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第百十二話 ミーアベル、城の中をたん……見学する!

 さて……、時間は少し巻き戻る。

「ふぅ、やれやれ……。とりあえず、今日が終われば落ち着くだろうか」

 会場の外で、ランプロン伯の警備担当、コネリーはため息を吐いた。

 帝国よりのお客人、グリーンムーン家のご令嬢を迎えてからこっち、彼は落ち着かない日々を過ごしていた。

 なにしろ、帝国の星持ち公爵令嬢(エトワーリン)といえば、彼の主であるランプロン伯爵よりも、爵位的には上である。

 それだけでも腹が痛くなってくるというのに、そのお友だちの存在が、コネリーをさらに追い詰めた。なにしろ、皇女殿下と、他の星持ち公爵令嬢までもが、同行していたのだ。

 想定外もいいところだったのだが……。

「今日のダンスパーティーが終われば、グリーンムーン家令嬢も帝国に帰るだろうし、ほかの姫君たちもお帰りになるだろう」

 そう考えると、安心するとともに、ちょっぴり寂しくもなってしまう。

「ふふふ、高貴なる姫君二人のお供で街を歩いたのも良い思い出か……」

 などと上機嫌で、顔見知りの城の兵士などとお話ししつつ、ぶらぶらしていたのだが……。

 そんな彼の視界を、不意に、とあるものが横切った。

 正直なところ、知らぬふりを決め込みたかったし、早くも胃のあたりがキリキリしてきたものの……、コネリーは己が精神力を総動員して、そちらに視線を送った。

 白金色にきらめく長い髪、それをひょこひょこ揺らしつつ、小走りに廊下を行く生物……、ご令嬢に相応しい綺麗なドレスに身を包みつつも、その仕草には、どこか、悪戯っ子のような空気がまとわりついていた。

 その少女に、コネリーは見覚えがあった。

 ――あれは……、ミーアさまの連れの少女……、確かミーアベルという名前だったか……。

 いやぁ~な予感は増すばかりだった。

 なんというか、こう、また、見たらまずいものを見てしまったような……、そんな予感がふつふつと湧いてきた。

 できれば、見なかったことにしておきたいところではあるのだが……。

「だが……、放っておくわけにもいくまい……」

 万が一、城の中で迷っているご令嬢を放っておいたとあっては、サンクランドの騎士の名折れである。女性や子どもには親切に、それこそ、正義の国の騎士にふさわしい行動である。

 ――私は、サンクランドのランプロン伯に仕える者。主の名声を汚すようなことはできん。

 っと、三度、自分に言い聞かせ、自らを励ましてから、コネリーはミーアベルに歩み寄った。

「ベルさま……」

「あっ、コネリーさん」

 声をかけると、ベルは、ぱぁっと笑みを浮かべて振り返った。その無邪気な笑みを見て、厄介者扱いしてしまったことに若干、罪悪感を刺激される。が……。

「このような、ところでなにを? もしや、迷って会場に帰れないとか……?」

「いえ。実は、お城の中をちょっと、たんけ……んがく……そう、見学させていただいていたんですけど……」

 こいつ、今、探検って言おうとしただろう! っていうか、たんけんがく、だと、探検隠せてないぞ! と、罪悪感は一瞬にして霧散する。

 無論、コネリーは大人なので、わざわざツッコミはしないわけだが……。

「そうでしたか。しかし、今は舞踏会の最中のはず。勝手にいなくなられては、みな心配するでしょう」

 コネリーは自らを落ち着けるように眉間をぐぐいっと押す。

 そうだ。よくよく考えれば、子どもとは冒険したがるものだ。こんなお城に入れたら、冒険したいのが当然……。自分もそうだったではないか……、などと思いつつも……。

 ――貴族のご令嬢も同じなのだろうか……。ううむ……。

 ついつい、悩んでしまう。

「ともかく、会場のほうに戻りましょう」

「あ、その……、実は途中で、キースウッドさんとディオン将軍を見かけて……それで追いかけていたところだったんです」

 その両名の名前を、コネリーは口の中でつぶやく。

 ディオンというのは、皇女ミーアの護衛としてついてきた男だった。

 コネリーは、決して自身を手練れだ、などとは思ったことはないが、そんな彼の目から見ても、あの男は格が違った。

 ――過日のエイブラム陛下は、剣の才にあふれた猛者であられたが、それでも、あの男には及ばないかもしれない。

 サンクランドの騎士の中で、はたして、彼に並びうる者がいるかどうか……。

 さらに、それに加えて……、

「キースウッド殿……ですか」

 シオンの従者……、否、懐刀と呼ぶに相応しい青年キースウッド。

 国王エイブラムの信頼も厚い、かの男とディオン・アライアとが、連れ立って城の中を歩いていた……。

 別に、おかしなことはないはずなのに……、なぜだろう……、妙に気になった。

 ――思えば、このベルという少女も、帝国の叡智ミーア姫が連れてきたほどの少女だ。一緒にいた四大公爵家令嬢のシュトリナさまは、たいそう賢そうなご様子であったし、あるいは、ベルさまもキースウッド殿とディオン殿の雰囲気に、なにか気になるものを感じたのかもしれない。

 まぁ、ソワソワしているベルを見ると、とてもそうは見えないわけだが……。

「ちなみに、お二人を見たのはどのあたりでしょうか?」

「えっと、あっちのほうです」

 ひょこひょこと歩いていくベル。その背中を追いかけながら、コネリーは眉を顰める。

 ――エシャール殿下の私室があるほう……か。

 なぜか、胸騒ぎは増すばかりだった。

本日、活動報告の更新をしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後になんやかんやでミーア列伝に名前がのりそうなコネリーさんというかのせてあげてっ!!w
[気になる点] 藪をつついて蛇が出てきそう
[一言] ふと思ったオヤジギャグ 「探検学」:探検家の遭難を減らすとともに、学術的・文化的に重要な遺跡・遺物等を損壊・散逸させることなく後世に残すために探検・発掘手順を体系的にまとめあげた学問。ミー…
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