「なにをおっしゃいますか。陛下は大陸にとって欠かすことのできぬ方。どうぞ、そのようなことはお気になさらず、ご静養ください」

 それから、アベルはシオンのほうに目を向けて、

「ところで、ボクはなぜ、ここに呼ばれたんだろう?」

 それは、エシャールも疑問だった。話の流れの中で、アベル王子を呼ぶ理由がなかったからだ。

「ああ。わざわざすまない。実は君に、折り入ってお願いしたいことがあるんだ」

 シオンは、そう言って頭を下げる。

「ほう。なんだろう、ボクにできることならいいのだが……」

 首を傾げるアベルにシオンは言った。

「君にしか頼めないことなんだ。実は、弟のエシャールが国を離れることになってね」

「……そうなのかい?」

 アベルはエシャールのほうに、チラリと視線を向けて、かすかに目を細めた。

「それは、また、急なことだね」

「そうなんだ。それで、俺としては、一つ、(はなむけ)をやりたいと思ってな」

「ほう……、それは?」

 不思議そうな顔をするアベル。それには、エシャールも同意するところだった。

 いったい、兄はなにをしようというのか……。少し不安になりつつ、シオンの横顔を見つめる。っと、その視線に気付いたのか、シオンが振り向いた。

「エシャール、お前が、これから先、歩みを進めるのに、知っておいてもらいたいことがある。それを今から見せたいと思う」

 それから、シオンはアベルに向き直り……、静かな口調で言った。

「アベル・レムノ、君に剣の手合わせを願いたい」

 っと、その途中で言葉を切って、シオンは首を振った。

「手合わせ……、いや、違うな。俺と……、決闘してもらいたいんだ」

 姿勢を正し、胸に手を当てて、シオンは続ける。

「アベル・レムノ、俺は君に決闘を申し込む。帝国の叡智、ミーア・ルーナ・ティアムーンを懸けて」

 室内に、しん、と沈黙が広がる。それを、

「…………はぇ?」

 空気を読まずに破った、その間の抜けた声が誰のものかは定かではないが……。その気持ちは、エシャールにもよくわかった。

 ――兄上は、いったい、なにを考えているんだ!?

「それは、本気なのかい?」

 シオンからの挑戦を受け、アベルは一瞬、驚いたように息を呑んでから……、

「君がそう言うからには、本気なんだろうね? もしも、冗談で言っているなら許さないが……」

「冗談でこんなことは言わないさ」

 あくまでも生真面目な顔で、シオンが答える。

「そうか……。その条件をボクに突きつけるのであれば……、ボクとしても全身全霊をかけて相手をせざるを得ないが……」

「もちろんだとも。楽しみだ。俺も、すべてをぶつけさせてもらう」

 シオンは、彼らしくもない、獰猛な笑みを浮かべた。

「もう、遠慮するのはやめにしたんだ。アベル。俺も、自分の心に素直になることにするよ」

「そうか。それは、待った甲斐があったというものだ」

 そうして、アベルもまた、笑みを浮かべた。

「あ、兄上……、これはどういうことなのですか?」

 かろうじて、そう疑問を口にするエシャールに、シオンは微笑みを浮かべるのみ。

「言っただろう? これは、お前への贐だ、と。しっかりと、その目に刻み込め」

 それから、シオンは、ランプロン伯のほうに顔を向けた。

「会場でも事情を説明する必要があるだろう。俺が直接しよう。ランプロン伯は、先に行って状況を整えてきてもらいたい」

「御意に。殿下……。しかし、その……剣術の手合わせというのは……」

「説明の後にしよう。それでいいか?」

 問いかけに、アベルは神妙な顔で頷いた。

「ああ、構わない。心の準備はいつでもできているからね」

 そんな彼らのやり取りを見て、

「…………はぇ?」

 再び、そんな声が上がるが……。それが、誰のものかは、エシャールにはわからなかった。


今週はミーアの登場が若干少ないかもしれません。

先週でエネルギーを使い果たして休養中です……。


※追記

あああ、誤解させてしまい申し訳ありません。

休養中なのはミーアです。作者元気です!w

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっという間に500話に到達しました……! 追い着いてしまったら寂しいんだろうな……。 1話2~3分で読めるので、サクサクと楽しませていただいています。 もちろん、作者様は何時間、何日も手…
[気になる点] 前々からちょっと気になってたけど 「はぇ(?)」 ポンコツ姫にとってはマヌ可愛い、お似合いの口癖?で いくら使ってもいいと思うけど 他の色んなキャラも、意表を突かれた時なんかにたま…
[一言] >「アベル・レムノ、俺は君に決闘を申し込む。帝国の叡智、ミーア・ルーナ・ティアムーンを懸けて」 サンクランド貴族~町人・商人~ティアムーン貴族 マティアス・ルーナ・ティアムーン「決闘  …
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